アルハザードのランプ
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プロヴィデンスのベネフィット・ストリートに建つシャリエール館の主、ジャン=フランソワ・シャリエール医師が、1927年に死去する。彼は多額の金銭と引き換えに家の長期保存を要求し、いずれ相続親族が現れると遺言を残す。幽霊屋敷として噂されつつも、遺言は執行され家は保管される。

3年後の1930年、古物収集家のアリヤ・アトウッドは、シャリエール館に魅せられて借り受ける。アリヤは前の住人であるシャリエール医師が爬虫類、ワニや古代の恐竜について研究していたことを知り、彼の経歴に興味を抱き、調査を始める。屋敷が1700年頃に建てられたこと、医師が推定80代で死んだことを突き止めるが、医師の生年がわからなかった。そこでフランスに問い合わせたところ、17世紀の同姓同名の医師の回答が来たため、彼ではなく同名の先祖であったと落胆する。手段を変えて弁護士に問い合わせても、弁護士は手紙と報酬振込のやり取りがあったのみで、医師と会ったことがないという。遺言に予告されている、医師の親族についても何もわからない。

病床の友人ギャムウェルは、己が医師を最後に見たのは1907年のことと証言する。ギャムウェルは「20歳のときに初めて医師に会い、そのとき医師は80歳ほどに見えた」「20年前に見かけたときも80歳に見えた」と言う。医師が死んだのはそのさらに20年後なのだから、アリヤは友人の記憶が病で混乱しているのだと結論付ける。また近所のコベット老婦人からは、あんな家に長く住んではいけないと忠告を受ける。医師の研究資料を調べると、古代宗教や、異種族「深きものども」の寿命データなど長寿・長命の研究が記録されており、医師が「自分の寿命を延ばしたい」と考えていたことが判明する。

アリヤは屋敷で、まるで爬虫類の麝香のような異臭を嗅ぐようになる。そんなある日、屋敷に侵入者が入り、書類が持ち去られる事件が発生する。現場には非人間じみた足跡が残されていた。アリヤはなぜ書類が狙われたのかわからなかったが、賊対策に拳銃を購入する。侵入者は再び現れ、人間ならぬおぞましい姿を目撃したアリヤは、すぐさま発砲する。撃たれた人外は逃げ、アリヤが血痕を追うと井戸の中へ。さらに井戸には梯子がかかっており、壁面から伸びるトンネルは、シャリエール医師の墓へと繋がっていた。濃厚な臭いにむせ返りながら、アリヤが棺を開けると、今死んだばかりの、人間と鰐を混淆したような生物が横たわっていた。

アリヤは、怪物の正体が蘇ったシャリエール医師であることを理解し、卒倒する。医師の同名の先祖はずっと生きていた医師本人に他ならず、遺言でいずれ家の相続人が現れると残していたのも、冬眠から目覚めた自分が再来するという意図であった。アリヤは屋敷を捨てて逃げ出し、長い年月が経った後にようやく証言をする。
2登場人物・用語

ジャン=フランソワ・シャリエール医師 -
ケベックから移住してきたフランス人の外科医師。目撃証言や肖像画によると陰鬱な老人で、1927年に推定80歳ほどで他界した。だが調べても生年がわからない。同名の先祖と思われる人物が浮上し、そちらは晩年がわからなかった。

アリヤ・アトウッド - 語り手。古物収集家。シャリエール館に魅せられ、移り住む。

ギャムウェル - アリヤの友人。病に伏せている。シェリエ―ル医師と面識がある。

ヘプズィバ・コベット - 近所の老婦人。アリヤがシャリエール館に住んでいると知ると、すぐ退去したほうがよいと忠告してくる。

シャリエール館 - 1700年頃に建てられた。シャリエール医師の同名の先祖は、屋敷が建てられた頃までフランスにいたとされ、年代が符合する。

2関連作品

セベクの秘密 - ブロックの神話作品。クロコダイルと不死をテーマとしている。

3『破風の窓』

『破風の窓』(はふのまど、原題:: The Gable Window)。『サターン』1957年5月号に掲載された。邦訳はクト1(大瀧啓裕訳)。

作中時は1924年。本作の登場人物は、ラヴクラフトの『闇に囁くもの』の人物の親族という設定である。また事件後には蔵書がミスカトニック大学付属図書館へと寄贈されており、ダーレス作品のパターンといえる。

東雅夫は「異界の風景をパノラマ風に垣間見る趣向は、同じ作者の『暗黒の儀式』『アルハザードのランプ』にも用いられている」と解説している[6]

レン高原を、ダーレスがどのように見ていたかというサンプルとなる作品である。ダーレスはドリームランドをあまり掘り下げておらず、結果としてラヴクラフトとは異なる独自のものとなっている。

また、クトゥルフハスター両方への言及があり、切り分けがされておらず、難解なことになっている。キーアイテム「レンのガラス」は、ハスターにまつわるヒヤデスで造られたという説がある一方で、クトゥルフを讃える呪文で効力を発揮する。ハリ湖の生物はハスターと目されるが、断言はされず、それどころか(クトゥルフのような)タコの姿で登場するため、難解さに拍車をかけている。ラストに登場する砂漠の洞窟の怪物も、クトゥルフと目されるが説明はされない。
3あらすじ

