アンチロック・ブレーキ・システム
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日本国外の例では、1960年代に開発されたレース用のファーガソンP99(英語版)を初め、ジェンセン・FF、フォード・ゼファー(英語版)の上級モデルであるフォード・ゾディアックの試験的に開発された四輪駆動モデルに搭載されたが、この3車種以外に採用する動きはなかった。ストップ・コントロール・システムと称された別の機械式の装置をルーカス・ガーリング(英語版)が開発・販売し、一部のフォード・フィエスタ・MK.IIIに搭載している。

一方、ドイツボッシュ社では1930年代からABSを研究し続けており、1978年に初めてボッシュ社製の電子制御システムを搭載した自動車が発売される。メルセデス・ベンツ・Sクラスと大型トラックバスに搭載されたこのシステムは以前の機械式のものに比べて信頼性も高く、1980年代から徐々に市販車への搭載が広がっていった。ボッシュはその後、ナブコと合弁で日本ABS社を立ち上げ、日本の各社の自動車用ABSをOEM生産していった。その流れは現在、日本法人のボッシュ株式会社に引き継がれている。その他、アドヴィックスコンティネンタル・オートモーティブ日信工業などが国内有力メーカーである。

F1ではウィリアムズF11993年シーズン用に開発したウィリアムズ・FW15Cに採用されている。1994年シーズンアクティブサスペンショントラクションコントロールと共々ハイテク規制の対象となり、以降使用が禁止されている。

ABSは、かつては4-ESC(4輪エレクトロニックスキッドコントロールの略称としてトヨタ自動車が使用)、4WAS(4輪アンチスキッドの略称として日産自動車が使用[注釈 2])、WSP、4w-A.L.B.(4輪アンチロックブレーキの略称として本田技研工業が使用)、ファインスキッドブレーキなど、メーカーにより様々な名称が混在していたが、1990年代頃からは全メーカーがABSに呼称を統一した。今日では自動車や鉄道車両も含めABSに統一されつつある。

当初は制御回路が単純で、複数の車輪をまとめて同じ処理が行われていたが、最近では4輪それぞれに最適な処理が行われるように進化している。当初の機械式から電子式の2チャンネル・2モード・2位置オンオフ弁・速度フィードバック制御へ進化し、近年には4チャンネル・3モード・3ポジション弁・G併用フィードバック制御(EBD(電子制御ブレーキシステム)を経て、近年ではトヨタ・プリウスのような車両で、4チャンネル・マルチモード・マルチポジション弁(比例弁)・圧力併用フィードバック・個別制御といった緻密な制御システムが採用されている。

さらに、ABSをVSC(横滑り防止装置)やTRC(トラクションコントロールシステム)、パワーステアリング制御などと統合制御する「VDIM」(統合車両姿勢安定制御システム)では、例えばコーナリング中に車両が急に不安定となった状況を4輪の速度センサーとヨーレートセンサが感知し、エンジン駆動力とパワーステアリング舵角を調節するとともに、内側の車輪のみにブレーキをかけるベクタリングなど総合的に車両の安定性を高めるシステムに発展している。さらに空転を検知した車輪のみにブレーキをかけて他の車輪の駆動トルク低下を防ぐことによりリミテッドスリップデフと同様の効果を得る機構(SUBARUXモード等)も実用化されている。

レーシングカーではグループGT3のような、名目上アマチュア向けとされるカテゴリではABSが装着されることがある。

ABSの呼称が統一されていない頃は概ね30万円ほどの高価なオプションであったが徐々に価格も下落し、現在では後述の義務化もあって広く標準装備されるようになった。国土交通省は、2013年(平成25年)8月に、国連欧州経済委員会の「制動装置に係る協定規則(第13号)」と「操縦装置の配置及び識別表示等に係る協定規則(第121号))」を採用し、トラックトレーラーバスの全ての車種にABSの装着を義務化すると発表した[1]。新型車は2014年(平成26年)11月発売以降のモデルから、継続生産車も2017年(平成29年)2月以降から義務化されている。

