注射剤によるアナフィラキシーではあらゆる薬剤で発症の可能性があり、特に造影剤、抗菌薬、筋弛緩薬等による発症例が多く、医療事故調査・支援センター報告書の事例の12 例においても、使用された薬剤は造影剤が4例、抗菌薬が4例(うち蛋白分解酵素阻害薬との併用1例を含む)、筋弛緩薬が2例、蛋白分解酵素阻害薬が1例、歯科用局所麻酔薬が1例であった[8]。 アナフィラキシーショックは初期の急性反応が緩和され一定時間経過後に再び強い反応が出現する二相性反応(二峰性の経過)[9]をとるものがしばしばみられるので、院内で経過観察(約8時間、重症例では24時間)をしなければならない[10]。この二相性反応はアドレナリン投与により抑制できる可能性が報告されている[11]。 アドレナリンの筋肉注射(商品名:エピペン[12])が有効である。アドレナリン(ボスミン0.3mg)筋注(皮下注では血管が収縮するので作用が遅くなるとも言うが臨床上は皮下注でも筋注でも大差はない)はβ2作用で肥満細胞の脱顆粒を抑制する働きがある。アドレナリンは数分で効果が出るが、反応がなければ2回か3回等複数回繰り返すことが必要な場合もある。また、高血圧でβブロッカー(まれにαブロッカーやACE阻害薬でも)を服用している患者ではアドレナリンが効かないことがあるので(下記グルカゴンの項参照)、この場合はグルカゴン1mgから5mgが効果があり、使用される(交感神経を介さず、cAMPを増やすことで効果が出る)。ステロイドや抗ヒスタミン薬は4時間くらい効果がでるのにかかるので救急では使えずに注意が必要であるが、遷延性や二峰性の後半の反応を予防するためにステロイドを用いることはある。また、鯖を食べた場合にアナフィラキシーのような症状を示す場合もあるが、鯖の場合はヒスタミンを含んでおり肥満細胞を介するものではないので、抗ヒスタミン薬やステロイドで充分な場合もある。 医療従事者による気道確保(気管挿管)。 日本アレルギー学会の『アナフィラキシーガイドライン 2014』では、初期対応の手順として下記内容が記載されている[4]。 語源は、ギリシャ語で「再び」などを意味し、行為の反復などをあらわす接頭辞である?να-(ana-)と、同じくギリシャ語で「見張り、警戒」などを意味するφ?λαξι?(phylaxis)である。
二相性反応
治療
対症療法
薬物療法
アドレナリン
アドレナリン(ボスミン0.3mg)筋注を行って反応が悪ければ数分毎に追加投与を要する場合もある。小児の場合は0.01mg/kgずつ行い、最大0.3mg/kgである。数リットルに及ぶ十分な補液が必要なこともある。実臨床上は筋注か皮下注かに拘るよりも「一回量」とその「頻回の繰り返しの要否の判断」が重要である(アドレナリンWikipediaも参照)。
抗ヒスタミン薬
全身性蕁麻疹、血管性浮腫の場合はH1ブロッカー特にジフェンヒドラミンを1mg/kgか2mg/kg、4時間から6時間ごとに点滴する。H2ブロッカーであるラニチジンを併用することも多い。
β作動薬
気管支痙縮に対しては気管支喘息と同様にβ刺激薬
ステロイド
ヒドロコルチゾンを用いる場合が多い。6時間ごとに1mg/kgか2mg/kg投与する。また、プレドニゾンを30mgから40mg、3日ほど内服することもある。
グルカゴン
βブロッカーを内服している場合はアドレナリンの効果不十分のため、用いることがある。1Aで1mgであるため、生理食塩水に溶解して1mgの急速静注を行う。効果を見ながら5分ごとに1mgの追加投与を行っていく。次いで1mg/hから5mg/hで持続投与を行う。副作用としては吐き気やめまい、低カリウム血症、血糖異常などが知られている。βブロッカー内服中の患者のアナフィラキシーショックに対し、グルカゴンで救命した[13]。
初期対応
バイタルサインの確認循環、起動、呼吸、意識状態、皮膚、体重を評価する。
助けを呼ぶ可能なら蘇生チーム(院内)または救急隊(地域)。
アドレナリンの筋肉注射0.01mg/kg(最大量:成人 0.5mg、小児 0.3mg)、必要に応じて 5?15分毎に再投与する。
患者を仰臥位にする仰向けにして 30cm程度足を高くする。呼吸が苦しいときは少し上体を起こす。嘔吐しているときは顔を横向きにする。突然立ち上がったり座ったりした場合、数秒で急変することがある。
酸素投与必要な場合、フェイスマスクか経鼻エアウェイで高流量(6?8L/分)の酸素投与を行う。
静脈ルートの確保必要に応じて 0.9%(等張/生理)食塩水を 5?10分の間に成人なら 5?10mL/kg、小児なら 10mL/kg投与する。
心肺蘇生必要に応じて胸部圧迫法で心肺蘇生を行う。
バイタル測定頻回かつ定期的に患者の血圧、脈拍、呼吸状態、酸素化を評価する。
語源
脚注[脚注の使い方]^ a b 桑鶴良平 監修『知っておきたい造影剤の副作用ハンドブック』ピラールプレス、2010年、15頁。
^ 『World Allergy Organization Guidelines for the Assessmentand Management of Anaphylaxis(WAO Journal2011; 4:13?37)』、
F. Estelle, R. Simons, Ledit R. F. Ardusso, M. Veatrice Bilo, Yehia M. El-Gamal, Dennis K. Ledford, Johannes Ring, Mario Sanchez-Borges, Gian Enrico Senna, Aziz Sheikh, Bernard Y. Thong, 海老澤元宏, 伊藤浩明, 岡本美孝, 塩原哲夫, 谷口正実, 永田真, 平田博国, 山口正雄, Ruby Pawankar「アナフィラキシーの評価および管理に関する世界アレルギー機構ガイドライン
^ “Anaphylaxis”. Health. AllRefer.com (2002年1月17日). 2007年2月20日時点の ⇒オリジナルよりアーカイブ。2007年1月29日閲覧。
^ a b c d e f g h アナフィラキシーガイドライン 2014 (PDF) 2014年11月 日本アレルギー学会
^ 桑鶴良平 監修『知っておきたい造影剤の副作用ハンドブック』ピラールプレス、2010年、25頁。
^ a b c (PDF) ⇒緊急時(アナフィラキシー)の対応. 群馬県. ⇒http://www.pref.gunma.jp/contents/000257107.pdf
^ a b 桑鶴良平 監修『知っておきたい造影剤の副作用ハンドブック』ピラールプレス、2010年、23頁。
^ “注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析 医療事故の再発防止に向けた提言第 3 号”. 医療事故調査・支援センター一般社団法人 日本医療安全調査機構. 2019年3月8日閲覧。
^ 長野智那, 石黒精, 余谷暢之, 阪井裕一, 藤原武男, 大矢幸弘「小児病院におけるアナフィラキシーと二相性反応」『アレルギー』第62巻第2号、日本アレルギー学会、2013年、163-170頁、CRID 1390001204994092928、doi:10.15036/arerugi.62.163、ISSN 00214884。
^ 坂本壮、アナフィラキシーは全例入院が必要 日経メディカル Online 2024/04/25.