ウィルバー・エイクリイは、ミスカトニック大学を卒業した後は、世界各地を転々としていたが、1921年に大学の職員となるために戻って来て、アイルズベリイの家を購入して住み始める。ウィルバーはクトゥルフ神話を研究し、また破風の部屋の窓に特殊なガラスをはめ込むことで異界の風景を鑑賞して日記やスケッチに記録していたが、1924年に急病死する。

ウィルバーの遺言には、従弟のわたしが相続人に指名されていた。4月16日に引っ越してきたわたしは、破風の窓の曇りガラスを怪訝に思う。やがて、どこからともなく鳴りだす怪音を、猫が怖がるようになる。わたしは、家の窓ガラスや音について、従兄が何か書き残していないか、調べることにする。

やがて書きかけの手紙が見つかり、3つの指示が残されていたことが判明する。曰く「書類は破棄してくれ」「書籍はミスカトニック大学付属図書館に寄付してくれ」「破風の窓ガラスは粉微塵に破壊してくれ」という。わたしにとっては意味不明であり[注 2]、逆に好奇心を刺激される。従兄の持っていた禁断の文献には、旧神旧支配者の神話が語られており、レンやヒヤデスの地名が出てきていた。生前の従兄は破風の窓の曇りガラスを、「レンのガラス」「ヒヤデスで造られたのかもしれない」と言っていたことを、わたしは連想する。やがてわたしは、従兄がレンのガラスで異界の風景を見ていた事実に到達し、自分も異界の風景を覗き込む。

ガラスの向こう側から、怪物の触腕が伸び、突き抜けて部屋に現れる。わたしは咄嗟に靴を脱いでガラスに投げつけ、また魔法陣を描くチョーク線を消す。幻覚ではなかった証拠として、砕けたガラスと、空間を遮断されて切断された触腕の残骸が残されていた。
3登場人物

わたし - 語り手。会計士。実務的な性格。従兄の日記を調べ、彼が古代神話にのめり込んで幻覚を見ていたと判断する。

ウィルバー・エイクリイ - 従兄。
ミスカトニック大学の研究職員。学究的な性格。旧支配者旧神の神話を信じていた。

リトル・サム - わたしの飼い猫(クトゥルフ神話の猫)。2歳。家の怪音を怖がる。

ヘンリー・エイクリイ - ラヴクラフトの『闇に囁くもの』の登場人物。エイクリイ家の親族であり、ヴァーモント州在住の学者。作中時1924年の時点では存命。

3用語『破風の窓』より「名状しがたいものハスター
『クトゥルフの窖(英語版)#6』(1982)収録
ロバート・M・プライス
<砂に棲むもの> Sand Dweller
アメリカ南西部の砂漠の洞窟に棲む亜人種族。容姿はコアラに形容され、荒れた肌と、異様に大きな目と耳を持つ。ほとんど掘り下げもなく他作品で用いられることもない種族だが、『クトゥルフ神話TRPG』のルールブックに取り入れられており知名度がある[7]
砂漠の洞窟の怪物
<砂に棲むもの>たちが崇拝する怪生物。下顎から触腕を伸ばす。名前は出てこないが、特徴の描写から、クトゥルフの落とし子と思われる。
シャンタク鳥
人間の背丈よりも大きな巨鳥。頭部には嘴があり、胴体は「毛の生えた蝙蝠」と形容される。ラヴクラフトのシャンタク鳥とは描写が異なっている。オリジナルではドリームランドレン高原に生息する生物とされ、頭部は馬に似て、胴体は鱗で覆われている[注 3][注 4]
ハリ湖の水棲生物
頭部だけで80ヤード(73メートル)はある、巨大な八腕類。ウィルバーが1921年11月17日の日記に記録している。ハスターまたはハスターに類する存在と推測されるが、作中では明確な説明がなく詳細不明。『クトゥルフ神話TRPG』のルールブックのハスターの項目には、本作品のこの生物の描写が引用されている[8]が、ハスターであると言い切ってはおらず、関連を示唆するにとどまる。
レンのガラス
ウィルバーがアジアで入手したアイテム。破風の窓にはめ込まれていた。名前はレン高原にちなんだ仮称であり、レン高原由来かさえ不明で、ヒヤデスで造られたかもしれないとも言われている。ガラスの前の床に、赤いチョークで五芒星形ベースの魔法陣を書き、クトゥルフを讃える呪文を唱えることで、ガラスの曇りが消えて異界の光景が映し出される。また空間も繋がり、門として機能する。映し出される場所は、地球の自転(星辰)によって変化し、任意に選ぶことはできない。チョークを消して魔法陣の図形が崩れると効果が切れる。ウィルバーは日記に「星を消す」「星をつぶす」などの表現で記しており、この方法でリセットをかけていた。
3関連作品

魔犬 - ラヴクラフトの神話作品。中央アジアのレン高原についての言及がある。

タイタス・クロウの帰還- 『破風の窓』のハリ湖の生物(ハスター)を踏襲したハスターが登場する。


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