イリアス
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アガメムノン、軍の士気を試す。ボイオテイアまたは「軍船の表」。3 休戦の誓い。城壁からの物見。パリスとメネラオスの一騎打。4 誓約破棄。アガメムノンの閲兵。5 ディオメデス奮戦す。6 ヘクトルとアンドロマケの語らい。7 ヘクトルとアイアスの一騎打。死体収容。8 尻切れ合戦。9 使節行。和解の嘆願。10 ドロンの巻。11 アガメムノン奮戦す。12 防壁をめぐる戦い。13 船陣脇の戦い。14 ゼウス騙し。15 船陣からの反撃。16 パトロクロスの巻。17 メネラオス奮戦す。18 武具作りの巻。19 アキレウス、怒りを収める。20 神々の戦い。21 河畔の戦い。22 ヘクトルの死。23 パトロクロスの葬送競技。24 ヘクトルの遺体引き取り。
ムーサへの祈り

ホメーロスの叙事詩は朗誦の開始において、「ムーサ(詩神)への祈り」の句が入っている。それは、話を始める契機としての重要な宣言と共に、自然な形で詩のなかに織り込まれている。『イーリアス』では、最初の行は次のようになっている。μ?νιν ?ειδε θε? Πηλη??δεω ?χιλ?ο? (ラテン文字転写:Menin aeide, thea, Pele-iadeo Achileos)

言葉の順番に意味を書くと、次のようになる。怒りを 歌ってください 女神(ムーサ)よ ペーレウスの息子であるアキレウスの(怒りを)……

ホメーロスの劇的構成というのは、この最初の一行より始まっており、なぜアキレウスが怒っているのかという聴衆の興味を引きつけた後、できごとの次第を息も継がせぬ緊迫感で展開する。
ポイボス・アポローンの銀弓

先の戦いで、アカイア勢(ギリシア軍)はトロイア側にささやかな勝利を収め、戦利品を手に入れた。しかし、その戦利品のなかには、光明神ポイボス・アポローン神官であるクリューセースの娘クリューセーイスもまた含まれていた。戦闘の混乱のなかでアカイア勢に捕らわれた娘を返して貰おうと、神官クリューセースはアカイア軍の陣地を貢物を携え訪れるが、傲ったアカイア勢はクリューセースを侮辱する。

目的を果たせず、海辺を一人戻るクリューセースは、自らが仕える神アポローンに祈り、「アカイア軍に報いを」と求める。ムーサの言葉は劇的に転回し、クリューセースがこう祈るや、オリュンポスの高みより、ポイボス・アポローンが銀弓を手に空を飛び、アカイア軍の陣地の上空に至るや、数知れぬ矢を射かけ、アカイア軍陣地は、神の送る疫病に悲鳴をあげて倒れる兵士たちの修羅場と変ずる。

しかし、雄壮なアポローンの活躍を活写した後、なお、なぜアキレウスは怒っているのか、その理由は不明である。こうして、詩はさらに続いて行く。
物語のあらすじ

翻って、このようにアキレウスが怒りを抱いたというのは、一体、戦いのどのような時点であったのか。それは、パリス(イーリオス王プリアモスの王子)に奪われたヘレネーを取り戻すべく、ヘレネーの夫メネラーオスをはじめとするアカイア族(ギリシア勢)がイーリオスに攻め寄せてから十年の歳月が流れたときのことであった。

ギリシア勢はメネラーオスの兄でミュケーナイ王のアガメムノーンの指揮の下で戦い、イーリオス勢はプリアモスの長子ヘクトールの指揮の下に戦っていた。アキレウスは、友人パトロクロスと共に、ミュルミドーン人たちを率いて戦いに参加していた。このような背景のなかで、神官クリューセースの神アポローンへの祈りの事件が起こったのである。
アキレウスとアガメムノーンの確執 (第1歌)

アポローンの矢による疫病の発生から十日目、アキレウスの発議により集会が持たれた。カルカースによって、アポローンの怒りを鎮める必要があるため、献策がなされた。それは、身の代なしに娘クリューセーイスを神官クリュセースに返すというものだった。クリューセーイスはアカイア勢の総帥アガメムノーンの戦利品となっていた。アガメムノーンはやむを得ず娘を解放することに同意する。

