アルテミス神殿
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アルテミス神殿は、現在のトルコ共和国の港町イズミルから南に50kmほど離れたところにあった古代都市エフェソスに建っていた。

他の世界の七不思議と同様、アンティパトレスがこの神殿をリストに入れた理由は、その美しさや大きさのためではなく、むしろ、ギリシア世界の境界近くにあったためであった。その所在地から、ギリシア人に神秘と畏怖の念を与え、アレキサンダー大王の帝国の巨大さを強調したのである。
エフェソスのアルテミスエフェソスのアルテミス像(複製、18世紀)

アルテミスギリシアの女神である。アポローンと双子で、清純な女狩人として知られ、また、ティーターンセレーネーに代わる月の女神である。アテネでは、クレタ島地母神の性格を受け継いだオリンピアの女神の中で、アテーナーがアルテミスよりもあがめられていた。

一方、エフェソスでは、アルテミスは非常に敬われていた。例えば、月の1つはアルテミスの名前を冠しており、その月には丸1ヶ月祝祭が催された。信仰の対象はギリシア文化以前の古い偶像であった。その元となる偶像は木製で、ギリシアのアルテミスに見られる処女性とは対照的に、豊穣多産を象徴する多数の乳房を持っていた。そして、この女神の象徴は蜂であった。

この偶像の複製や縮小したものが古代には出回り、現在も残っている。また、その偶像は、ギリシア本土のものとは違い、エジプトや近東に見られるように、体と足が先細りの柱のようになっており、そこから足首が出ている。足首の周りには、魚の尾鰭らしきものがある。これは下半身が魚(=知恵の神)であることを示唆している。

また、エフェソスで鋳造されたコインでは、その多数の乳房を持った女神が、キュベレーの特徴として見られるように、城壁冠(胸壁形の金冠)をつけている。そして、蛇が絡み合ってできた柱、またはウロボロス(自分の尾を自分の口に入れている蛇)を積み上げたものに手を置いている。

このような習合の慣習は、オリュンポスの神々をはじめとする国外の神々を吸収したもので、イオニア人の居住者たちが、エフェソスの女性とアルテミスを重ねたと考えるのは根拠が薄いのは明らかである。
歴史アルテミス神殿の想像図。(16世紀の画家マールテン・ファン・ヘームスケルク)の版画より)イスタンブルのミニチュアパークにあるアルテミス神殿の模型

エフェソスの聖なる場所は、アルテミス神殿よりずっと古くにあった。ギリシア人旅行家パウサニアスは、アルテミスの社はとても古くからあったと考えた。彼は、それはイオニア人の移住より何年も前にできており、アポロンの神託神殿よりも古いと確信を持って主張した。また彼によれば、イオニア人以前のエフェソスの住人はリディア人などであったという。

この神殿は紀元前550年頃にクレタの建築家ケルシプロンとその息子メタゲネスによって設計され、裕福なリディアクロイソスの負担で建築された。プリニウスによれば、将来起こる地震を警戒して、建設地に湿地が選ばれたという。このような場所に巨大な基礎を築くことはできないので、まず地下に踏み潰した木炭を敷き、さらに羊毛を敷きこんだ。

こうして完成した神殿は旅行者の注目の的となり、商人・王・観光客が訪れ、彼らの多くは宝石や様々な品物を奉納してアルテミスに敬意を表した。そして、その壮麗さは多くの礼拝者もひきつけ、アルテミス崇拝を形成した。

この神殿は、避難所としても知られ、犯罪者を含め、多くの人々が身の安全のために逃げ込んだ。彼らは、アルテミスの保護下にあるとみなされ、決して捕まらなかった。また、アマゾネスヘラクレスディオニュソスから逃げて避難したという神話もある。

エフェソスのアルテミス神殿は、紀元前356年7月21日に、ヘロストラトスによる放火で破壊された。言い伝えによれば彼の動機は、どんな犠牲を払っても名声を得たかったということである。このことから、「ヘロストラトスの名誉」という言葉まで生まれた。これは、つまらないことや犯罪行為によって、自分の名前を有名にしようとする人のことを表す。ある男が、最も美しい建造物を破壊することで自分の名前を世界中に広めようと、エフェソスのアルテミス神殿に放火する計画を考えた」[3]

事件に憤慨したエフェソスの人々は、ヘロストラトスの名前を決して残さないことを共同決定した(ストラボンが後にこの名を書きとめたため、現在我々がその名を知ることとなった)。そして、彼らは、以前よりもはるかに立派な神殿を造ろうと考えた。

まさにこの放火事件と同じ夜、アレクサンドロス3世(大王)は生まれた。プルタルコスは、アルテミスはアレクサンドロスの出産のことで頭がいっぱいで、燃えている神殿を救えなかったと表現している。アレクサンドロスは後に神殿の再建費用を支払うと申し出たが、エフェソスの人々がこれを拒否した。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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