アメリカ宇宙軍
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宇宙軍の想定任務は国内法及び国際法に則り、アメリカ合衆国の権益保護及び平和的利用を確保することにある[2]。アメリカ及びその同盟国の宇宙空間における安全保障及び経済活動の確保・宇宙空間における敵対勢力からの保護・統合軍への宇宙関連能力の提供・宇宙空間経由の戦力投射及び関連人材の育成に当たる[6]

その為宇宙軍は宇宙空間における軍事関連の資器材の運用を始め、教義の策定・人員の確保・関連する教育と訓練・独立した軍事的リーダーシップの確立・それらを通じて統合軍の能力強化に当たる[7]

宇宙軍を設置した2020年度国防権限法及び宇宙軍法によると、宇宙軍の任務は次のように定められている。

アメリカ合衆国による宇宙へのアクセスの自由の防衛。

迅速かつ持続的な宇宙運用技術の提供。

そして宇宙軍にはその任務を達成するために、次の通りの義務が課せられる。

宇宙におけるアメリカ合衆国の利益の防衛。

宇宙に対する攻撃及び宇宙からの攻撃の抑止。

宇宙運用の実施。

ドクトリン

宇宙軍は2020年8月10日に最初のドクトリン文書「スペースパワー」を発行した。それによると宇宙軍の基礎的な任務及び責任は次のように記載されている。
行動の自由を守る。

宇宙運用における致死率の低下と有効性の増大を実現する。

独立した作戦を展開する。

この3つの他にも宇宙安全保障・宇宙における戦闘の予測・地球と宇宙の往復や物流の確保・情報共有・宇宙領域の観測の5つを宇宙軍の中心的なドクトリンとして説明している。
名称及び統合軍との差異

宇宙を担任範囲とする軍隊は宇宙軍と呼ばれるが、アメリカ軍には宇宙軍と訳される部隊として、軍種・軍政組織としてのアメリカ宇宙軍(United States Space Force, USSF)と、統合軍・軍令組織であるアメリカ宇宙コマンド (United States Space Command, USSPACECOM)の2つが存在する。なお統合軍もかつてはアメリカ宇宙軍と訳されていたが、混同を避けるためにアメリカ宇宙コマンドという訳語が採用されるようになった。

アメリカ宇宙軍 名称及び差異軍種統合軍
英語名United States Space Force
(USSF)United States Space Command
(USSPACECOM)
組織の分類行政関係・軍政組織作戦関係・軍令組織
他軍種との関係各軍と同格各軍の統合部隊

新軍種設立の利点

民間シンクタンク戦略国際問題研究所は宇宙軍の設立時の利点について、宇宙空間における軍事利用上、大きく3つの組織関連の問題を取り上げ、宇宙軍の設置はこれらの諸問題の解決に有用との報告をしている[8]
宇宙関連資器材取得分担の細分化に対する担当問題

アメリカ合衆国の宇宙関連資器材取得に関する担当部署は、アメリカ国防総省インテリジェンス・コミュニティーなど約60の省部に細分化されている。軍関係では宇宙関連予算の8割が空軍に割り当てられているが、人員や衛星等の資器材も含めて、陸軍及び海軍にも割り振りがある。さらに、アメリカ国家偵察局にも宇宙関連の機密予算が割り振られており、他のインテリジェンス・コミュニティーも含め、空軍と競合関係にある。このように、宇宙に関連する部署が単一でなく、リーダーシップが得られていない状況のため、担当部署も多岐に渡ったままであり、予算が競合している状況を生み、意思決定の遅延や予算の非効率化、作業の長期化をもたらしている[8]
宇宙空間利用関連の人材育成の問題

宇宙空間利用関連の人材は、アメリカ軍およびインテリジェンス・コミュニティーに散在している。そのほとんどの組織では、宇宙関連担当部署の人員は少なく、該当部署のみでは充分なキャリアを得られず、数年ごとの他部署への異動が避けられない。これは専門家育成にとって不利な要素である。既存の軍においては、対象領域に焦点を合わせて人員を集め、教義や戦略、政策を取りまとめてきた。宇宙分野に関しては、統一組織がないため、対象領域に関する対応が不明確となってしまっている[8]
既存の軍種における宇宙空間への関心の問題