一方、ABSとVSC(横滑り防止装置)やTRC(トラクションコントロールシステム)などとの統合的な制御が一般的になったために、サーキット走行などでは電子的な介入のために成績が伸びないといった欠点も出てきている。例えばサーキットやジムカーナでは積極的に駆動力をかけて後輪をドリフトさせたり、パーキングブレーキを操作して後輪をロックさせて車両の向きを変えたほうがタイムを短縮できる場合があるが、これらの操作の途中で車両が不安定になったとECUが判断し、エンジン駆動力がカットされて意図した操作ができなくなる場合がある。このため、高性能車ではこれらの制御を選択的、段階的に解除する機構が加えられる場合がある。

2020年代には世界的にも標準的な装備となったが、システムを開発、生産する国は限られている。2022年ロシアのウクライナ侵攻が始まるとロシアに対する経済制裁が始まり、部品の調達ができなくなったラーダでは、アンチロック・ブレーキ・システムを省略したモデルの生産が行われた[2]
オートバイ

二輪車用ABSの誕生以前には、前後輪連動ブレーキが、ABSに求められる役割を担う技術として一部製品において普及していた[3]二輪車においては、ホイールのロックが転倒に直結するため、ABSの恩恵はより大きいと期待されていたが、四輪車と比較して搭載できる装置のサイズや重量が限られる上、ポンピングをきめ細かく制御しないと軽量な車体を揺らしてしまうなどの制約があり、開発は遅れた。実用的な電子制御式ABSは1980年代末以降、BMWがボッシュと共同開発した製品(当初は機械式)を市場に投入したのを皮切りに、各社から同様のシステムが実用化されるようになる。ただしその後長期に渡り、高価な大型ツアラーを主力としていたBMWを除き、その採用モデルはごく少数に留まった。その背景にはABSの装置自体がまだ高価で重かったこと、熟練したライダーには機械の助けなど不要とする考えが根強かったことなどが挙げられる。1990年代後半には装置の小型化や低価格化が進み、ヨーロッパを中心に各メーカーとも高速な大型ツアラーなどからABS採用モデルを増やしつつある。

EU内においてオートバイへのABS義務化の動きがあったことから[4]、日本でも上述の自動車と同様に二輪車についても、国連欧州経済委員会の「二輪車等の制動装置に係る協定規則(第78号)」に基づくABSの装着を義務化すると発表した[5]。新型車は2018年10月発売以降のモデルから、継続生産車も2021年10月以降から義務化される。

ただし第二種原動機付自転車については、ABSの代わりとしてコンバインドブレーキ(前後連動ブレーキ)システムを搭載することが認められる。また下述の欠点によりオフロードではABSが動作すると不安定になるおそれがあることからトライアルタイプのオートバイは義務化から除外される。なお国土交通省は、車体にABS装置を装着していれば、装置をオフにできるスイッチを設置してもかまわない方向を明らかにしている[6]
航空機

この節の加筆が望まれています。 (2022年2月)

欠点

ブレーキを踏んだときのスピードや路面状況によっては、ABS装着車の方がABS非装着車より制動距離が伸びることがある。例えば、砂利道や未舗装路、新雪の積もった道路ではABS非装着車の場合、タイヤをロックさせながら砂利や新雪を押しのけて停止する。そのため、砂利や砂、雪がタイヤの進行方向に集まり、大きな抵抗となるため、ABS装着車よりも制動距離が短くなる傾向にある。反対にABS装着車の場合、砂利などがタイヤを滑らす役目を果たし、ABS非装着車に比べ制動距離が伸びる傾向にある[7]

ABSはそうしたデメリットを承知の上で、タイヤがロックして自動車が運転者の意図と無関係な方向へ向きを変えてしまうリスクの方をより重く見た結果用いられているシステムであり、全てにおいて安全ではない。
脚注[脚注の使い方]
注釈^ .mw-parser-output .sfrac{white-space:nowrap}.mw-parser-output .sfrac.tion,.mw-parser-output .sfrac .tion{display:inline-block;vertical-align:-0.5em;font-size:85%;text-align:center}.mw-parser-output .sfrac .num,.mw-parser-output .sfrac .den{display:block;line-height:1em;margin:0 0.1em}.mw-parser-output .sfrac .den{border-top:1px solid}.mw-parser-output .sr-only{border:0;clip:rect(0,0,0,0);height:1px;margin:-1px;overflow:hidden;padding:0;position:absolute;width:1px}車両速度 − 車輪速度/車両速度


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