同じく2013年、ムーア作品に人種的ステレオタイプやミソジニー的な表現が見られるとしてオンラインの批判が寄せられた[355]。ウェブメディアが反論の場を設けると、ムーアは自身の立場を強く防衛し、批判者やコミック関係者への逆批判を行った[356][357]。さらに、以後同様の問題が起きないようにインタビューや公の発言を制限する、特にコミックに関わることについては発言しない、と述べた[358][355][359]。
2016年9月、執筆に10年以上を費やした1000ページを超える長編小説 Jerusalem(→エルサレム)を刊行した[55][354]。生地ノーサンプトンの歴史、創作と想像力、魔術と超越性といった近年のテーマの集大成だった[360]。それとともに、新しい分野に挑戦するため「リーグ」シリーズの完結を最後にコミック原作から引退すると宣言した[361]。ポップカルチャーの歴史を通覧する大河長編となった「リーグ」最終作 Tempest では、メディア大企業によって管理されるスーパーヒーロー・キャラクターが偉大な英雄という概念そのもののディストピア的な終着点として描かれていた[362]。同作は2019年に完結し[363]、それ以降は予告通りコミック作品を発表していない[364][365]。
2021年、5部作の長編ファンタジー小説 Long London などをブルームズベリー(英語版)から刊行予定であることが発表された[365]。
執筆以外の活動音楽イベント I'll Be Your Mirror に出演し、詩を朗読した(2011年)[366][367]。
1994年、神秘学の先達スティーヴ・ムーアとともに The Moon and Serpent Grand Egyptian Theatre of Marvels(→月と蛇の大エジプト魔術団)を結成した。ランス・パーキンによると「薔薇十字団やフリーメイソンのパロディのような架空の秘術結社」であり[368]、後に二人は神秘学のハウトゥ本 The Moon and Serpent Bumper Book of Magic(→月と蛇の魔術大図鑑)も共作している[369][370]。ムーアは同年7月に団体名と同題で音楽や詩の朗読からなるパフォーマンス・アート公演を行った[368]。1995年の公演 The Birth Caul(→誕生の羊膜[注 44])では母親の死や人間の意識活動が題材とされた[170][371]。一種の魔術儀式として構成されており、ムーアの朗読が呪文の詠唱のような効果を生んでいた[372]。同様のスポークン・ワード公演はその後も断続的に行われた[注 45]。公演はいずれも開催地や開催日をコンテクストに取り込んだ一回限りの内容だが[373]、すべてCD化されており[229]、一部はエディ・キャンベルによってコミック化されてトップシェルフから刊行された[374][375][376]。
2010年代には写真家ミッチ・ジェンキンズとともに低予算の短編映画を撮り始めた。短編数編を再構成した Show Pieces は英国の映画祭で公開された[377]。トム・バークが主演し、ムーアが脚本・音楽・出演を兼ねた長編 The Show [378]は2020年10月にシッチェス・カタロニア国際映画祭で上映され[379][380]、翌年8月には英米で劇場公開とデジタル配信が行われた[381]。探偵らしき主人公がノーサンプトンを訪れる一種のフィルム・ノワールだが、奇矯な人物が横行する昼の街と、悪夢と死後の世界が入り混じった夜の街の間でシュルレアルなストーリーが展開される[382]。映画の小道具としてムーアが発案したインタラクティブ・コミックのアイディアは、実際のアプリ開発プロジェクトへと発展した[26][383][384]。2015年にリリースされた Electricomics はコミック制作ツールキットと頒布プラットフォームが一体化したオープンソースアプリで、ムーアもそれを用いて作品を発表している[385][386][注 46]。
2022年から、著名な作家・製作者・映画監督が講師となるeラーニングコース「BBCマエストロ」で創作論を教えている[387][388][389]。 経歴が長く活動範囲も広く、多作で無節操(ダグラス・ウォーク)といわれるムーアだが[390]、ジャクソン・エアーズはムーア作品に共通するテーマとして歴史や文化の形成、権力と統治、知覚と意識、性と精神の解放などを挙げている[391]。 常套的な表現やジャンルの慣習を覆す作品が多く[392]、「リヴィジョニズム」の作風だとされる[393]。フィクションにおけるリヴィジョニズムとは、既存の作品やジャンルに大きな改作を行い、原典の持つ意味や隠れたイデオロギーを批評的に描いて新しい読み方を提示することをいう[10]。
作風
テーマ
リヴィジョニズムと間テクスト性