アルビアン(英: Albian)は、国際層序委員会によって定められた地質学用語である、地質時代名の一つ。1億1300万年前から1億50万年前にあたる、前期白亜紀の最後の期である。前の期であるアプチアンと後期白亜紀最初の期であるセノマニアンに挟まれる[1]。
なお、「アルブ階」「アルビアン階」という名称があるが、これらは時代を示すものではない。「階」は地層に対して当てられる単位(層序名)であり、層序名「アルブ階、アルビアン階」と時代名「アルブ期、アルビアン期」は対を成す関係である。詳しくは「累代」を参照のこと。 2015年8月に白亜系小委員会で承認され、2016年3月に国際地質科学連合が批准した国際標準模式層断面及び地点では、アルビアンの基底はフランスのドローム県 Arnayon
層序学的定義
前期白亜紀/後期白亜紀境界すなわちアルビアン/セノマニアン境界は、長らくフランス北部が重要視されていた。しかし両階の地層の間に時間的間隙があること、逆に異なる層準の化石が1層位に凝縮された状態で産出することがあることから、境界を規定する新たな地層として3つの候補が挙げられた[3]。現在ではフランスのアルプス山脈のロザン(英語版)村の近くに位置する、Mont Risou の西の露頭(オート=アルプ県、北緯44度23分33秒、東経5度30分43秒)が公式なセノマニアンの基底を定義する国際標準模式層断面及び地点に指定されており、層序記録に有孔虫 Rotalipora globotruncanoides が出現する地点で基底が定義される。この境界は Marnes Bleues 累層の最上部の36メートル下に位置する[4]。 中華人民共和国甘粛省で産出した基盤的なハドロサウルス上科の恐竜の歯列から、イネ科草本の微細な表皮とプラント・オパールが2017年に報告された。それまでイネ科草本の出現時期の推定は1億2900万年前(前期白亜紀バレミアン)から5900万年前(古第三紀暁新世サネティアン)までとかなり幅広かったが、この発見により、少なくともアルビアン期にはイネ科草本が出現していたことが判明した[5]。 アプチアンからアルビアンにかけて、OAE1bと呼ばれる海洋無酸素事変が発生していたと考えられている。メキシコなど当時のテチス海にあたる各地で不連続な黒色頁岩が産出しており、これは海洋中の酸素が少なかったために堆積した有機物が十分分解されなかった根拠となる。黒色頁岩の堆積期間は北大西洋では約22万年ないし約60万年、テチス海では約21万年と見積られている。放散虫は種レベルで42%絶滅し、日本近海のアンモナイトは種レベルで70%絶滅した[6]。原因は生物の一次生産の増大のほか、海中の熱塩成層の強化(海洋循環の停滞)や河川水・降水量の増加が指摘されている。黒色頁岩の堆積は古い順にジャコブイベント、パキエイベント、ルオンアールイベントと呼ばれ、ルオンアールイベントは前者が原因とみられる。パキエイベントは前者と後者の両方の学説が存在しており、前者の根拠は海成ケロジェン、後者の根拠はδ18O値勾配の急激な増加である[6]。 後期アルビアンにはOAE1cと呼ばれる海洋無酸素事変が生じ、放散虫への影響は小さかったものの、日本近海ではアンモナイトの90%が絶滅するという被害をもたらした。西部内陸海路・テチス海西部・南極海で黒色頁岩の堆積が見られ、イタリア中央部やオーストラリアなどから陸現生のケロジェンが確認されている。このことから、大量の淡水が大陸から供給されたために海水の垂直循環が停止し、海底の有機物が保存されたと推測されている。また、この堆積物は歳差運動による気候の周期的な変化も反映している[6]。 最後期アルビアンにはOAE1dと呼ばれる海洋無酸素事変が生じ、当時の放散虫は種レベルで約28%が絶滅した。黒色頁岩はテチス海域の広範囲と太平洋熱帯域に分布し、頁岩に含まれるケロジェンが海生プランクトンに起因するものであることから、海水の垂直混合の強化と温暖化による生物生産の向上が原因と考えられている[6]。
生物
海洋無酸素事変