この時期、スプラッター・ホラーで知られるニッチな出版社アヴァター・プレス(英語版)がムーアの未発表原稿や散文作品のコミック化を行った[333]。2003年にはクトゥルフ神話関連作を集めたアンソロジー Yuggoth Cultures and Other Growths と、クトゥルフテーマの短編小説を原作とする「中庭(英語版)」全2号が出た。翌年の A Hypothetical Lizard(→仮想の蜥蜴)全1号は世界幻想文学大賞にノミネートされた1980年代の中編小説が元になっている[334]。2012年には全10号のコミック Fashion Beast [注 42]が刊行された。原作はムーアが1985年に書いた未発表の映画脚本で[335]、音楽プロデューサーのマルコム・マクラーレンから依頼されたものである。クリスチャン・ディオールの生涯をモデルにして異性装と『美女と野獣』を組み合わせた作品の企画だった[335][336][337]。
原作者としての活動末期にはもっぱらホラー作品に注力した[338]。DC離脱によって税金の支払いに窮したムーアはアヴァターからのオファーを受け[339]、「中庭」の作画を手掛けたジェイセン・バロウズ(英語版)と組んでコミックオリジナルのクトゥルフ作品『ネオノミコン』(全4号、2010?2011年)[340]、『プロビデンス(英語版)』(全12号、2015?2017年)を出した[341][342]。ジャクソン・エアーズはこれらの作品を… そこで描かれる暴力と荒廃感には、ムーアが考える現代文化の恐るべき実相が込められていると書き、ラヴクラフトのパルプ・フィクションからジャンル小説やコミックに受け継がれた人種差別性やセクシュアリティ観の系譜を批評的に描き出していると論じた[343]。2016年4月からはアヴァターのホラー・アンソロジー誌 Cinema Purgatorio(→煉獄のシネマ)のキュレーションを務めはじめ、自身でもケヴィン・オニールと組んで同題の巻頭連載を寄稿した[344][345]。主人公が悪夢のような映画館に座り、どこかねじれた古い映画を続けざまに見せられるという体の作品で[346]、軽いパロディ連作のようだが、やはり娯楽産業におけるクリエイターの苦悩や、創作の意味についての考察が読み取れる[333]。 ムーアがメインストリーム・コミックに再復帰する見込みがなくなるにつれて、それまでムーアの意向を慮っていたDC社も『ウォッチメン』の著作権を行使することをためらわなくなっていった[注 43][348]。2009年の映画化や、2012年の前日譚シリーズ『ビフォア・ウォッチメン
コミック界引退へ
ムーアのコミックに対する毒舌は拡大していった[212]。2010年には「出版社が過去作のスピンオフを出したがるのは創造性の欠如」「業界に大した才能がいないのかもしれない」という趣旨の発言を行い[212][349]、DCやマーベルで原作者として活動するジェイソン・アーロンから「現代の作品を読んでもいないムーアの言葉に耳を貸すのは止めよう」と批判されるなど、現役クリエイターから反発を招いた[350][351]。