既存のアメリカ4軍はそれぞれの軍の担当範囲における作戦への関心が最優先であり、宇宙空間は二義的な支援機能と捉えている。相対的に関心度が低いことは宇宙空間に関する人材の育成を妨げてきた。例えば空軍は宇宙システムを通して他の軍種を支援することに対し、他からの予算割り当てが無いことを問題としてきた。しかし他軍種を支援する宇宙以外の分野において、他からの予算割り当てが無いことを特に問題としていない。このように既存の4軍は宇宙分野と従来の担当分野が競合した場合は従来の分野を優先してきた。例えば2010年度から2014年度にかけて、空軍における航空機関連と宇宙分野の予算は両方とも3分の1程度削減されていた。しかし、その後予算が増加に転じると航空機関連は約50パーセント増加したが、宇宙関連は逆に約17パーセントの削減となっていた[8]
組織

空軍省管轄の組織として設立された。長期的には宇宙軍省(Department of the Space Force)として分離されることも検討事項となっている。既存の宇宙関連部隊は宇宙軍に統合させるが、国家偵察局航空宇宙局海洋大気庁の他にその他の非軍事組織は統合の対象外となる[6][9]。空軍省との関係はアメリカ海兵隊海軍省の関係がモデルとなっている[1]

組織管理・軍政面では、文民統制のもと空軍長官が率いる空軍省の監督下にあり、組織・教育・資器材について責任を有する。また、空軍長官の下に空軍次官と同格の宇宙次官(Under Secretary for Space)を設ける[6]。なお、既存の空軍の資産を用いる場合もあるが、宇宙軍の中枢機能や資産は独立したものとなる[6]。軍事的な宇宙関連活動は他軍種より移管され、予算も別個となる。国防総省内における軍民の宇宙担当者の集中管理も行い、そのキャリア形成を確立させる[6]

軍のトップである宇宙軍作戦部長(Chief of Space Operations, 略称:CSO)は大将とし、空軍長官に直属する。同時に国家安全保障会議に次ぐ安全保障問題審議機関である統合参謀本部のメンバーであり、大統領に対して軍事顧問として助言を行う。ただしその権限は大統領に対する助言に留まり、宇宙軍に対して直接的な作戦指揮権を有していない[6]

空軍長官及び宇宙軍作戦部長は、宇宙軍がアメリカ宇宙コマンド司令官の下で円滑な作戦行動ができるように宇宙軍の編制・採用・訓練・装備を適正な状態にすることを担当している。
組織図

宇宙軍作戦本部(Office of the Chief of Space Operations, OCSO)、国防総省バージニア州アーリントン郡)

宇宙作戦軍団(Space Operations Command, SpOC)、ヴァンデンバーグ宇宙軍基地カリフォルニア州

第2宇宙部隊(Space Delta 2、宇宙領域の観測を担当)、ピーターソン宇宙軍基地コロラド州

第3宇宙部隊(Space Delta 3、宇宙における電子戦を担当)、ピーターソン宇宙軍基地(コロラド州)

第4宇宙部隊(Space Delta 4、ミサイル攻撃に対する警戒を担当)、バックリー宇宙軍基地(英語版)(コロラド州)

第5宇宙部隊(Space Delta 5、宇宙軍の指揮・統制を担当)、ヴァンデンバーグ宇宙軍基地(カリフォルニア州)

第6宇宙部隊(Space Delta 6、サイバー空間を担当)、シュリーバー宇宙軍基地(英語版)(カリフォルニア州)

第7宇宙部隊(Space Delta 7、諜報・監視・偵察を担当)、ピーターソン宇宙軍基地(コロラド州)

第8宇宙部隊(Space Delta 8、衛星通信・位置情報戦を担当)、シュリーバー宇宙軍基地(カリフォルニア州)

第9宇宙部隊(Space Delta 9、軌道上における戦いを担当)、シュリーバー宇宙軍基地(カリフォルニア州)

第30宇宙団(30th Space Wing, 30 SW)、ヴァンデンバーグ宇宙軍基地(カリフォルニア州)

第45宇宙団(45th Space Wing, 45 SW)、パトリック宇宙軍基地(英語版)(フロリダ州


宇宙ミサイルシステムセンター(Space and Missile Systems Center, SMC)、ロサンゼルス空軍基地(英語版)(カリフォルニア州)


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