アポロ7号
[Wikipedia|▼Menu]
宇宙船の機器類およびすべての作業は何の問題もなく進行した。またアポロ宇宙船を月軌道に投入したり、あるいは月軌道から地球に帰還する際に重要な役割を果たす機械船の主エンジン (Service Propulsion System, SPS。機械船推進システム) は合計8回の燃焼試験を行い、推力の誤差は1パーセント以内に収まった。

サターンIBロケットは非常にスムーズに発射されたのに対し、SPSは最初に噴射した瞬間に激しい揺れを発生した。心の準備ができていなかったシラー船長は「ヤバダバドゥー! (Yabbadabbadoo!)」と、原始家族フリントストーンを真似して奇声を発した。エイゼル飛行士はこのときの様子を、「本当に後ろから蹴とばされたようだった」と述べた[7]

アポロ宇宙船は、それ以前のマーキュリー宇宙船やジェミニ宇宙船に比べるとかなり大型のもので、飛行士たちは船内をある程度移動することができた (マーキュリーとジェミニでは、飛行士は座席に縛りつけられてほとんど身動きできなかった)。そのため当初は、飛行士が動くと宇宙船の姿勢を安定させるのが困難になるのではないかと懸念されていたが、それは杞憂に過ぎなかった。飛行士たちは、無重力の環境で体を動かすのは「信じられないほど簡単だ」と報告した。また胎児のように丸まった姿勢で睡眠をとるのは窮屈で苦痛を強いるものであるため、Exer-Genieというストレッチ器具が用意されていた[6]

さらに彼らにはもう一つ、宇宙船内から初めて全米にテレビ中継をするという任務があった。1963年にゴードン・クーパー飛行士がマーキュリー9号でスロースキャンカメラを使って映像を送ったことはあったが、テレビで放映されることはなかった[8]。中継は飛行二日目の正午に予定されていたが、シラーはこれがランデブー実験を阻害するのではないかと懸念していた[9]
宇宙での「反乱」

アポロ宇宙船の比較的広い船内はジェミニに比べるとより快適なものではあったが、11日間の飛行は搭乗員たちにとって決して有益なものではなく、結果的に彼らの飛行士としての経歴に終止符を打たせるものとなった。

シラーとの確執は、飛行主任が発射を決定したときから始まっていた。管制官はロケットが上昇していく初期の段階で、万が一問題が発生して飛行を中止するには決して理想的な状態ではなかったにもかかわらず発射を決断したのである。

軌道に到達すると、広い船室は飛行士たちに宇宙酔いをもたらした。これは宇宙開発の初期のころの狭い宇宙船では問題とはならなかったものだった。また彼らは食事のメニュー、特に高エネルギー補給のデザートに不満を持っていた。さらにゴミ収集システムは扱いづらく (使用するのに30分かかった)、悪臭を発した。しかしながら最も大きな問題は、シラーがひどい鼻風邪をひいたことであった。そのため彼は管制センターからの要求にイライラするようになり、他の飛行士たちも管制官に「口答え」をし始めた。以下は管制センターが船内のテレビカメラのスイッチを入れるように要求した際に交わされた会話である。飛行9日目、シラーが船長席の前にあるランデブー用窓から外を眺める様子。

シラー:君はこの飛行計画に余計なことを二つ付け加えた。小便を船外に排出することもそうだ。そして我々が今ここに持っているのは新型の乗物だ。そして私が現時点で確実に言えるのは、テレビ (中継) が何ら議論を進めることもなくランデブーの後にまでずれ込むだろうということだ。
管制官 (ジャック・スワイガート)  : もう一度言ってくれ。
シラー:了解。
管制官1 (ドナルド・スレイトン) :アポロ7号、こちらは管制官1だ。
シラー:了解。
管制官1:この件で我々のすべてが合意したのは、スイッチをつける事だ。
シラー:(……) 7号の二人の司令官とだな。
管制官1:この特別な行為について我々が合意したのは、スイッチをオンにすることだ。他の行為はテレビ撮影には伴わない。我々はまだこれ (テレビ撮影) をする義務があると思うんだ。
シラー:我々はまだ機器を取り出していないし、セッティングをする機会もなかった。現時点で我々はまだ食事を取っていないし、おまけに俺は風邪をひいているんだ。こんなやり方でスケジュールを台無しにするのは拒否する[10]

管制センターと飛行士たちの関係を悪化させることになったさらなる原因は、シラーがくり返し「大気圏再突入はヘルメットをかぶらないで行うべきだ」との見解を表明したことだった (マーキュリー計画やジェミニ計画では、飛行士は最後までヘルメットを着用していた)。彼らは風邪で副鼻腔の圧力が高まっていることにより、鼓膜が破れるかもしれないという危険性を認識していた。そのため再突入の最中に鼓室の圧力が高まってきたら、鼻をつまんで息を抜き、圧力を均等化できるようにすることを望んでいたのである。アポロで使用されるヘルメットはそれ以前のものとは違い、可動型のバイザーがついていない「金魚鉢」のような構造であったため、ヘルメットをかぶっていてはこの行為をすることは不可能であった。しかしながらシラーは、飛行中はヘルメットは安全上の理由から着用しておくようにとくり返し指示されていた。この件に関して管制センターと交わされた最後の会話では、シラーが命令を馬鹿にして無視したような態度をとったことに対して明確な説明をするよう、管制官が求めていた。

管制官1 (スレイトン):よろしい。私が思うに、君は我々がヘルメットを着用しないで再突入するということに全く経験がないということを、はっきりと理解すべきだ。
シラー:それを言うなら、ヘルメットを着用して帰還した経験だってないだろう。
管制官:それについては、我々はすでに十分な経験を積んでいるんだ。そうだろう。
シラー:もしオープン型のバイザーをしていれば、俺もそれに従っていただろうさ。
管制官:オーケー。なぜオープン型のヘルメットを載せていなかったかについては、着陸するまでにゆっくり議論する準備をしていればいい。いずれにしても今からメットを着用しないで再突入を試みるのは遅すぎる。
シラー:それは承服しかねる。そこにいる連中は我々が今かぶっているメットを自分で着けてみたことなんてないだろう。
管制官:そうだな。
シラー:俺たちは今朝つけたんだ。
管制官:それは分かっている。我々が唯一懸念しているのは、着陸のことだ。確かに我々は再突入に関して十分に考えていなかった。だが、今はそれがネックなんだ。そして我々は君にルールを破ってほしくないんだ。
シラー:そうかい、ありがとよ。
管制官:以上だ[11]

このような会話は、エイゼルとカニンガムを将来的な飛行計画からはじき出す結果となった (シラーはすでにNASAから引退することを表明していた)[6]
大気圏再突入およびその後の評価

着水点は.mw-parser-output .geo-default,.mw-parser-output .geo-dms,.mw-parser-output .geo-dec{display:inline}.mw-parser-output .geo-nondefault,.mw-parser-output .geo-multi-punct,.mw-parser-output .geo-inline-hidden{display:none}.mw-parser-output .longitude,.mw-parser-output .latitude{white-space:nowrap}北緯27度32分 西経64度04分 / 北緯27.533度 西経64.067度 / 27.533; -64.067バミューダ諸島の南南西200海里 (370 km)、回収船エセックスの北方7 nmi (13 km)であった[6]

乗組員と管制官の間に問題は発生したものの、新型司令・機械船の飛行試験をするという計画自体は成功裏に終了し、このわずか2ヶ月後に予定されていた8号の月周回飛行を押し進めることとなった[12]


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:41 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef