アルディ_(アルディピテクス)
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この縁でブリュネから研究チームに対し、CT技術を使った復元の経過についての紹介があり、そのことが、後にアルディを公表したときの論文のひとつで、アルディとトゥーマイの復元頭蓋骨の比較を行うことにつながったという[23]
公表と反響

アルディはその復元や評価に時間がかかったため、すごい化石らしいという噂ばかりが広まっていたものの[8]、公表されたのは2009年になってからだった[24]。その成果は『サイエンス』2009年10月2日号に掲載された11本の論文として結実し、アルディに関するさまざまな角度からの分析やその生息環境について論じられた[25]。この特集は100ページ近くになり、その号全体の約半分を占めた[8]。『サイエンス』が後にこの一連の研究を「ブレイクスルー・オブ・ザ・イヤー」に選出したというのは、冒頭に述べたとおりである。

この公表を受けて、マスメディアはアルディについてこぞって報じ、ディスカバリー・チャンネルでは公表から2週間と経たないうちに、早速アルディの2時間番組を放送した[9]。日本でも10月2日の朝日新聞読売新聞毎日新聞産経新聞などの朝刊各紙がこの公表を報じ、朝日新聞は11月3日付の朝刊科学面で、ほぼ1面を割いた解説記事を掲載した。

発見された時点では最古の人類だったが、公表に時間がかかり、その間にアルディピテクス・カダバ(1997年発見、2001年公表)、オロリン・トゥゲネンシス(2000年発見・公表[注釈 3])、サヘラントロプス・チャデンシス(2001年発見、2002年公表)などの500万年前から700万年前の重要な発見が相次いだため[注釈 4]、アルディは公表時点で最古の人類ではなくなっていた。しかし、アルディよりも古い人骨はいずれもほとんど共通する部位を含まない断片にすぎない。特に最古のサヘラントロプスに至っては頭蓋骨しか出土しておらず、大後頭孔の位置から直立二足歩行の可能性が指摘されるにとどまっている。このため、現在発見されている範囲では、アルディは人類が類人猿との共通祖先から分岐した原初の姿に最も近い特徴を備えていると考えられており[26][27]、前出のジョハンソンは、ロゼッタ・ストーンに喩えて、初期人類の解明に寄与するものと位置づけている[28]
特色アルディの歩行姿勢

従来信じられていた人類と類人猿の共通祖先はチンパンジーに近いもので、ゴリラやチンパンジーのような「ナックル歩行」[注釈 5]をし、雌雄の犬歯には大きな性差があり、オスは大きな犬歯を持っていただろうと考えられていた。また、そこから分岐し、ヒトが直立二足歩行を獲得したときには、原始的であろうとも、現代人と同じように足の親指と他の指が同じ向きに並ぶようになっていただろうとも考えられていた。しかし、アルディはそうした始原的なイメージを大きく覆す特色を備えていた。
身長・体重

アルディの身長は120 cm、推定体重は50kg[29]、身長に比べて体重がかなり重い(参考までに、性的二形が著しいという説もあるアウストラロピテクス・アファレンシスの場合、成人オスは身長151 cm、体重42 kg、メスは身長105 cm、体重29 kgという数値がある[30])。この重さは、アルディピテクス・ラミドゥスの雌雄の性差が小さかった可能性と結び付けられている[31]
頭蓋骨

復元された頭蓋骨から、脳の大きさは300ccから370ccと見積もられている[2]。この大きさは700万年前のサヘラントロプス「トゥーマイ」の脳(320ccから380cc[32])とも大差なく300cc前後におさまるチンパンジーの脳[21]とも、大差のない数値といえる[33]。前寄りに位置する大後頭孔は、後述する直立二足歩行の特色を補強する[34]

現存最古の「トゥーマイ」の場合、眼窩上隆起にかなりの厚みがあり、メスのゴリラと見なす少数意見の論拠にもなっているが[35]、アルディのそれは薄い[2]

アルディの歯はそれほど磨り減っていないため、正確な年齢は不明だが、若い個体だったろうと推測される根拠になっている[8]。歯の磨耗の度合いなどから、アウストラロピテクス属に比べ、磨耗を促進する砂まじりなどの食物をあまり摂取していなかっただろうとも推測されている[36](この点は後で再び触れる)。

アルディピテクス・ラミドゥスの全身骨格はアルディしか見つかっていないが、歯については少なくとも35個体分が出土しており、犬歯についても20個体分の統計を取ることが可能である[37]。もっともよく見つかる化石が歯であるためだが、諏訪は単に大きさを比較するだけにとどまらず、エナメル質の厚さの測定や象牙質部分のみの分析などまで積み重ねた[38]。分析の結果、犬歯の性差はかなり小さく、アルディはその中でも小さい部類に属することから、性別はメスと判定された[37][39]

チンパンジーの場合、オスの犬歯が発達しており、集団内でのメスの獲得や他群のオスとの争いに用いられる。かつてはヒトもチンパンジーのように大きな犬歯を持っていた状態から、進化の過程で犬歯を小型化していったと考えられていたが[5]、アルディ(および他のアルディピテクス・ラミドゥスたち)の犬歯はチンパンジーのように雌雄の性差が大きいものではなく、ヒトが進化の過程で犬歯を小型化させたのと同じように、チンパンジーも進化の過程で犬歯を大型化させていったことを示唆している[39]。アルディの時点で犬歯はそれほど大きくなく、雌雄差も大きくなかったことから、ラヴジョイは特定のオスが特定のメスに食糧を供給する一夫一婦型のような関係が築かれていたと推測している[39]。これはチンパンジーの多雄多雌型とも、ゴリラの一雄多雌型とも違う関係であり、特定の妻子に多くの餌を持ち帰るために両手を使おうとしたことが、直立二足歩行を促したのではないかというわけである[40][38]

ほかの歯については、ゴリラやチンパンジーがそれぞれの食性の選好に合わせて歯を特殊化していったのに対し、そういう特殊化の要素は見られない。この事実は、アルディピテクス・ラミドゥスの食生活がゴリラやチンパンジーとは違い、特定の食物への選好を強めたりしない雑食型であったことを示している[39]


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