アラン・ムーア
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映画の小道具としてムーアが発案したインタラクティブ・コミックのアイディアは、実際のアプリ開発プロジェクトへと発展した[26][383][384]。2015年にリリースされた Electricomics はコミック制作ツールキットと頒布プラットフォームが一体化したオープンソースアプリで、ムーアもそれを用いて作品を発表している[385][386][注 46]

2022年から、著名な作家・製作者・映画監督が講師となるeラーニングコース「BBCマエストロ」で創作論を教えている[387][388][389]
作風
テーマ

経歴が長く活動範囲も広く、多作で無節操(ダグラス・ウォーク)といわれるムーアだが[390]、ジャクソン・エアーズはムーア作品に共通するテーマとして歴史や文化の形成、権力と統治、知覚と意識、と精神の解放などを挙げている[391]
リヴィジョニズムと間テクスト性

常套的な表現やジャンルの慣習を覆す作品が多く[392]、「リヴィジョニズム」の作風だとされる[393]。フィクションにおけるリヴィジョニズムとは、既存の作品やジャンルに大きな改作を行い、原典の持つ意味や隠れたイデオロギーを批評的に描いて新しい読み方を提示することをいう[10]。ムーアのスーパーヒーロー作品の多くはジャンルの基盤となるイデオロギーを問い直すものだった[394]。80年代の作品はヒーローの自警行為にともなう暴力性や全体主義に光を当て、作中人物や読者の動機が性的対象化に支えられていることを指摘した[8]。「ヒーロー=敬意の対象」という前提はムーアによって過去のものになった[185]。しかし自身の影響によってインモラルなアンチヒーローや暴力を特徴とする「グリム・アンド・グリッティ」が流行すると[395]、そのようなヒーロー像へのさらなるリヴィジョニズムとしてキッチュとイノセンスを打ち出している[396]。また別に、児童文学やホラーのようなジャンルから性的な文脈を暴き出した作品もある[397]

ジャンル脱構築の性格が明らかな作品以外にも、古典文学からキャラクターを借用した「リーグ」のように間テクスト性の強い作品が多い[398]。文芸翻訳者アンナリーザ・ディ・リッド[399]はムーアの作品に引用句、引喩、パロディ、… 良く知られた作品やパターンの再検討という形で常に間テクスト性が見られると述べている[400]。エアーズは既存のテクストを取り上げて作り変え、新鮮で力強く、なおかつ原典と豊かに響き合う何かを生み出す才能を持つ熟練の翻案家と書き[401]、メディア横断的な参照が行われる現代ポップカルチャーを先取りしていたと論じた[402]

ランス・パーキンはムーアの間テクスト性の源流をコミック原体験に求め、スーパーヒーロー・コミックが過去の物語の絶えざる語り直しであり、それ自体の歴史や神話を題材とする自己完結的なメディアだと指摘した[403]。パーキンによるとムーアはその手法を押し進め、コミックにとどまらず小説やジャーナリズムのようなあらゆるナラティヴを包含していったのだという[403]。英文学者の福原俊平は、その間テクスト的な運動が物語が持つ可能性に対するムーアの信念の反映であり、コミックの形式を変革するため、また作品に時代と地域を超えた普遍性を与えるために活用されていると論じた[404]
社会性・政治性「誰も [絵や文章に] 人間や社会を変革する力を見ていない。単なるエンターテインメントと思っている。死ぬのを待つ間の20分、30分を埋めるためのものだ。
受け手が欲しがっているものを与えるのは芸術家の仕事ではない。… 受け手に必要なものを与えるのが芸術家の仕事なのだ[405]」(写真は2009年)

ディ・リッドによると、ムーア作品は物語そのものについてのメタ的な考察であると同時に現実社会を分析する手段でもある[406]


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