もともとアラビア半島で話されていたが、現在では主に西アジアや北アフリカのアラブ世界で広く話されている。世界で3番目に多くの国と地域で使用されている言語であり、27か国で公用語とされている。また、国連の公用語であり、国連発足後に追加された唯一の言語である。 現代のアラビア語は、次の2つに大きく分類されている。 言語学においてアラビア語は二言語使い分けの典型とされる。同様の二言語使い分けには中世のカトリック教会地域におけるラテン語とロマンス諸語がある。 フスハー(正則アラビア語)はアラブ諸国の共通語であり、アラビア文字で書かれる。起源は西暦4世紀ごろのアラビア半島にさかのぼるといわれ、イスラーム文明の出現と拡大にともなって北アフリカにまで使用地域が広がり、現在まで言語として大きく変わらずに使われている。 イスラームの聖典であるクルアーンは古典アラビア語で書かれているが、これはムハンマドがいたヒジャーズ地方のアラビア語をかなり反映していると考えられる。クルアーンの記述によれば、イスラームを伝えるために神が選んだのがアラビア語だったことから、ムスリムはこれを「アッラーの言葉」としてとらえている。クルアーン(コーラン)はアラビア語で詠唱して音韻をふむように書かれ、またアラビア語原典がアッラーが人類に与えたオリジナル版とされるため、翻訳は教義上原則禁じられる[注釈 2]。クルアーンの勉強や暗誦は敬虔なイスラム教徒の必須の義務とされるが、クルアーンを学ぶためには必然的にアラビア語を読めなくてはならず、アフリカからトルコ、インド、東南アジアにかけてのイスラム圏では、アラビア語がイスラム知識人層の共通語として通用している。 オスマン帝国時代までに書き言葉としてのフスハーは衰退したが、話し言葉としては続けて用いられていた。近代になると書き言葉は簡単なものとして練り直され、近代以降の新しい概念に対応する新語が大量に追加されることで、現代において使用されている現代のフスハーが成立した[1]。 フスハーはアラビア語において公的な面を代表する言語であり、宗教関係のほかに、学術関係や書籍・雑誌・新聞などの文章はもちろん、公的な場での会話やテレビニュースなどの改まった場においても使用される[2]。また、非ネイティブ向けのアラビア語教育もフスハーで行われる。 一方で、日常会話においてはフスハーが使用されることは少ない。 アーンミーヤないし方言は日常会話で用いられる話し言葉であり、国・地域ごとに異なる。正字法
フスハーとアーンミーヤ
フスハー(正則アラビア語・現代標準アラビア語・MSA[注釈 1]) :文章や公的な場面で用いられる。
アーンミーヤ:各地の方言。日常会話で用いられる。
フスハー
アーンミーヤ
エジプト方言、シリア方言、レバノン方言などはマスメディアで多用されるためアラブ世界各地で理解される一方、異なる地域の住民同士では会話に支障が出ることもある。
また、非ネイティブ向けのアラビア語教育は主にフスハーで行われるが、日常会話をスムーズに行うには現地のアーンミーヤを習得する必要がある。 多くの単語は、三つの子音を語根として分析することができる。そこに、母音や接頭辞、接尾辞、接中辞を付けて、語彙を派生したり、活用したりする。形態論的には屈折語である。 アラビア語の表記には、通常はアラビア文字が用いられる。フスハーはアラビア文字による正書法を持ち、アーンミーヤも文字化する際は一般にアラビア文字が用いられる。ただし、マルタ語はラテン文字による正書法を持つ。以下は、アラビア文字の主な特徴である。
アラビア語の特徴
文字詳細は「アラビア文字」を参照
文字一覧はアラビア文字の項を参照。それぞれの独立形が左右の文字と繋がっていく(ただし例外が6文字ある)。
右から左へと読む。数字は左から右に綴られる。
多くの書体が存在する。「イスラームの書法」を参照。
文語(フスハー)はもっぱらアラビア文字で表される。アラビア文字のアブジャド(慣用名称:アルファベット)は従来のアブジャドにおける第1番目の子音であった声門閉鎖音(声門破裂音)としてのアリフ(後世にハムザ(?)として分離されたもの)と弱文字アリフ(?)を同時に1番目に置くか、弱文字アリフを??(ラーム・アリフ)として終盤に置くかで28文字と数えるか・29文字と数えるかの学説に分かれる。
大文字と小文字の区別はない。ラテン文字転写では人名などの語頭が大文字で書かれるが、転写の都合上によるもので、もとのアラビア語では固有名詞の語頭を何らかの違う形で書くということはされない。
口語(アーンミーヤ)には正書法がない。
アラビア文字には母音を示す文字は存在せず、アブジャドに含まれる子音字のみでつづられる。長母音の一部は弱文字を表すためのアリフ(?)や弱文字と呼ばれる半母音のワーウ(?)ならびにヤー(?)を用いるがこれらは母音ではなく無母音の子音という扱いとなる。母音の情報は読む側が補って読まなければならないが、不便が生じることからウマイヤ朝期に発音記号が開発された。クルアーン(コーラン)や低年齢向け児童書籍には正確な発音を示すために母音符号などの符号(シャクル)が付記される。書道作品においても、母音符号は装飾を兼ねて付記されることが多い。まれに、成人対象の詩や小説であっても誤読を避けるため自著に母音符号を付記する作家もいる。
発音詳細は「アラビア語の音韻」を参照
子音には喉の奥のほうで [k] や [ɡ] などを発音するような独特の発音がある。
母音は音韻論的には /a/、/i/、/u/ の3つの短母音とその長母音、二重母音 (/ai/、/au/) を弁別する。
発音例 - アラビア語 曜日
文法詳細は「アラビア語の文法」を参照
定冠詞、前置詞が存在し、名詞と形容詞(アラビア語では名詞に分類される)は格(主格・属格・対格)・性(男性・女性)・数(単数・双数・複数)によって変化する。
女性形、男性・女性複数形には基本となる規則形があるもののそれ以外にもとりうる形が無数に存在するため、個別に記憶しなければならないものが多い。例えば、????????? (mudarrisun, 先生) の複数形は規則形であり、語尾に -?na を付けて、???????????? (mudarris?na) になるが、???????(?ad?qun, 友人)の複数は不規則形であるため、?????????? (?ad?q?na) とはならず、??????????? ('a?diq?'u) になる。
動詞は3人称男性単数完了形を原形とし、語根順配列の辞典では、その形で引くことになる。原型を基本型、第一型ともいう。これに加えて、第二型から第十五型までの派生型が存在するが、現代アラビア語は原則として第十型まで用い、第十一型以降は色の変化などといった限られた場合にしか用いられず、第九型は原則として色彩や人体の障害に関する意味を持つ単語である(ただし、派生型は西欧の学者が考案した学習概念であり、アラビア語を母語とする者は用いない)。