アトピー性皮膚炎
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乾燥して表面が白い粉を吹いたようになり、強い痒みを伴う

頭皮にフケが生じやすい(不潔要因ではなく乾燥要因のため、過度な洗髪は逆効果)

傷や炎症軽快後は、長期の黒ずみ(色素沈着)が生じやすい

赤い湿疹、結節などができ、激しい痒みを伴う。痒疹を伴うこともある。

湿潤した局面から組織液が浸出することがある。

慢性化すると、鳥肌だったようにザラザラしたものができ、皮膚が次第に厚くなる。

しこりのあるイボ状の痒疹ができることがあり、この場合難治性である。イボになることもある。

思春期以降は、手指に症状が表れ易くなり、爪元から第二関節あたりが特に酷く荒れやすい

児童期が湿潤型、思春期以降は乾燥型の皮膚炎を起こす

湿潤型は主に首周りや肘膝関節裏、乾燥型は頭皮、額、肩、内腿、内腕に発症し易いのが特徴である。また乾燥型に切り替わるとき、湿潤型の症状は軽快する傾向がある。

診断

日本皮膚科学会の診断基準は、
かゆみ

特徴的な皮疹とその分布

慢性・反復性の経過

で、3つすべて当てはまるものをいう。
検査
血液検査


好酸球好塩基球、IgEなどの上昇がみられる。IgEは総IgEと特異的IgEがあり、特異的IgEではダニなどのアレルギーが悪化要因となっていないかが調べられる。

TARC (Thymus and Activation-Regulated Chemokine) は、血清で測定するケモカインの一種である。病勢に比例して上昇する(健康保険適応あり)。

VAS (visual analog scale)
主観的な掻痒の程度の指標。100%が最も痒みが強い時、0%がまったく痒みがない時として、何%かをみる。主観に頼るため一般的な指標になりにくいが、痒みの改善度をみるのには非常に有用である。また、掻痒だけでなく、掻痒によって生じる睡眠障害の程度もこの指標が利用される。
SCORAD (SCORing Atopic Dermatitis)
発疹の範囲(熱傷 9の法則に準じる)、紅斑・苔癬化などの発疹の多様性、VAS(掻痒・睡眠障害)を数値化し点数にし、重症度を評価する。合計108点満点。アメリカ等で普及している。
EASI(Eczema Area and Severity Index)
体全体の他覚的なアトピー性皮膚炎重症度を表す。乾癬の評価指標Psoriasis Area and Severity Index(PASI)の手法を修正して作成されており、アトピー性皮膚炎において重要な形態的変化の重症度とその広がりから、アトピー性皮膚炎重症度を簡便に評価する。アトピー性皮膚炎の臨床試験アウトカムを標準化するための国際的グループである Harmonising Outcome Measures for Eczema(HOME)によって推奨されている。
経過

アトピー性皮膚炎治療ガイドラインには以下のように記載されている。

一般に慢性に経過するも適切な治療により症状がコントロールされた状態に維持されると、自然寛解も期待される疾患である。と明記されている。
主な合併症

アトピー性皮膚炎体質の人は一般に皮膚が弱く、子供の頃におむつかぶれを起こしやすかったり、各種の化粧品、塗り薬、洗剤などによる接触性皮膚炎を起こしやすいことが知られている。アレルギー反応が強い箇所を中心に、結節を伴う痒疹(結節性痒疹)を生じることがある。慢性化、難治化することもある。円形脱毛症の合併も知られている。
感染症

細菌に関しては、重度の湿疹病変から進入した
黄色ブドウ球菌などによる伝染性膿痂疹(とびひ)をとくに幼児において多く合併することで知られている[19]

伝染性軟属腫(水いぼ)などのウイルスによる皮膚疾患に感染しやすく、アトピー性皮膚炎患者が単純ヘルペスを罹患すると重症化することが知られている(カポジ水痘様発疹症)。

