アヴァロン_(映画)
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押井は、本物の重火器・戦車T-72・戦闘ヘリコプター「ハインド」が借りられる[2]のを理由に、それも作品のためというよりは純粋にマニアとして実機に触りたかった為に、ポーランド撮影を選択したという[7]。ポーランド滞在は半年に渡り、撮影はワルシャワのほか、ヴロツワフクラクフで44日間実施された。

あらかじめ、デジタル加工するための素材として必要な画を説明するための絵コンテも全カット分用意し、パソコンで加工したイメージボードも用意した。ポーランド側のスタッフは押井の絵コンテを読み込み、「絵コンテでは通行人が1人だけだが、本当に1人でいいのか?」等世界観に入り込んだ積極的な質問をした[2]

出演する役者達とも、作品に対しての自分なりの解釈・能書きを持った上での議論を繰り返した[2]

日本では撮影部・照明部と別れているのに対し、ポーランドでは、撮影監督が画のコントラスト・ライティングのバランス等を決めていくため、実写素材がスムーズ且つ大量に撮影され撮影スケジュールの短縮にもなった[8]
CG

予算が少ないため、CGの品質はハリウッド映画には及ばないものの、使い方は非常に風変わりである。実写をCGで再現するフォトリアル路線ではなく、実写を仮想世界であるかのように作り変えるエフェクト的な方向性で用いられている。例えば、事前に撮影した俳優の皮膚の・しわ・シミ、画面の余分な色まで、作品のコンセプトに合わない要素を徹底的に排除した。キャラクターの顔そのものも、何回も合成して、望みの肌の質感・影・表情を作った[1]。質感を出すのにテクスチャマッピングが使用されたが、特定のテクスチャが有利に働くメカがあれば、努力しても目立たない映像・デザインもあり、セル画の絵具・ポスターカラーとは全くノウハウが異なり、当時は基準もなかったので、それをいかに扱うかを考えた。その上でシーンに当てる光源を考えていった[9]

「G.R.M」制作時から「フィルムで撮られた実写の大量の情報量をどう整理して、CG・アニメーション・特撮の素材を合成していくか」というのが問題になっていた。そこで押井は「情報量の差を活かしながら、1つのイメージにする方法をみんなで考えて、色を整理すればいいんじゃないか」と固めた[10]。方法論の参考例として、過去作の「紅い眼鏡/The Red Spectacles」のモノクロ映画に近い撮り方[10]樋口真嗣からの「完成画面から一旦色調を外して、均一な色のトーンを被せてしまえば、作業工程が減って全体の効率が上がる」というアイディアを採用して、押井の好んでいたラース・フォン・トリアーの「エレメント・オブ・クライム」をモチーフにした[11]

1カット毎にレイアウトでキャラクターの立ち位置を変更したり、トリミングしたりする等の合成を行った[2]

3DCGでモデリングされたメカニックの最大のメリットは「一旦モデリングされれば、そのデータを無限に使いまわすことができるから、登場シーン・カット毎に全てを書き直す手間が省け、手書きのアニメーターの手間が省ける」ことであり、焼き増し用フィルム・複製の中間段階のフィルムを使用したバンクシステムを多用することでテレビアニメシリーズの内の1エピソードに関わった演出家の手腕が問われる風潮に対して[4]、押井は「アニメファンの目が肥え始めた当時のアニメ事情を見ても、そのような手抜きは今や許されない」と直感し、実際に「メカニックの3DCGでの表現」を制作現場から要請された。デメリットは「ディテールに隅々までこだわることができるが、百万単位のポリゴンデータと容量が大きくなり、演算処理の負担が膨大となり、動かすこともままならなくなる」「腕次第で動かせる手書きと異なり、動かないものは絶対に動かせないし、一度設定表を固めてしまうとアフターフォローできない」ことであり、フルサイズで表現するためのデータ・一部分のディテールを見せるためのデータを別個に用意し、「どの部位のデータを何種類制作するか」に予算・制作現場の能力・スケジュールとバランスを取るようにした。そのために、動く過程に置ける不用意な絵柄・格好悪く映ってしまうカメラアングルをデザイン開発の段階で入念に検討した[9]。モデリングは1ケ月で完成したが、ハインドのスケール感を出すためのテクスチャ処理に悩み、実機のハインドに存在する迷彩塗装を参考にしたが、実際に合成するまでに押井は「ハインドの出番が無くなると、モデリング・デザイナーの苦労が無駄になってしまう」と不安の日々だった[7]

「幾ら完璧な実写素材を撮影しても、最終的には絵画・アニメ的な処理で画面を作りたい」という押井個人の欲望を叶えてくれたクォンテル開発の映像処理ソフトウェアである「Domino」に対して、「もう手放せない」と賞賛した[1]。1995年の『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』を参考に『マトリックス』を制作し、世界的なヒットを飛ばした後のウォシャウスキー兄弟にも、この制約を逆手に取った手法が、新しい映像表現手法として驚きを持って受け入れられた模様である。
音響

アヴァロンでのシーンはランディが担当している[12]

日本では日常でのアッシュの生活シーンを担当した。押井からは「最新技術を使っているけど、色調は古臭い。だからローテクから伸びたハイテクの様な音が欲しい」と言われ、全体的に手抜きに感じられる様な仕上がりになった[12]

アッシュが生気に溢れてイキイキとする時は喧騒が凄くて、呆けている時は音を狭くする様にし、6.1chサラウンドでもわざとモノラルに聞こえるような設計にした。必要以上の音付けはしない様に抜ける素材は抜いて、日常生活のシーンはシンプルにした。その判断は若林が務め、それを現場のスタッフ・井上・押井にチェックしてもらう様にした[12]

井上はポーランド・日本の両方の音響スタッフが録音した素材を整理し、その都度音響のプランそのものを見つめ直し、上がってきたもの以外の素材を新規で制作した。全体像の調整を行ったため、日本の映画で初めて「音響デザイナー」というクレジットが付いた[13]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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