アガメムノーンは娘を失う代償を諸将に求める。それに対し、アキレウスは戦利品を分配しなおすべきでないことを主張し、「わたしには戦う義務はない。しかしあなたがた兄弟のために戦闘に参加している」と述べる。アガメムノーンは立腹し、軽率にも「われらのために戦う戦士は山ほどいる。そなたが義務で戦うというのなら、われらは汝なしでも戦うことができる」と応酬した。そして、クリューセーイスの代償として、アキレウスの戦利品であるブリーセーイスを自分のものにする。

アキレウスはアガメムノーンの仕打ちに怒り、母テティスに祈り、ゼウスがイーリオス勢の味方をすることでギリシア勢を追い詰めさせることを願う。テティスが請け合い、ゼウスに頼み込むと、ゼウスもこの願いを受け入れた。ゼウスの妻ヘーラーは、ゼウスがテティスの願い通りイーリオス勢の味方をするつもりではないかと気付き、ゼウスを難詰したが、息子ヘーパイストスのとりなしで、とりあえず怒りを納めた。

アキレウスはその日以降、集会にも出ず、戦闘にも参加しなくなった。こうしてアキレウスの怒りから始まり、『イーリアス』は劇的な展開において物語を繰り広げて行く。
総攻撃の開始 (第2歌)

ゼウスは、テティスの願いをどのように叶えるのがよいかを考え、ギリシア勢の総大将アガメムノーンを夢でまどわすことにした。アガメムノーンは、ネストールが「オリュムポスの神々は皆ギリシア勢の味方をすることになったから、全軍で攻め寄せればイーリオスを攻め落とせる」と説くところを夢に見た。目が覚めたアガメムノーンは、すぐにでもイーリオスを陥落させることができると思い込み、総攻撃を決意する。しかしゼウスは、ギリシア勢を劣勢に追い込み、アガメムノーンに、アキレウスを怒らせたことを後悔させることが目的だったのである。

ギリシア勢が美々しく隊伍を整えると、イーリオス勢も攻撃準備を完了した。両軍は、まさに激突しようとしていた。
パリスとメネラーオスの一騎討ち (第3,4歌)

このときパリスは軍勢の先頭に立ち、「誰でもいいから俺と勝負しろ」と言った。メネラーオスは、仇敵の姿を見るや、喜び勇んで飛び出してきた。しかしパリスはメネラーオスを見ると怖気づき、逃げ出してしまった。これを見たヘクトールは、イーリオスの災厄の種であるパリスの不甲斐なさをなじり、「貴様のような格好ばかりの奴は、さっさとメネラーオスに殺されてしまえばよかったのだ」と責めた。

するとパリスは殊勝にも「私とメネラーオスで一騎討ちをし、勝ったほうがヘレネーと奪った財宝を取ることにしたい」と申し出た。ヘクトールは喜び、ギリシア勢にこの話を申し込んだ。アガメムノーンもこの話を呑み、両軍の戦士が武装をはずして見守る中、両者が一騎討ちを行うことになった。

対峙するパリスとメネラーオス。双方が槍を投げるが、両者共にこれを避けた。次にメネラーオスが剣を抜いて切りかかると、メネラーオスの剣はパリスの兜にあたって砕けた。パリスがくらくらしているところを、メネラーオスが兜を掴んで自軍に引いていこうとした。するとアプロディーテーが兜の紐を切ってパリスの窮状を救った。メネラーオスの手には兜だけが残った。そしてなおも追いすがるメネラーオスから守るために、濃い霧でパリスを隠し、イーリオスに退却させた。

メネラーオスは姿を隠したパリスを探すが、見つけることができない。そこでアガメムノーンはメネラーオスが勝ったとして、ヘレネーと財宝の引渡しをイーリオス勢に申し入れた。

ヘクトールは目の前の出来事に青ざめたものの、誓い通りに戦いの結果を尊重しようとした。


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