本来ジャーヒリーヤとは、イスラームにとっての「無知」 ―― つまり「偶像崇拝」 ―― を指す宗教用語であり、近代以降は「野蛮」という意味にも解釈されるようになった[14]。近代におけるこの善悪二元論は、「悪」に対する戦争を煽動しており、イスラーム的であるが近代的でもある思想として、思想史に位置づけられている[15]。クトゥブの論ではイスラム教の生き方でのみ人間は他の人間への隷属から解放される。そして神の崇拝だけに専心し、神からのみ指導を受け、神の御前にだけひれ伏すようになる[16]。
実は「西洋」の中にはクトゥブが高く評価した部分もあったが、それはドイツロマン主義であり、フランツ・マルクの芸術作品(狐の絵)だった[17]。アメリカ人はその作品を一瞥しかしないため、「西洋人」が「精神的、審美的熟考」に不向きなのは明らかである、とクトゥブは結論した[17]。クトゥブによれば「西洋人」または「ユダヤ人」は、世界的な「陰謀」を企んでおり、その証拠としてクトゥブは、ロシアの偽造書『シオン賢者の議定書』を好んで引用している[18]。クトゥブの「確信」によれば(イスラム)コミュニティーを、その宗教から遠ざけようとする者は、誰もがユダヤ人の手先に違いない[18]。
そして、宗教・人種・国家といった障壁を超越しているかのような国際的な文化や共通遺産は、「世界のユダヤ民族によって企てられた策略の一つ」であり、「全世界の国家へ潜入し、邪悪な計画を永続させるための試み」であるとクトゥブは言う[18]。この「邪悪な計画」の頂点に立っているのは高利貸しであり、彼らを通じて(世界の富は)ユダヤ金融機関の手中に収められていく[18]。
こうしたイスラーム運動における「人間社会」とは、「純粋な信心」によって成り立つものであり、ドイツの国家社会主義(ナチズム)における「国家」が、「純粋人種」によって成り立つことに類似している[18]。
クトゥブによると、ジハード(努力・聖戦)の目標は「神の法[要曖昧さ回避]のみに権威を与え、人間が作った法を除去すること」だった[12]。この「宣戦布告」は、隠喩・比喩の類としてではなく文字通りに受容されねばならないとクトゥブは言い、その理由として次を挙げた[12]。これらの全ては説教や論説を通じて為されるものではない。この世で神の力を強奪し、崇拝者を奴隷にした人間は、言葉の力だけでは片付けられない[12]。
主要な組織2001年アメリカ同時多発テロ事件以降、2011年までにイスラーム過激派の攻撃を受けた国
西側の多くの国家から「イスラーム過激派」に指定された組織とその主な活動地域を以下に記す。
アルカーイダ:多国的
ユダヤ・十字軍に対する聖戦のための国際イスラム戦線:多国的
トルコ・ヒズボラ(Turkish Hezbollah、クルド・ヒズボラ):トルコ
大東方イスラム砲撃戦線(Great Eastern Islamic Raiders' Front):トルコ
アンサール・アル・イスラム(Ansar al-Islam):イラク
イラク・イスラム軍:イラク
マフディー軍:イラク
アル・アクサ殉教者旅団(Al-Aqsa Martyrs' Brigades):パレスチナ(ヨルダン川西岸地区)
ハマース:パレスチナ(ガザ地区)
イスラーム聖戦:パレスチナ・シリア