アルコール使用障害
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軽いものであれば、頭痛、不眠、イライラ感、発汗、手指や全身の震え(振戦)、眩暈、吐き気などがあるが、重度になってくると「誰かに狙われている」といった妄想や振戦せん妄、痙攣発作(アルコール誘発性てんかん)なども起こるようになる[8][10]幻覚(幻視・幻聴)も頻繁に起こる症状で、小さな虫のようなものが見えたり、いるはずのない人が見えたり、耳鳴りや人の声が聞こえたりと症状は患者によって様々であるが、幻覚を全く経験しない人も多くいる。患者にとってこれらは苦痛であるため、それから逃れるために飲酒をすることになる。また、急性期の離脱症状を過ぎた後でも、怒りっぽくなったり、抑うつ状態になったりするなどの情動性の不安定な遷延性離脱症候群とよばれる状態が数か月続く場合がある。
耐性の増大。
同じ酩酊を感じるのに要する飲酒量が増大する[8]。または、同じ飲酒量での酩酊感が減弱する[8]
合併症

アルコール依存症の患者は、心身に多くの疾患を抱える危険性を持っている。逆に、他の精神障害がアルコール依存症を誘発することが分かっている。
精神神経の疾患
うつ病[8]
アルコール依存症によってうつ病が引き起こされる場合がある[3][6]。逆に、うつ病によってアルコール依存症に陥ることもある(誤ったセルフメディケーション)。有病者の30-40%が、一生のうちにうつ病の診断基準を満たす[2]
不安障害[8]
パニック障害社交不安障害など。
双極性感情障害(躁鬱病)
双極性感情障害の患者が自己治療的に飲酒を続けた結果、アルコール依存症に陥る場合がある。
統合失調症
統合失調症の患者が自己治療的に飲酒を続けた結果、アルコール依存症に陥る場合がある。
ウェルニッケ‐コルサコフ症候群[8]
チアミン(ビタミンB1)の欠乏によって発症する疾患で、急性症状をウェルニッケ脳症(アルコール性脳症)、慢性状態をコルサコフ症候群という。ウェルニッケ脳症は可逆的で数週間以内に自然に消失することがあるが、コルサコフ症候群に進展すれば80パーセントが回復しないが、生命の危険は少ない。意識障害外眼筋麻痺記憶障害小脳失調、失見当識の症状がでる。コルサコフ症候群では記憶障害の結果として、記憶の不確かな部分を作話で補おうとすることが知られる。チアミン投与が有効である。
アルコール幻覚症
被害的内容の幻聴(英・auditory hallucination)を主とする幻覚が、飲酒中止時や大量飲酒時に急性・亜急性に出現する。飲酒を中止することで、数週間以内に消失することが多い。幻覚により殺人に至るケースも起きている[11]
アルコール性妄想状態
アルコール依存症でみられ、了解可能な嫉妬妄想が主。断酒によって次第に消失する。
ニコチン酸欠乏脳症(ペラグラ
ニコチン酸(ナイアシン)の欠乏によって発症する。幻覚、妄想やせん妄の症状がでる。
小脳変性症
文字通り小脳がアルコールの影響で変性することで発症する。歩行障害など下肢の失調が起こる。
アルコール性認知症
アルコール自体が認知症の原因となりうるのかは不明であるが、臨床的にはアルコール摂取が背景になっていると見られる認知症が確かに存在する。画像検査では、脳室系の拡大と大脳皮質の萎縮が見られる。
アルコール性多発神経炎(末梢神経炎)
アルコールが原因の栄養障害(ビタミンB群とニコチン酸の欠乏)により発症する。四肢の異常感覚や痛み、感覚鈍麻や疼痛、手足の筋肉の脱力、転びやすい、走りにくいなどの症状。コルサコフ症候群に合併すれば「アルコール性多発神経炎性精神病」と呼ばれる。
身体的疾患

身体的疾患はアルコールにより引き起こされているものなので、酒を断つことにより回復するケースもある。しかし数日単位での回復は無理で、数か月から長い場合では数年ほど回復に期間がかかることが多い。また、脳や身体に不可逆的にダメージを受けある程度以上は治癒しないケースもある。
高血圧[3][8]

不整脈[8]

悪性腫瘍
口腔癌、肝臓癌、腸癌、乳癌[3]
アルコール性肝疾患
アルコール性脂肪肝[8] - 肝臓に脂肪が蓄積され、放置すると肝硬変、肝臓癌へと進む危険を持つ。自覚症状はほとんどない。アルコール性肝炎[8] - 肝臓が炎症を起こし、肝細胞が破壊される病気。全身の倦怠感、上腹部の痛み、黄疸腹水等の症状が出る。アルコール性肝硬変[3] - 肝細胞の破壊が広範に起こり細胞が繊維化される病気。肝炎と類似の症状がでる。日本国内の患者数は4.5万人いると言われる。
アルコール性胃炎
胃粘膜の炎症である。慢性化して、胃潰瘍に発展する場合もある。胃痛、胸やけ、吐血等の症状。
アルコール性膵炎[8]
膵臓の炎症で、慢性膵炎の約半数がアルコール性のものと言われている。腹部や背中の痛み、発熱等の症状。急性膵炎や慢性膵炎の急性増悪では、落命することもある。
食道静脈瘤
肝硬変の副次的な症状として現れる。本来肝臓に流れるべき血流が、食道の静脈に流れることにより、瘤状の膨らみができる。万一破裂すると大量出血で命に関わることがある。
アルコール性心筋症
アルコールの影響で心筋がびまん性に萎縮して線維化が進行、心収縮力が弱まり血液を送り出す機能が低下する。
マロリー・ワイス症候群
飲酒後に繰り返し嘔吐するため、出血を起こす。
アルコール離脱詳細は「アルコール離脱症候群」を参照

アルコール依存からの離脱は、適切な管理を伴わなければ、バルビツール酸系やベンゾジアゼピン系といった催眠鎮静薬と同様、致命的となる可能性がある[12]。アルコールの主な作用は、GABAA受容体への刺激を増加させ、中枢神経の抑制を促すことである。アルコールの大量消費を繰り返すとこの受容体は感度が減少し、また数が減る。そのために薬物耐性と身体性依存が起こる。アルコールを急速に断酒すると、中枢神経系はシナプス発火のコントロールを失う。これによって不安、致命的な発作、振戦、せん妄、幻覚、心不全などを招く[13][14]。その他の中枢神経系では、主にドーパミンNMDAグルタミン酸が関係している[15]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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