『プロメテア』(1999年)[注 37]では女子大生の主人公が「想像力の具現化」である女神プロメテアの依代となる。一見すると神話的な女性ヒーローワンダーウーマンへのオマージュのようだが[301]、ストーリーは意外な展開をたどり、主人公はタロットやカバラのような神秘学の象徴体系を通じて世界の成り立ちを学んでいく[263][306]。観念的な内容に合わせて視覚表現の実験が数多く行われている[263][307]。この時期のほかの作品が総じて知的遊戯[308]平均より知的な感性による、競争力十分のジャンル作品[309]などと呼ばれるのに対し、本作には神秘学や芸術論のようなムーアの個人的テーマが色濃く出ている[310]。 DC社はムーアの執筆活動に干渉しないと約束していたが、他社との摩擦や訴訟を引き起こしかねない内容の号を差し止めることがあった[311][312]。そのほか自身の望まない形で作品を利用されたことへの不満もあり、ムーアは再びメインストリーム・コミック界と絶縁することを決めた[313]。2005年にはコミックというメディアは愛している。コミック業界は大体において反吐が出ると語っている[314]。 ムーアはワイルドストーム社でABCを設立するとき、共作者が手にする金額が多くなるように、多少の原稿料上乗せと引き換えに大半の作品の著作権を手放していた。ムーアはジム・リーを信頼して自作を預けたのだが、その後の買収劇により、再びそれらをDCに取得される成り行きになった[315][316]。ABC作品でムーアが書き続けたのは「リーグ」シリーズだけだった[注 38]。当初はスーパーヒーロー・コミックの変種かスチームパンク活劇として始まった「リーグ」だが、作中の時代が現代に近づくにつれて芸術と現実世界の関係を考察する個人的な作品になっていった[317][318]。科学的懐疑主義の大会 TAM London 2010
再びインディペンデントへ: 2000年代?
複数のシリーズを並行して書いていたABC期はムーアのキャリアの中でも多産な時期だったが、2000年代半ば以降はコミックの執筆量が目に見えて減少した[320]。ムーアの精力は小説執筆や神秘学関連のパフォーマンス公演のほか、マッドラブを復活させて2010年に発刊した21世紀最初のアングラ雑誌こと Dodgem Logic(→ドッジェム・ロジック[注 39])に注がれていた[322][323]。