アラビア文字(アラビアもじ)は、アラビア語をはじめ、世界中のイスラム文化圏に属する諸言語を記述するのに使われる文字。ラテン文字、漢字に次いで、世界で三番目に使用者数が多い文字体系である[1]。 文字体系の類型としてはアブジャドに属する。手書きでも活字でも必ず右から左に横書きし、原則として文字と文字を漢字の草書やラテン文字の筆記体のように続け書きにする。また、基本的に子音を表す文字からなっており、短母音を文字によってあらわさない。ただし、初学者の学習のためや、外来語の表記などの用途のために、補助的にシャクルとよばれる母音を表す記号も用いる。 アラビア語に存在する3種の長母音(?, ?, ? / アー、ウー、イー)はそれぞれ無音価(ア行)を表すアリフ (alif) 、[w](ワ行)を表すワーウ (w?w) 、[j](ヤ行)を表すヤー (y??) を使って表す。(なお、他言語の固有名詞をアラビア文字で表記するとき、母音は極力長母音を使って表記する傾向がある。こうした転写などの記述法についてはアラビア文字化を参照。) アラビア語に用いられるアラビア文字はハムザ (?) を除いて28文字であるが、ペルシア語などアラビア語以外の言語では、アラビア語にない子音(p, ch, zh, gなど)をあらわすため点や棒を付加したりした文字を28文字に付け加えて用いる。 アラビア文字の起源はアラム文字である。紀元前3世紀から紀元後3世紀頃までに勢力をもったペトラを中心とするアラブ系のナバタイ人が使用したアラム文字の一派、ナバテア文字を直接の起源としている。当時のナバテア文字は、他の地域のアラム文字と同様に文字同士を連結して、続け書きする特徴があった。ナバタイ人の活動範囲はシリア北部からイエメン方面まで広域におよび、4世紀頃からヒジャーズ(紅海東岸)地方を中心に、他のアラブ人にも用いられ始めた。当初ナバタイ人や他のアラブ人たちはこの文字をアラム語でのみ筆記して使用していたが、次第に自らの母語であるアラビア語も表記するようになった。 ただアラビア語はアラム語よりも子音が多く、さらに最初期のアラビア文字はいくつかの文字で本来異なる文字同士が同じ字形で表記されるという致命的な欠点を持っていた。この問題と続け書き表記のゆえに、文字を区別するために点が加えられたり、続け書きをしない文字が決められ、イスラム教の生まれた7世紀にはおおよその形ができあがっていた。ただし、点の使用は当初は非公式なものとされていたらしく、最初期のクルアーンでは点による文字の区別は排除されていた[注釈 1]。後に、クルアーンを正確に読む必要性からクルアーンにも点が採用されるようになり、さらに母音を表す記号も発明された。現在では点は正書法の一部となっているが、母音記号は日常的な文書では原則として用いられない。 イスラム教布教後のアラビア文字は神(アッラーフ)の発した言葉の記録であるクルアーン(コーラン)や宗教文献の表記に使われたため、イスラム教に改宗した非アラブ民族にも神の教えに近い文字と認識され、ペルシア語をはじめとする多くの言語の表記にも用いられるようになった。 中には近代にヨーロッパ文化の影響を受けて文章語が生まれた時に、あえてアラビア文字による正書法が選ばれた言語もある。 なお、フィリップ・K・ヒッティ(レバノン出身)は、「アラビア文字は、世界でラテン文字の次に広く使われている文字である」と『アラブの歴史(上)』(原著1937年発行)の中で述べた。そして、使用言語として、ペルシャ語、アフガン語、ウルドゥー語、トルコ語、ベルベル語、マレー語をあげた[2]。
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