アンフェタミン
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乱用者が増えると中毒者の入院も増加し、効能表示は取り消され製造中止し段階的に取り扱いは厳しくなったが、密造品も出回り、アゴチン、ヒロポン(メタンフェタミンの商品名)といったラベルまで貼られた[6]。1951年には覚醒剤取締法が制定される[6]

映画『バロウズの妻』の冒頭でも1944年のニューヨークの薬局でベンゼドリンを購入する場面がある。アメリカ食品医薬品局 (FDA) は1959年(昭和34年)にベンゼドリン吸入器を禁止してアンフェタミンの処方を制限したが、不法な使用が広まっていった。
能力向上用途

かつて、アメリカ空軍デキストロアンフェタミン(アデラル、デキセドリン)をパイロット刺激薬として使い、go-pills と呼んでいた。作戦後には、パイロットが眠れるようにするため no-go pill と呼ばれる抗不安薬かつ睡眠導入剤ゾルピデムまたはベンゾジアゼピン系の睡眠薬であるテマゼパム、オキサゼパム(英語版))が与えられていた。近年では、モダフィニルなどアンパキン系薬剤の発展により、デキストロアンフェタミンによる妄想症や不快感を生じさせることなく警戒能力を維持することが可能になった。

アンフェタミンは長距離トラックの運転手、建設業関係の労働者、工場作業員など、労働時間が長かったり不定期になりがちなシフト勤務者や、単調な反復作業を行う者の間でも広く使われている。このためアンフェタミンは時に「レッドネック・ドラッグ」 (redneck drug)と呼ばれる(レッドネックとは「野外で働いていて首筋が赤く日焼けしているような白人労働者」に対する蔑称)。タイでは缶詰工場の労働者に対し生産性を上げる目的で強制的にアンフェタミンを投与した事例が報告されている[11]

ホワイトカラーもまた、長時間に及ぶ過密なスケジュールの間注意力を持続させるため、あるいは学習能力を向上させるためにアンフェタミンを使うことがある。数学者エルデシュはアンフェタミンを常用しており、服用を止めた時は研究がはかどらなかったという。また、アメリカの大学生の間で「頭の良くなる薬」として乱用されている事例が報告されている[12]

戦後、アンフェタミンはスポーツの世界にも広まった。1960年(昭和35年)のローマオリンピックで、アンフェタミンを投与されたデンマークの自転車選手ヌット・エネマルク・イェンセンが競技後に死亡して以降、ドーピング防止策が進められるようになり、1974年(昭和49年)にアンフェタミンは禁止薬物に指定された。2014年現在、世界アンチ・ドーピング機関 (WADA) の「禁止表」において「興奮薬」に分類されている[13]。晩年の力道山も衰えた力を隠すために服用していたことが田鶴浜弘プロレス記者)の口から語られている(田鶴浜弘は間違えて、「アフェミン」と言っていた)。

1960年代から70年代のイギリスにおいても普及しており、モッズ文化において重要な役割を果たした。後にはパンクスによって夜通し踊り続けるために使われた。ビートルズも、デビュー前にハンブルククラブで夜通し演奏するためにアンフェタミンを服用していた。
効果

分子輸送体を開口チャネルとすることによってノルアドレナリンとドーパミンのストアを神経終末から開放する。また、シナプス小胞からセロトニンのストアを開放する。メチルフェニデートと同様、アンフェタミンはドーパミンおよびノルアドレナリンに対応するモノアミン輸送体を阻害することにより、それらの再循環を妨げる。これは再取り込み阻害作用と呼ばれ、結果としてシナプスへのドーパミン、ノルアドレナリンの蓄積を導く。

これらの複合作用によってシナプス中の神経伝達物質の濃度は急速に増加し、ニューロンにおいて対応する受容体への神経インパルスの伝達を促進する。
生理学的効果

中枢興奮作用を有する。短期的生理学的効果には食欲減退、持久力や身体能力の向上、性欲・性感の増加、不随意運動、発汗量の増加、活動亢進、神経過敏、吐き気、掻痒感、できもの・油肌、頻脈、不整脈、血圧の上昇、頭痛が挙げられる。効果が消えたあとに疲労感が現れることもしばしばある。過量はクロルプロマジンによって処置することができるとされる。

長期的(習慣的)服用、または過量による効果として振戦、不穏状態、睡眠の時間帯の変動、肌荒れ、反射亢進、過呼吸、消化器系の狭小化、免疫系の弱体化などがみられることがある。興奮期のあとに疲労・抑うつ状態が現れることもある。長期にわたって使用すると、勃起不全、心臓の障害、脳卒中、肝臓・腎臓・肺への損傷が起こることがある。吸入すると鼻腔の内部がただれることもある。
心理的効果

短期的な精神的な作用として、注意力の亢進、多幸感、集中力の増加、多弁、他者への信頼感の増大、社交性の向上、眼振、幻覚、服用後のレム睡眠の消失が起こりうる。

長期的な精神的な影響には不眠、統合失調症に類似した精神状態、攻撃性の増加(統合失調症には付随しない)、離脱症状を伴う習慣性の獲得や依存症の発症、被刺激性の増加、錯乱、パニックが挙げられる。慢性的に、あるいはかなりの長期にわたって服用すると覚醒剤精神病に陥り、妄想とパラノイアが起こるが、処方された用量を守れば可能性は低い。アンフェタミンは精神依存性が非常に強く、慢性的な服用にされる。これにより極めて速やかに耐性が獲得される。アンフェタミンからの退薬は、命に関わる症状を起こすアルコールなどに比べ困難ではないが、不快な経験を伴う。パラノイア、抑うつ、呼吸困難、不安、胃の蠕動・胃痛、嗜眠など。そのため常用者は、頻繁に退薬に失敗するが、これが耐性の獲得や依存症への陥りやすさを物語っている。


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