アラン・ムーア
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それをコミックにおいて実現したのがムーアの多層的ストーリーテリングだったと書いている[39]

絵と言葉で相反する内容、もしくは一見無関係な内容を伝え、それによって重層的な意味を生み出すアイロニックな対位は特徴的な技法である[434]。『Vフォー・ヴェンデッタ』の冒頭で、王族の最新の装いを伝えるラジオ放送が、娼婦として街に立つために身支度する少女の絵と対比されるシーンは一例である[438](当時のコミックでは絵で描かれた内容をそのままなぞるだけの文章が一般的だった[439])。
コマ割り

ほとんどのページが3×3に9等分されている『ウォッチメン』を始め、格子状のコマ割りを用いた作品が多い[440]。米国コミックのコマの形や大きさは1970年代から多様化しており、その中では前時代的にも見える方式だが[441]、ムーアは定型的なフォーマットを通じてリズムを生み出したり[442]、シンメトリーや破調を巧みに利用して語りの効果を作り出した[430][443][444][445]。ムーアの格子状コマ割りは現在まで多くの作家によって引用されている[446]。コマ間の移動ではコントラストや反復が強く意識されている[434]。次のシーンに移るタイミングでは、読者のストーリーへの没入が途切れないように、前のシーンのセリフの一部を次のシーンにオーバーラップさせたり、図像や色彩を引き継がせたりといったテクニックが使われている[447][448](ただしクリシェ化を避けるため後年の作品では多用されていない[449])。
ストーリー上の傾向

『マーベルマン』、『スワンプシング』、『スプリーム』など、既存のコミック作品の原作を請け負ったときムーアが何度も取った手段は過去の経緯を一掃し、主人公を記憶喪失にし、それまで書かれたあらゆることが嘘だったと明かす[450]ちゃぶ台返し[451]である[450]。そうすることで過去の歴史に縛られずにキャラクターをリブートするのである。この方法はコミック界でごく一般的に使われるようになっているが、80年代当時は新鮮だった[452]

ムーアは1984年のインタビューにおいて、小池一夫小島剛夕による日本漫画『子連れ狼[注 47]をストーリーは非常に単純だが、語り方によって大きな重みが生まれていると評し、自身の作風にも通じるところがあると語っている。物語をエスカレートさせて大きな事件を連発するより、状況やキャラクターの描写を積み上げてから小さな事件を起こす方が効果的なのだという[454]
原作執筆のスタイル

アメリカン・コミックのスクリプト(原作脚本)は出版社や書き手によって形式が異なるが、ムーアは長大細密な散文を書くことで知られている[455]。通常の5?6倍の分量があり[281]、コマ割りや各コマの構図、ディテールが事細かに指示されている[456]。会話体で書かれたスクリプトには作画家が参考にするための背景知識や演出意図までもが盛り込まれている[457][456][458][459]。DCコミックスでの担当編集者カレン・バーガーは次のように語っている。すべてのコマが隅から隅まで絵として描写されていた。アランは確か、挫折した作画家だったはずだ。… 作画家になろうとしてこの世界に入ったので、原作のアプローチもまるで絵を描いているかのようだった。… その上で、やはり優れた作家だったから、アートディレクションの文章なのに読んで面白かった。—カレン・バーガー(2012年)[460]

ポエトリー・リーディングの経験から文章のリズムや強勢を重視しており[461]、自ら音読しながら書いている[462]。重要なセリフには弱強格韻律が用いられることがある[463][464]。キャリア初期には一人芝居をしながら登場人物の所作や声色を想像するメソッド演技法を行っていた[465][466]

ムーアは 2000 AD 時代に多くの相手と短編を共作する経験を通じて作画家が描きたいものを的確に提示する能力を身に着けたと言われている[467]。想像力の相乗効果を生むため、共作者には原作から自由に逸脱するよう勧めてもいる[468]。原作者と作画家が主導権や貢献度を巡って争うことは珍しくないが[469]、ムーアは自身のコミック作品が作画家との共同制作物であることを常に強調しており[470]、共作者との関係は概して円満なものである[469]
影響マイケル・ムアコック、イアン・シンクレアと共に(2009年)。

時代に即した新しい形式を生み出すには広範な知識が不可欠だと語っており[471]、古典演劇から現代の実験小説やジャンル・フィクションまで読書傾向は幅広い[472]。影響を受けた作家にはウィリアム・S・バロウズビートニク作家[473]ウィリアム・ブレイク[注 48]トマス・ピンチョン[473]、イアン・シンクレア(英語版)[476]マイケル・ムアコックニューウェーヴSF作家、クライヴ・バーカーらホラー作家[477]がいる。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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