アメリカ法
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概括的に言えば、多くの州裁判所で、事実審裁判所(trial court)、中間上訴裁判所(intermediate appellate court)、最終審裁判所(supreme court)[注釈 5]の3段階制がとられている州が多いが、中間上訴裁判所がない州もあり、連邦裁判所のように明確な3層構造になっているわけでない。

1審の事実審裁判所は、比較的軽微な事件[注釈 6]や少年裁判所(juvenile court)、家庭裁判所(family court)ように特定の種類の事件を管轄する「制限的管轄権を有する裁判所」と、「一般的管轄権を有する裁判所」に分かれる[注釈 7]

制限的管轄権を有する裁判所では、治安判事が無給の名誉職とされる代わりに、正式な法律上の訓練の経験を一切必要としないものとされ、正式な裁判記録を作成しない簡易な手続がとられている。治安判事が行い得る権限等は州によって異なっている。

一般的管轄権を有する裁判所では、すべての州で裁判官に法律の学位取得が義務付けられているだけでなく、制限的管轄権を有する裁判所の判決についての上訴審理を行い、しかも改めて事実審理をやりなおす覆審制をとっていることにより手続の公正が担保されることになっている。州によっては制限的管轄権を有する裁判所の判決についての上訴審理を中間控訴裁判所が行うところもある。
連邦裁判所と州裁判所の関係

連邦裁判所と州裁判所は、それぞれ独立した関係にあり、上下の関係にあるものではない。

州裁判所の事物管轄は、広く連邦裁判所の排他的な専属管轄に属しない事件に及ぶが、連邦裁判所の第一審として専属管轄を認めるのは、特許に関する事件や倒産に関する事件などさほど多くはないので、連邦裁判所と州裁判所の管轄は競合することもある。このような場合、いずれの裁判所に訴訟を提起するかは、原告が判断することになる。

原告が州裁判所に訴訟を提起することを選択した場合、移送が認められる場合を除き、州最高裁判所の終局判決が最終的な判断となる。州最高裁判所の判決に不服のある当事者は、連邦最高裁判所に上訴ができるが、この場合、当事者の権利として上訴できるのではなく、連邦最高裁判所が裁量によって上訴を許可することとなっており、許可事由も州法が合衆国憲法または連邦法に違反していることが争点となっているときなどに限定されている。

原告が連邦裁判所に訴訟を提起することを選択した場合は、若干複雑である。合衆国では、大陸法系のような民法に対応する形での民事訴訟「法」、刑法に対応する形での刑事訴訟「法」というものはなく、裁判所組織および裁判手続に関する法律の中で、民事編と刑事編の規定が分けられており、法(Law)と手続(Procedure)は区別されている。したがって、連邦裁判所での裁判手続(Procedure)については、連邦法および連邦裁判所施行規則に従うが、実体法(Law)については、その管轄する地方の州法ないしコモン・ローに従うものとされている。1938年のイーリー鉄道会社対トンプキンズ事件判決以来現在に至るまで、連邦裁判所による、州を超えた合衆国全体についてのコモン・ローの形成は認められていない。

いずれにせよ、契約、不法行為、家族、相続、刑事事件など日常の大部分の事件は州裁判所で取り扱われ、または連邦裁判所で取り扱われる場合にも州法ないしその州のコモン・ローに従って解決されている。今まで述べてきた連邦の権限の拡大・強化にもかかわらず、各州は強大な権限を現在でも維持し、合衆国国民にとって単に裁判所といえば、自分が住んでいる行政地区にある身近な州裁判所のことを指すのである。
合衆国の議会

