イスラームの書法
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イスラームは東方へも拡大し、ペルシア人ペルシア語の表記にアラビア文字を用いるようになった。ペルシア人の書道への貢献はタアリーク体(ドイツ語版)およびナスタアリーク体と呼ばれる書体である。これらはきわめて曲線的で流れるような書体である。水平方向の筆遣いが極端に長く、垂直方向の線が一般的な左方向ではなく、右方向へと曲げられることもある点が特徴となる。ナスタアリーク体は特に流麗な書体である。またペルシア人の考案によるものにはシェキャステ体(英語版)もある。シェキャステとは「崩された」という意味で、前の文字が後ろにつながるというアラビア文字の規則を破っている。

ディーワーニー体(英語版)は、オスマン帝国で16世紀から17世紀初期にかけて成立した筆写体である。これはフサーム・ルーミーによって考案され、スレイマン1世(1520-1566)のもと人気を博した。この書体は装飾性と読みやすさを兼ね備えており、文字に使われる線の複雑さと語中の文字の並列的な接近が特徴。

ディーワーニー体のバリエーションとしてジャリー・ディーワーニー体(アラビア語版)があるが、これは大量の装飾的記号が特徴的。

実用的には、21世紀初頭現在、もっとも一般的に用いられるのがルクア体である。書法は単純簡潔であり、振幅は小さく筆先の移動量は少ないため、手早く、そして読み易い字を書ける。たいていの子供たちは、まずナスフ体を習い、進級すると、ナスフ体からのステップアップとしてルクア体を習う。

イスラーム書家の従来の器具はカラム(: qalam)という葦の茎を乾燥させたペンである。カラーインクを用いることも多いが、大きく色合いの異なるさまざまな色を選び出す。大きなストロークと相まって、見る者にダイナミックな印象を与える。

アラビア書道は西洋世界とは異なり廃れることはなかった。アラビア文字はラテン文字と違い筆写体が本来の姿である。クルアーンやハディース(預言者言行録)、あるいは単なることわざの章句などを書き留めるが、その際は鑑賞されることを意識した目を見張るような構成を用いた作品として仕上げられ、判読できないほどのものになってしまうことも多い。その構図は多くの場合、著しく抽象的なものであるが、時に動物の姿をかたどることもある。現代、この分野での名匠にハサン・マスウーディー(英語版)がいる。

中国ではスィーニー体という書法が考案された。現在における有名な書家はハーッジー・ヌールッディーン・米廣仁(英語版)(: 努?丁・米广江)である。

2021年、中東北アフリカの16カ国のアラビア書道[1]トルコの伝統イスラーム書道[2]イランの伝統書道を守る国家プログラム[3]ユネスコ無形文化遺産(イランの物件は「ベスト・プラクティス」に該当)にそれぞれ登録された。
作品「バスマラ」。「慈悲深く慈愛あまねき神の御名において」という決まり文句

イスラーム世界の諸芸術のなかでも最もイスラーム的な芸術たる書道は、象徴としての側面を持っている。最も多用されるのは「アッラーフ」(????)、「ムハンマド」(????)などの語や「バスマラ」(?????)の句などである。

また、微少な文字で大きな文字 ⇒[1]を表現したり、他のものの形を表現したりするマイクログラフィー技法も使われる。語を組み合わせての擬人化による祈る人 ⇒[2](顔の部分は神秘主義における理想的人間たるアリーの名で書かれている)や、動物文(シーア派関連の図像がほとんどでライオン ⇒[3]やアリーの愛馬ドゥルドゥル ⇒[4]、コウノトリ ⇒[5]、クルアーンのフドゥードという鳥 ⇒[6]/ ⇒[7])や、アリーの剣「ズー・アル=フィカール」、モスク、船(アラビア語文法で英語のandを表すアラビア文字ワーウで構成される。これは神秘的合一を象徴する)などの無生物もモチーフとされる。カタールの放送局「アルジャジーラ」のロゴも、ディーワーニー体で雫状にまとめた「 ??????? 」の文字である。

これらの作品は17世紀以降のトルコペルシアインドなどのイスラーム神秘主義との関連を想起させるもので、以上のようなモチーフを多くの一流書家も好んで書いた。

書法の教授法においては描く文字を視覚化するために比喩的なイメージが用いられた。たとえばナスタアリーク体における語頭のハー(ペルシア語ではヘー)は「ヘー・ド・チェシュメ」(he' do cheshm)と呼ばれるがこれは「二ッ目のヘー」という意味である。

文学やの文字を自然の事物に見立てて書き出す技法はアッバース朝期にさかのぼるものである。
脚注^ “UNESCO - Arabic calligraphy: knowledge, skills and practices” (英語). ich.unesco.org. 2023年1月25日閲覧。
^ “UNESCO - Husn-i Hat, traditional calligraphy in Islamic art in Turkey” (英語). ich.unesco.org. 2023年1月25日閲覧。
^ “UNESCO - National programme to safeguard the traditional art of calligraphy in Iran” (英語). ich.unesco.org. 2023年1月25日閲覧。

関連項目.mw-parser-output .side-box{margin:4px 0;box-sizing:border-box;border:1px solid #aaa;font-size:88%;line-height:1.25em;background-color:#f9f9f9;display:flow-root}.mw-parser-output .side-box-abovebelow,.mw-parser-output .side-box-text{padding:0.25em 0.9em}.mw-parser-output .side-box-image{padding:2px 0 2px 0.9em;text-align:center}.mw-parser-output .side-box-imageright{padding:2px 0.9em 2px 0;text-align:center}@media(min-width:500px){.mw-parser-output .side-box-flex{display:flex;align-items:center}.mw-parser-output .side-box-text{flex:1}}@media(min-width:720px){.mw-parser-output .side-box{width:238px}.mw-parser-output .side-box-right{clear:right;float:right;margin-left:1em}.mw-parser-output .side-box-left{margin-right:1em}}ウィキメディア・コモンズには、イスラームの書法に関連するメディアがあります。ポータル イスラームプロジェクト 書体

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