ムーアは魔術を軸にして言語、芸術、集合的想像力についての考え方を再構成し[115]、キャリア後半の執筆活動を支える思考の枠組みとした[320]。ランス・パーキンはその思考体系が心理地理学(英語版)、蛇神信仰、「イデア空間(→Idea Space)」の三要素にまとめられると述べている[662]。
ムーアがいう心理地理学は、土地の歴史と景観を深く掘り下げ、魔術の象徴体系を用いて一見無関係な出来事の間につながりを見出していくことで豊かな意味のネットワークを引き出してくる方法である[663][664][注 55]。主人公がロンドンの史跡を巡る中で男性性と女性性の神話的闘争が立ち上ってくる『フロム・ヘル』はその典型である[663]。2世紀に作られた蛇神グリュコンの像。
「蛇神」はローマ時代の神グリュコン(英語版)を指す。ムーアは1994年以来この神を崇めていると公言している[667]。グリュコンはアボヌテイコスのアレクサンドロス(英語版)として知られる預言者が創始した教団の信仰対象だが、同時代のルキアノスによると人形の頭を被せた大蛇に過ぎなかった[668]。ムーアはグリュコンが完全な作り事だということを認めているが[669]、それでもペイガン研究者イーサン・ドイル=ホワイトによるとムーアが主張するように想像力は現実そのものと同じくらいリアルなのだから、グリュコンがおそらく巨大なペテンだったという事実そのものが、ムーアにとってはその恐るべき神への信仰に身を捧げるのに十分な理由だったという[670]。
「イデア空間」は人間の意識活動を空間のメタファーで表したもので、意識研究でいうクオリア空間と近い[18]。芸術家によって共有される集合意識空間という考えはムーアの間テクスト的な作風と深く結びついている[671]。後年の作品にはイデア空間が「フィクションの登場人物や概念が住む、現実と相互作用する異空間」という形で繰り返し扱われている[672]。ジャクソン・エアーズはこれらを理想化されたパブリック・ドメインと呼び、著作権の過剰適用や企業によるオーサーシップから芸術活動を守るための寓話として論じた[673][298]。
主要作品詳細は「アラン・ムーアの作品一覧」および「:en:Alan Moore bibliography」を参照
脚注[脚注の使い方]
注釈^ The Original Writer(→原著者)は、著作権の所在が争われている過去作が再版される際に、自身の名を載せることを拒んで用いた筆名である[1]。
^ Translucia Baboon は1980年代に音楽活動を行ったときのステージ名である[2]。デイヴィッド・J(ゴシック・ロックバンド、バウハウスのメンバー)らと結成した The Sinister Ducks というバンドからは1983年にシングルがリリースされている[3]。そのほか、Brilburn Logue の名で作詞を手掛けたこともある[4]。
^ 「メインストリーム・コミック」とは、歴史的にコミックブック出版の主流を占めてきたスーパーヒーロー・ジャンルとその周辺のファンタジーや冒険ものを意味する[10]。
^ The Boroughs、現在は Spring Boroughs[28]。
^ このころ知り合った中には、ケヴィン・オニール(英語版)(『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』)、デイヴィッド・ロイド(英語版)(『Vフォー・ヴェンデッタ』)、ブライアン・ボランド(英語版)(『バットマン: キリングジョーク』)、デイヴ・ギボンズ(英語版)(『ウォッチメン』)がいる[47]。
^ 新聞漫画。形式は横一列に並べたコマ割りを基本とする[76]。
^ 「くまのパディントン」のパロディ[79]。
^ タイトルはSF小説 The Stars My Destination(邦題: わが赴くは星の群)の引用[54]。
^ 当時の週間販売部数は12万部だった[99]。
^ ソープとムーアがこの作品で導入した並行宇宙「アース616(英語版)」は後にマーベル・ユニバース公式の作品世界となった[110]。
^ ただしムーアは差別語(黒人を指す「チョコレート」)や性的な言葉(「童貞」や「生理」)を使わないようにという要求も創作の自由への侵害と見なしたため、デズ・スキンと論争を起こした[113]。
^ 作画デイヴィッド・ロイド。
^ 作画ギャリー・リーチ(英語版)、アラン・デイヴィス(英語版)ほか[117]。