イスラム科学
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むしろ初期にはイスラーム教徒が少数派ですらあった[2]

一般的には「アラビア科学」と「イスラーム科学」は同じものだと考えられている[1]。他方で、それぞれの言葉が指す意味内容・ニュアンスが異なるとする主張もあり、たとえば、矢島 (1977) は、前者を自然科学と数学に限定する一方で、後者を哲学や歴史学、地理学も含む包括的な概念としている[2]。また、1993?2012年時点ではまだ広範な支持を得るには至っていないが、記述的な意味での「アラビア科学」ないし「イスラーム科学」(すなわち本項の主題である、「イスラーム世界に発展した科学」)を超えた特別な意味やニュアンスを「イスラーム科学」に付加する論者もいる[1][3]

英語圏では Islamic science と呼ばれることが多い[2]
歴史

イスラム帝国が形成されアラビア語が学問の言語として広い地域で使われるようになる以前の、エジプトメソポタミアといった古代オリエントの文化や古典古代ギリシャペルシアインド中国などで発展していた科学をもとに発展した。

法学神学語学文学などのアラブ人伝来の「固有の学問」があったが、これに対し、上記のようにしてイスラム世界にもたらされた学問には哲学論理学幾何学天文学医学錬金術などがあり、博物学地誌学などとともに「外来の学問」と呼ばれた。ただし、外来の学問であっても正確な知識を求めることはハディースに照らしても神の意思を知るためのイスラムに相応しい行為とされ、「固有の学問」を修める学者が「外来の学問」を兼修することはまったく珍しいことではなかった。

ムスリムの治める地域において、ムスリムを中心とする人々が科学の研究へと進み始めたのは、8世紀に成立したアッバース朝のもとであった。アッバース朝ではカリフや宮廷のワズィールたちの保護と学術振興の意思に基づいて主にギリシャ語の翻訳が始まり、特に第7代カリフマアムーンが創設した研究施設バイト・アル=ヒクマ(智恵の館)には多くの科学者が集まり、ギリシャ科学のアラビア語への翻訳が進められた。マアムーンに仕えた科学者のひとり、フワーリズミーは、インドの天文学数学を取り入れて、代数学や数理天文学に関する著作を残した。

9世紀にはこの成果がアッバース朝の隅々にまで行き渡ったアラビア語による学問のネットワークに乗せられて知識人たちに広く受け入れられ、イスラム哲学の祖として知られるキンディーのように、同時に数学、天文学、医学、論理学、哲学など様々な学問に通じた学者が多くあらわれた。

10世紀から11世紀には、アッバース朝の政治的な衰退とは裏腹に、アラビア科学は空前の発展を遂げ、プトレマイオスの天文学を改良したバッターニー、数学・天文学に通じ光学に関する重要な著書を残したイブン・アル・ハイサム、哲学と医学の分野でヨーロッパに大きな影響を与えたイブン・スィーナーらが活躍したが、14世紀から15世紀にかけてアラビア科学は廃れ、以降は科学の中心が西欧に移った。
アラビア数学詳細は「アラビア数学」を参照

特に数学の分野ではアラビア数学がもたらした成果は大きく、代数学三角法アラビア数学が開拓した分野である。また、アラビア語とともに使われていた数字は、インドから取り入れたゼロの概念を反映して、ゼロの数字をもっており、これがアラビア数字としてヨーロッパに伝わり、世界中で使われるに至った。イスラーム黄金時代に作られた、準結晶構造を模したギリフ(英語版)模様のタイル。ペンローズ・タイルを参照。
医学詳細は「ユナニ医学」を参照
光学

イブン・アル・ハイサム(ラテン名アルハゼン)はプトレマイオスが導き出した光学を徹底的に批判し分析を行った。彼は、目から光線が放出されることで視覚が生じるというプトレマイオスの理論を否定し、太陽その他の光源から放出された光が対象に反射し、それが目に入って像を結ぶという正しい理論を発見した。彼は目の精密な解剖図も著している。彼の著作『Kitab al-Manazir』(光学の書)はヨーロッパの光学の基礎となったものであり、デカルトケプラーイブン・アル・ハイサムの著作から光学を学んだ。
化学

化学の分野でもアラビア科学の果たした役割は大きい。

アラビア語の????????, al-k?miy?’(錬金術)は英語の「alchemy(錬金術)、alchemist(錬金術師)」の基になっており、「chemistry(化学)」という言葉もここから転じている。al-k?miy?’が、12世紀ヨーロッパで: ALchemia「Alchimiaアルキミア」とラテン語に翻訳されて紹介され、ヨーロッパの錬金術は、やがて17世紀科学革命を経てアラビア語の定冠詞「al」が取れて: Chimica(化学)となった。また、「アルコール」、「アルカリ」などの名称にもその痕跡を留めている。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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