『Vフォー・ヴェンデッタ』で主人公が着用するガイ・フォークスの仮面は、2005年の映画化を経て、現実世界において政治的反抗の象徴として広く受け入れられた[561][574]。占拠運動[575][576]、アノニマス[577]、エジプト革命[578]、反グローバリゼーションデモで使用例が見られる[577]。占拠運動の支持者で『オキュパイ・コミックス』を発刊した映画監督マット・ピッツォーロ(英語版)はムーアを運動の非公式のゴッドファーザーと呼び、同世代の世界観形成に大きな影響があったと語っている[331]。 日本では1990年代にアニメやゲーム、フィギュアを入り口にしたアメリカン・コミックのブームが起き[579]、その流れで代表作『ウォッチメン』が刊行された[580]。このときは大きなヒットにならなかったが[581]、間を置いて2000年代末にスーパーヒーロー映画との相乗効果によって「アメコミ第2次ブーム」が起きると同作の新版が市場をけん引することになった[579][582]。同時期に人文学系の出版社みすず書房が初のコミック作品として出した『フロム・ヘル』もヒットし[583]、こちらは文学・美術ファンを対象にバンド・デシネを翻訳出版する動きにつながった[582]。日本の書評家、研究者、一般紙などからはアメリカン・コミック界の「鬼才」と呼ばれている[584][585][586][587][588][589]。 日本にも熱心なムーアファンがおり[590][583]、ライトノベル『魔法少女禁止法』(伊藤ヒロ、2010年)やアニメ『コンクリート・レボルティオ?超人幻想?』(2015?2016年)のように、スーパーヒーローが実在する仮想歴史としての『ウォッチメン』から影響を受けた作品もある[591][592][593]。 『フロム・ヘル』などの翻訳者でもある柳下毅一郎は、ムーアの特徴的な格子状コマ割り(作風節参照)について、コマの大きさに強弱をつけて直感的に動きを感じさせる日本漫画の文法とは異質だと論じている。そのため要求される読み方も異なっており、日本漫画がスピーディーに読み進められるのに対し、ムーア作品は一つ一つのコマをじっくりと眺め、構図の中に圧縮された情報を読み解くことで初めて味わえるのだという。柳下はその違いが日本の読者にとって読みづらさになるとも指摘している[594]。これを踏まえて、『フロム・ヘル』日本語版の版元みすず書房は同作を日本の漫画とはまったく異なる方向の進化形と紹介した[595]。評論家上野ミ志は書評で「コマ割りされた静止画のもたらす緊迫感」「「グラフィック・ノベル」のダイナミズムは … 流動的な動き主体の [日本産] マンガからは失われたものかもしれない」と述べた[596]。
日本での受容
人物2006年、サイン中のムーア。指輪や指甲冑を着け始めたのはメリンダ・ゲビーからのプレゼントがきっかけだった[18]。