イギリスの欧州連合離脱
[Wikipedia|▼Menu]
3月12日、メイ首相はEUとの再交渉の結果をまとめた協定の修正案を下院に提出するも、反対391、賛成242の大差で否決、3月29日に差し迫る離脱期限を前にしたこの否決により、ブレグジットの混迷はひときわ尚深まった[12][13][14]

3月13日、法的拘束力はもたないものの「合意なき離脱 No Deal Brexit」を拒否する動議を賛成321、反対278で可決し[15][16]、14日にはリスボン条約第50条を延期させる動議を賛成412、反対202で可決した[17][18]。3月18日、下院議長ジョン・バーコウは1604年の前例を引用しながら、3度目の協定案の採決は許可されないという見解を示した[19][20]。3月20日、欧州理事会議長ドナルド・トゥスクはメイ首相からの60日の期限延長の申し出に対して、2度に渡って否決された協定案が議会で承認された場合のみ、短い延長に応じるという 英国にとって厳しい条件を突きつけた[21][22]

3月21日、ドナルド・トゥスク議長は離脱協定が議会承認されれば5月22日、されなければ4月12日まで離脱期限を延長する旨でのEU側の合意があったと発表した。これにより、3月29日の英国EU離脱はなくなった[23]。3月25日、下院は議会が離脱交渉の主導権を握る案を賛成329、反対302で可決した。首相の提示した離脱案とは別の案が模索されることになったが、メイ首相は反発し、議会と首相の歩み寄りが焦点とみられた[24][25]。3月28日、議会によって提案された8案はいずれも過半数に及ばないまま否決され、メイ首相は自身の協定案が採決されれば、辞任する意向を伝えた[26][27][28]。3月29日、「最後のチャンス[29]」とされた3度目の離脱協定案の採択が行なわれ、反対344票、賛成286票の58票差で否決された。これにより、5月22日の離脱はなくなり、4月12日までに英国は代案をEU側に提出する必要性に迫られることとなった[30][31]。4月に入りメイ首相はEUに対して離脱の再延期を要請し[32]、4月10日、EU首脳会議で最長10月末までの離脱延期が承認された[33]。しかしメイ首相は協定案の議会承認を果たせず退陣に追い込まれ、7月24日に離脱強硬派のボリス・ジョンソン前外相が後任の首相に就任した。

ジョンソン首相は2019年10月末の離脱を目指し議会の長期休会や解散総選挙の提案などあらゆる方策を駆使したものの事態を打開できず[34][35]、期限直前の10月28日にEUは最長2020年1月末までの離脱延期を承認した[36]
離脱前時点での、その影響の予測

2016年時点で経済学者はブレグジットが中長期的に英国の一人当たりの実質所得を減少させる可能性が高い、と分析した。そして、国民投票自体が英国経済を損なった、と見た[37]。国民投票以降の影響に関する研究では、平均的な英国世帯のインフレ率上昇による年間404ポンド(およそ6万円)、およびイギリスのGDPの2 - 2.5パーセントの損失が示された[38][39][40]。ブレグジットは欧州経済領域(EEA)諸国から英国への移民を減らすと予想され、英国の高等教育および学術研究にも課題を投げかけた。英国の「離脱清算金」の問題も生じた。イギリスとEU加盟諸国との関係、さらにイギリスとEU加盟国であるアイルランドの関係も、複雑で不透明なものになった。

英国経済への実質的な影響は「ハードブレグジット」になるのか、「ソフトブレグジット」になるのかによって異なると見られていた。(離脱前から)HM財務省(英語版)による分析では、英国の経済状態を改善すると予想されるブレグジットシナリオは存在しないことが判明していた。2018年11月の財務省の出版物は、EUに留まった場合と比較してGDPの3.9%悪化を見積もった[41][42]
離脱によって現実に起きたこと

#離脱によって実際に起きた影響の節で解説。
用語解説

2016年6月23日の国民投票を契機にブレグジットに関連する専門用語が新たに英国で一般的に使用されるようになった。
ブレグジット―Brexit
「ブレグジット」
[注 1] Brexit (初期には Brixit [44]とも)は、英国を表す形容詞 "British" と退出を意味する "exit" の混成語で、英国のEU離脱を指す用語。オックスフォード英語辞典によれば、この語が初めて使用されたのは、2012年5月15日付のピーター・ワイルディングによるブログ投稿だとされている[45][46][47]。ギリシャがユーロ圏(さらにはEU)を離脱するという仮定の話題に言及して、2012年2月6日に初めて使用されたとされる "Grexit" (グレグジット)にたとえて造語された[48][49][50]。なお、英国人の一部ではexitを「イクシット」と濁らず発音する者もおり、こうした人々はBrexitも「ブレクシット」と濁らず発音する。
合意なき離脱―No Deal Brexit
イギリスとEUとの離脱交渉が合意に至らないまま離脱が起きること。この場合、EU加盟国としての立場から通商協定等のない第三国としての立場に移行するため、通商や市民権への影響が懸念される
[51][52]。→合意なきブレグジット(英語版)
ブラインド/目隠しブレグジット―Blind/Blindfold Brexit
英国が将来の貿易協定の条件を明確にしないままEUを離脱するというシナリオを説明するために2018年9月につくられた用語
[53][54]。EUと英国の交渉担当者は離脱後も2020年12月31日まで将来の貿易協定を承認しなければならず、その間英国は事実上EUの加盟国であり続けるが、議決権は持たないものとされている[55][56]
ハードブレグジットとソフトブレグジット―Hard and soft Brexit
「ハード・ブレグジット」と「ソフト・ブレグジット」はいずれも、EU離脱後の英国―EU間に見込まれる将来の関係性を説明するために報道機関がよく使用している
[57]非公式の用語である。かなり混乱してしまったBrexitに関する議論を(マスコミ流に、単純化して)整理するために、「ハード / ソフト」という単純なひと組の反意語で2分類してみせた、マスコミ用語。「ハード・ブレグジット」は「ノーディール・ブレグジット(no-deal Brexit)」 のほうを指し、通例、EUとの間で(通商その他の)取り決め (deal) がほとんど、あるいは全く用意されないまま英国がEUおよび欧州単一市場を離脱することを指し、貿易は世界貿易機関のルールに従って行われることになり、航空安全などのサービスがEUの専門機関から提供されなくなることを意味する[58]


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:362 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef