1990年、コミック自己出版の伝道者デイヴ・シム(英語版)に触発されて自身のマッドラブから Big Numbers を発刊した[230]。『ウォッチメン』に続く代表作として構想された同作は[216]、生地ノーサンプトンをモデルにした英国の地方都市を舞台に、巨大ビジネスが一般人に与える影響とカオス理論[注 28]の概念を組み合わせた社会的リアリズム作品だった[233][234]。読者を選ぶ題材だが、全12号×大判40ページという大部の構想で、ビッグネームのビル・シンケビッチが作画を担当するとあってファンの期待も高かった[235]。しかし2号が出た時点でシンケビッチがフォトリアリスティックなペイントアートという方針を維持できなくなり、作画を降りた[236][237]。ムーアの奔走にもかかわらず、続刊は出なかった。この失敗はファンの失望を招き[235]、ムーアにも大きな金銭的損失をもたらした[238]。ムーアの心境は翌年に書籍出版社ビクター・ゴランツ(英語版)から書き下ろされたグラフィックノベル[注 29] A Small Killing [注 30]に反映されている[241][242]。広告会社の重役が理想家だった少年時代の自分自身に取りつかれ、一線から退いて新しい目的を探すという内容である[243][244]。同作はあまり部数が伸びず[245]、「もっとも過小評価されているムーア作品」とされることがある[170][246]。イングランド人の外科医サー・ウィリアム・ガルは『フロム・ヘル』で切り裂きジャック事件の犯人とされた。
過去の共作者スティーヴン・ビセットが自己出版するアンソロジーコミック誌 Taboo では、内容に制約を受けることなく性や暴力、政治や宗教といった題材を自由に追求することができた[247]。ムーアが同誌で行った連載の一つ目は、1880年代の切り裂きジャック事件をフィクション化した『フロム・ヘル』(1989年)[注 31]である。数多くの歴史的・社会的テーマを取り込んだ芸術志向の野心作だった[248]。Taboo は短命に終わり、『フロム・ヘル』は小出版社からコミックブック形式で続刊が出た[249]。