アメリカの警察
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同委員会の報告書は1931年に大統領に提出されたが、これは米国史上初の警察問題に関する勧告書となっており、各州・地方自治体の警察改革の基本指針となった[3]
第二次大戦後の繁栄と社会の混乱「アメリカ合衆国の歴史 (1945-1964)」、「アメリカ合衆国の歴史 (1964-1980)」、および「アメリカ合衆国の歴史 (1980-1991)」も参照

第二次世界大戦後の国内経済の発展によって「豊かな社会」が実現した。しかし一方で、貧富の差の拡大や宗教的権威、社会道徳秩序の崩壊などから、社会秩序の混乱が生じていた[3]

1950年代よりアフリカ系アメリカ人公民権運動が激化し、1960年代にはベトナム戦争に伴う反戦運動とともに社会の混乱に繋がったが、これらの大衆運動に対する暴動鎮圧が度を越しているとして、警察への反発が強くなった。アール・ウォーレン長官が率いる合衆国最高裁判所(いわゆる「ウォーレン・コート」)は、相次いで捜査活動に違憲判決を下し、警察活動への掣肘を図り、例えば1966年にはミランダ警告の制度が導入された。また各地で市民による警察監視委員会(Police Review Board)の設置が相次いだが、指摘事項が実態と乖離していることが多く、現場の警察官からの反発を招いた[3]

1960年頃までの犯罪発生率は日本と大差がなかったが、この頃から急激に増加しはじめ、1960年から1975年までの15年間で3.3倍に達し、中でも麻薬犯罪の激増が社会に深刻な影響を与えた。この時期には、ケネディ大統領暗殺事件ロバート・ケネディ暗殺事件、また公民権運動の活動家であったキング牧師マルコム・Xアメリカ・ナチ党ジョージ・リンカーン・ロックウェルなど、暗殺事件も相次いだ。またテキサスタワー乱射事件のような大量殺人事件も警備警察の重要問題となり、各地の警察でSWATの創設が相次いだ[3]

これらの情勢に対し、1965年、リンドン・ジョンソン大統領は刑事手続全体の洗い直しのため、法執行と司法管理に関する大統領諮問委員会を設置、この委員会の報告書は、1967年、「自由社会における犯罪の挑戦」として公表された。そして翌1968年、議会は総合犯罪防止・安全市街地法を通過させ、犯罪防止に関する米国史上初の総合法令となった[3]
対テロ戦争の時代「アメリカ合衆国の歴史 (1991-現在)」も参照

従来、連邦政府の法執行機関は各省庁に分散していたが、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件の経験から、国境警備および運輸保安を担当する部門の統合強化が図られ、国土安全保障省が発足した。また長く民警団法(PCA)によって厳格に制限されてきた連邦軍の国内活動も、対テロ作戦を端緒として徐々に解禁されていった[9]

2010年代に入ると、ボストンマラソン爆弾テロ事件オーランド銃乱射事件といったホームグロウン・テロリズムが警備警察の重要問題になった。一方で、対テロ作戦の要請を口実として、SWAT部隊を中心として警察組織の重武装化・行動様式の軍隊化が進んでいるとの批判もあり、これはマイケル・ブラウン射殺事件に伴う抗議行動への対応を契機に顕在化した[9]
各機関の管轄・役割

アメリカ合衆国では、憲法修正第10条に基づいて、基本的に権限はそれぞれの州がもつという連邦制をとっている。また上記の経緯により、一般警察業務は主として地域公安職・自治体警察によって担われており、州や連邦政府の警察組織は、それぞれ特殊な領域を所掌するものが多くなっている[5]
郡の法執行機関
郡保安官

ごとに、法執行官の長として配された保安官。本来的には「シェリフ」と称されるべきであるが、上記の経緯より「マーシャル」や「コンスタブル」と混用されていることも多い。通常は、住民による選挙で選ばれる単独の公選職であるが、これだけでは手が回らないため、指揮下に警察組織を編成して、実業務はこちらに代行させることが多い。この指揮下の人員は、保安官補(deputyないしassistant; 保安官助手とも)と称されるのが通例である。ただし大規模な組織では警察式の階級制度を導入していることもあり、この場合は、実態としては自治体警察とほぼ同様である[8]

本来的には、地域の一般警察業務を一手に担い、管内における下記のような法執行業務の全てを所掌することになっている[8]

治安の維持と犯罪の捜査

郡拘置所・矯正施設の管理

裁判関連事務

しかし実際には、郡の統治機構の発達に伴って、これらを専門に所掌する組織が分離独立している場合も多くなっている。またアメリカ合衆国では、国土がくまなく郡に分割されているが、都市部などある程度の人口が集まった地域では自治体が立ち上げられている場合が多く、自治体の多くは自らの自治体警察を設置している。この場合、郡保安官は自治体が立ち上げられていない非法人地域や、自治体は発足しているが警察を保有しない地域を管轄することになり、日本にかつて存在した国家地方警察に近い性格となっている[8]

現在、3,500ほどの郡保安局/保安官事務所があり、郡保安官のみ1名の事務所から、ロサンゼルス郡のように18,000名もの職員がいる大組織まで、規模は多彩である。警察組織の拡充により仕事量は大幅に減っており、郡保安官そのものを廃す州もある一方で、市の財政難から市警察を廃し、郡保安官に警察業務を返戻する事例もある。
編成例
ロサンゼルス郡保安局
カリフォルニア州ロサンゼルス郡の郡保安官を長とする法執行機関。管轄地域10,578平方キロメートル、管轄人口1,000万人に対して、保安官以下、管理官(Executive Officer; 以前は副保安官(Under Sheriffと称されていた))1名、保安官代理(Assistant Sheriff)4名を含めて職員総数18,000名を数える、世界最大の保安官事務所である[10]
サンフランシスコ保安官局(英語版)
カリフォルニア州サンフランシスコ市郡の保安官を長とする法執行機関。同地は、自治体である市が郡役所の機能を包括する市郡制を採用しており、一般警察業務は自治体警察としてのサンフランシスコ市警察が担当している。郡保安官局はマーシャルのように市郡の裁判所の警備や令状執行、また拘置所、病院などでの法執行にあたっている[11]
ラスベガス都市圏警察(英語版)
ネバダ州クラーク郡の保安官を長とする法執行機関。1973年、郡保安官事務所とラスベガス市警察を統合して発足したもので、郡保安局と自治体警察の性格を兼ね備えている。独自の警察を設置しているノースラスベガス市とヘンダーソン市を除き、郡内全域を管轄としている[12]
郡警察

上記のように、郡保安官は非法人地域の一般警察活動を担うのが原則だが、一方で、独立十三州のような東部の古い州では、治安の維持にあまり重要な役割を演じていないことも多い。このうち、バージニア州メリーランド州などでは、保安官とは別個に郡警察 (County police) が設置されている[13]


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