アラン・ムーア
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形式上のシンメトリーへのこだわりも強く[127][429]、冒頭からの各ページが結末からの各ページの鏡像となるようにコマ割りされた作品もある[430][431]。ダグラス・ウォークによると遊びのない構成は読んでいて息が詰まるほどだが、ジャンルや物語構造の定型を覆して読者の予想を裏切っていく作風がそれを緩和させているという[429]『ウォッチメン』を象徴するスマイリーバッジ[432]。血で汚された無邪気な笑顔は、コミックの幻想に対する辛辣さの表明とも受け取れる[433]

コマの中には膨大な情報が描きこまれている[434]。『ウォッチメン』の冒頭第1コマは「血に染まった街路にスマイリーバッジが落ちている」というだけの構図だが、原作スクリプトでそのコマの描写は日本語にして1500字を超えていた[435]。丸いバッジに飛び散った血は真夜中の5分前を指す時計の針を形作っている。これは『ウォッチメン』全編に散りばめられた終末時計メタファーの一つ目である[436]。時計やカウントダウンのイメージは作品の随所に偶然のように置かれており、バッジそのものも後のシーンで再登場する[436]。そのような、多くのイメージが織りなすパターンや偶然の絡み合いによる多重構造のストーリーはムーアが好んで用いたものだった[437]。映画評論家の柳下毅一郎は、コマの端に描かれた人物や路上の落書きまでが役割を持つ『ウォッチメン』について現実には無意味な人間などいないし、無駄なエピソードなどない。すべての人が物語の主人公だ。それをコミックにおいて実現したのがムーアの多層的ストーリーテリングだったと書いている[39]

絵と言葉で相反する内容、もしくは一見無関係な内容を伝え、それによって重層的な意味を生み出すアイロニックな対位は特徴的な技法である[434]。『Vフォー・ヴェンデッタ』の冒頭で、王族の最新の装いを伝えるラジオ放送が、娼婦として街に立つために身支度する少女の絵と対比されるシーンは一例である[438](当時のコミックでは絵で描かれた内容をそのままなぞるだけの文章が一般的だった[439])。
コマ割り

ほとんどのページが3×3に9等分されている『ウォッチメン』を始め、格子状のコマ割りを用いた作品が多い[440]。米国コミックのコマの形や大きさは1970年代から多様化しており、その中では前時代的にも見える方式だが[441]、ムーアは定型的なフォーマットを通じてリズムを生み出したり[442]、シンメトリーや破調を巧みに利用して語りの効果を作り出した[430][443][444][445]。ムーアの格子状コマ割りは現在まで多くの作家によって引用されている[446]。コマ間の移動ではコントラストや反復が強く意識されている[434]。次のシーンに移るタイミングでは、読者のストーリーへの没入が途切れないように、前のシーンのセリフの一部を次のシーンにオーバーラップさせたり、図像や色彩を引き継がせたりといったテクニックが使われている[447][448](ただしクリシェ化を避けるため後年の作品では多用されていない[449])。
ストーリー上の傾向

『マーベルマン』、『スワンプシング』、『スプリーム』など、既存のコミック作品の原作を請け負ったときムーアが何度も取った手段は過去の経緯を一掃し、主人公を記憶喪失にし、それまで書かれたあらゆることが嘘だったと明かす[450]ちゃぶ台返し[451]である[450]。そうすることで過去の歴史に縛られずにキャラクターをリブートするのである。この方法はコミック界でごく一般的に使われるようになっているが、80年代当時は新鮮だった[452]

ムーアは1984年のインタビューにおいて、小池一夫小島剛夕による日本漫画『子連れ狼[注 47]をストーリーは非常に単純だが、語り方によって大きな重みが生まれていると評し、自身の作風にも通じるところがあると語っている。


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