連邦には、連邦議会があり、上院下院に分かれている。

各州は、州議会が一院制の州もあれば、二院制の州もあり、その他にも州議会の会期もまちまちである。
刑事法

連邦の刑事法は、州と比べるとはるかに統一化され合理化しているが、州の刑事法は、州憲法に基づき、州ごとに制定されており、地方色が強い。

連邦の刑事法の執行を職務とするのは、合衆国地区検事である。合衆国では、私人訴追主義をとる英国と異なり、フランス式の検察官制度をとっているが、英国と同様に法曹一元制をとっているため、検察官を弁護士と同じくアトーニー(attorney)と呼び、両者に本質的な差はないものと考えられている。検察官は、起訴不起訴の決定に極めて広い裁量を有し、日本と同じく起訴便宜主義がとられている。州の検察制度は、地方によって異なるが、大きく分けると、大都市型検察官と農村型検察官に分けることができるとされている。

警察官が被疑者を逮捕するのには令状を必要とするのは日本と同じであるが、逮捕後は被疑者を直ちに治安判事の面前に引致しなければならない。治安判事は、逮捕の要件を審査し、要件があれば勾留するが、多くはこの段階で保釈が認められる。裁判所には、保釈保証業者のパンフレットが置いてあることが通常であり、よく利用されている。保釈中に被告人が逃亡した場合、被告人を連れ戻す専門の業者がおり、バウンティ・ハンターと呼ばれている。

嫌疑の事実が重罪または軽罪に関する場合は、予備審問にかけられ後、大陪審に回され、被告人を公判廷に召還して罪状認否手続が行われる。この段階で、検察官の関与の下、いわゆる司法取引が行われる。

被告人が無罪と答弁した場合、事実審理前協議を経た上で、陪審による事実審理が行われる。被告人において陪審審理を拒否し、裁判官による事実審理を受けることも可能である。陪審で有罪となれば、裁判官が刑の量定をするが、プロベーションを付けるなどほぼ無制限の裁量が裁判官に与えられているのが特徴である。
民事法
契約法

契約法(contract law)は、州が制定法を制定し、州ごとに判例法が形成されている。各州では、契約法リステイトメントが重要な権威とされており、少なくとも商取引については州によって重大な違いはあまりないとされている。日本のような典型契約という観念はなく、契約は皆等しいものとして把握されている。判例を補完する制定法として特に重要なものに詐欺防止法がある。統一消費者信用法典によって消費者契約は特に保護されている。
不法行為法

不法行為法(tort law)は、州が制定法を制定し、州ごとに判例法が形成されている。個別具体的な類型に即して成立要件と免責要件が規定されており、各州の間の統一性を図る見地から発行された不法行為法リステイトメントは約1000条に及ぶ類型を定めている。第3次不法行為法リステイトメントは、各州の立法や判例において参照されているが、消費者サイトでなく、企業サイトよりの内容とされていて、各州の事情に応じて取り込み方に若干の違いがある。

不法行為を故意責任、過失責任、厳格責任に分けて考察する見解もあるが、日本のような一般理論とは異なる。

近時は不法行為責任と保険制度を総合的に体系化しようとする試みもなされている。
財産法

財産法(property law)は、州が制定法を制定し、州ごとに判例法が形成されているが、契約法、不法行為法と異なり州によって違いが大きい。主に不動産について規定しているが、我が国の契約にあたる贈与、賃貸借についても規定している。

逆に、日本で物権とされている占有訴権は、侵害訴訟として不法行為法に規定があり、物権と債権に二分する構成ではなく、物的財産人的財産とに二分する構成である。

不動産についても、日本における登記のような制度はないので、不動産の売買は、売主と買主がそれぞれ弁護士に依頼して譲渡証書・権原証書の交付し、代金の清算をして完結行為(Completion)が行われて初めて売買契約が完了するコンベイヤンシング(en:Conveyancing)によってなされている。
家事法
家族法

米国では、州ごとに家族法が制定されており、その内容は州によって大いに異なり、判例にも相当の相違点がある。

米国は生地主義をとっており、米国内で出生することにより米国籍を取得するが、一定の年齢までに国籍を選択し、二重国籍を解消しなければならない。出生は州ごとに管理される出生登録簿に記録されるが、日本における戸籍のような人ごとに出生から死亡までの婚姻離婚などの全ての身分関係を記録するような制度は存在せず、身分証を発行するのが通常である。

婚姻には、州の役場や裁判所の発行する婚姻許可証(marriage license)が必要であり、許可証の発行後一定の期間内に結婚式を挙げる必要があり、役場や裁判所でその事実が確認されて初めて婚姻登録簿に登録がされる。所定の期間内に結婚式をあげなければ婚姻許可証は失効する。

2000年代以降、一部の州によって同性同士の婚姻、同性結婚(Same-Sex Marriage)を認めるようにもなる。2015年6月26日、合衆国最高裁判所は「法の下の平等」を定めた「アメリカ合衆国憲法修正第14条」を根拠に、アメリカ合衆国の全ての州での同性結婚を容認する判決を下した(9名の裁判官のうち同性結婚に、5名が支持、4名が反対、「オーバーグフェル対ホッジス裁判」も参照)。これによりアメリカ合衆国において同性婚のカップルは異性婚のカップルと平等の権利を享受することになった[1]。なお、同性婚の際の配偶者の姓に関しては異性婚と同様に同姓や別姓など様々な選択肢がある[2](詳細は「en:Same-sex marriage in the United States」参照)。

一般に内縁関係と婚姻関係は区別されているが、一定期間の内縁関係を婚姻関係に準じて保護する州もある。

離婚は判決によるのが原則とされてきたが、現在では協議離婚を認める州も多くなっている。1960年代以降は、判決による離婚では破綻主義の傾向が強くなっている。夫婦間に子どもがいる場合、離婚後の親権は共同親権が通常であり、面会交流権が認められているが、トラブルも多い。
相続法

相続自由の原則が認められる現在の米国の相続法だが、イングランド法を継受しているために、人の財産関係はキリスト教精神との関係から一代で完全に消滅するとの建前により、遺産管理の主たる目的は死者のもつ債務の履行であるとされ、その法理は当然に死者の債務も債権も相続人に移転するとの態度をとらない。

13世紀末ごろのイングランドでは、遺産は、相続人が死者の債務を全て弁済した後、遺言執行者に引き渡し、遺言執行者が死者の意思により遺産を分配していた。また、この頃から相続人の死者の法律上の債務についての責任は、遺産の総額の範囲内とされ、現在の日本の限定承認に似た制度が「あるべき法」としてみとめられていた。

合衆国各地域がイギリス植民地時代を終え、その慣習法の継受が終了した段階では、すでに相続人と遺言執行者の地位は逆転していたが、1830年の遺言執行者法(Executors Act,1830)を継受していないため、アメリカでは遺言執行者はコモン・ローの原則どおり、遺言執行者が明らかに遺言者の意思に反しているとされた場合以外は残余財産の所有権は遺言執行者に帰属するとの原則どおりとなり、遺言の執行に関して大きな権限をもつ。つまり、遺言執行者の法的地位は、死者の全ての財産関係の代表者、完全な管理清算機関である。また、遺言執行者と相続人は相互に干渉しないとの原則も受け継がれている。

以上の経緯により、アメリカでもイングランド相続法の人格代表者制度(personal representatives)を採用しており、死者の意思たる遺言により、遺産の受託者的な遺言執行者は死者の意思たる遺言を執行する。なお、これらの建前は相続人を包括継承人として扱い、当然に遺産の財産権が相続人に移転するとする、日本、ドイツ、フランス、などの相続法と大きく異なっている。

検認裁判は遺言の有効性と遺言執行者の遺産への権利を証明するために行われる、死者が無遺言の場合、もしくは遺言の中で遺言執行者を選任していない場合に行われる、英米法独自の相続手続である。人格代表者制度(personal representatives)の建前から、死者名義の所有権のある財産で、共同所有(ジョイントテナンシーJoint Tenancy)や、トラストや契約によるもの以外は、死者との利害関係人との債務の清算のために、プロベートと呼ばれる検認裁判を経て遺産の分配が行われる。


検認裁判(プロベート)では、死者が遺言を残していればその遺言が裁判所に提出され、遺言がなければ遺言なしの申請を裁判所に行い検認の手続を開始させる。


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