眼科疾患

最近では白内障網膜剥離を合併するケースが増えてきている[19]。網膜剥離に関しては、特に顔面の症状が酷い際の掻破、顔をたたいてかゆみを紛らわせる行動などの物理的な刺激の連続により発生すると考えられている。白内障については原因は、

網膜剥離と同様、顔や瞼の痒みから強く擦ったり叩いたりするからではないか

水晶体は発生学的に皮膚細胞と同じ分類に入るため、アトピー性皮膚炎と同様な病変が起こるのではないか

といった説がある。いずれにせよ、加齢に伴って発症する通常の老人性白内障とは異なる原因で発生すると考えられており、また水晶体が皮質からではなく核から濁ってゆく事が多いという症状のパターンの違いから、「アトピー性白内障」と呼ばれることもある。ステロイド内服の副作用として白内障があげられることから、原因としてステロイド外用剤の副作用が疑われたが、外用剤との因果関係は統計がないため不明である(内服薬の副作用として発生する際は、白内障ではなく緑内障の発生率のほうが高い)。外用剤のみで治療されているアトピー性皮膚炎患者では緑内障の方が少ないということから、ステロイド外用剤は直接白内障とは関連がないとの結論に至っている。
合併症

アトピー性皮膚炎では、様々な病原微生物感染症が合併しやすい[20]。ウイルスでは、単純ヘルペスウイルスや伝染性軟属腫ウイルスで、健常者と比べて罹患率が高く重症化すると広範囲に小水疱が波及し、カポジ水痘様発疹症、疱疹性湿疹と呼ばれる。伝染性軟属腫はアトピー性皮膚炎のものでは難治化しやすい。
治療
薬物療法
ステロイド(副腎皮質ホルモン剤)[20]
ステロイド(副腎皮質ホルモン剤)外用剤は、免疫反応を抑制し、症状を改善する効果がある。外用剤にはランクがあり、「Weak(弱い)」「Medium(普通)」「Strong(やや強い)」「Very Strong(かなり強い)」「Strongest(最も強い)」に分けられ、症状の度合い・炎症の発生部位によって使い分ける。ステロイド外用剤の副作用には、皮膚萎縮、皮膚感染症の誘発、毛細血管拡張などがある。またステロイド外用剤によるproactive療法(アトピー性皮膚炎が寛解している際でも週に1?2回ステロイドを外用することにより症状の増悪を予防する)は再発を予防する目的で各国で行われている使用法である。TARC試験と合わせたアトピー性皮膚炎の皮膚症状のコントロールの方法として注目されている。また外用剤は、内服薬に比べ副作用は少ない。日本の関係学会は「湿疹を覆うように」塗るよう指導しているが、そうではなく2016年にも患者の5割強が「ステロイド薬をできるだけ薄くのばして塗る」と教えられており、標準的な治療法の指導がいきわたっていないとみられている[21]
タクロリムス軟膏(プロトピック®軟膏)[20]
免疫抑制薬のタクロリムスを外用剤として製剤化したものである。濃度は成人用では0.1%、小児用は0.03%である。1993年から治験として使われ始め1999年6月に認可された。ステロイドの「strong」の強さをもつ一方、正常な皮膚には作用せず(分子量が大きいため)、炎症が強く壊れた皮膚にのみ浸透していく性質があり、顔や首などステロイドによる副作用が強く現れやすい顔面や頸部に使われやすい。特にアトピー性皮膚炎で生じる頚部のさざなみ様沈着には効果が高いとされている。使用開始初期にヒリヒリとした刺激感や火照りを感じる人もいるが、徐々に治まってくる事が多い。妊娠中・授乳中は使用禁止となっている。また、胎児や新生児・乳児への影響については報告されていないが、日本では小児用は2歳以上16歳未満、成人用は16歳以上の適応となっている。外用後の強い日光浴は避けるべきとされている。また皮膚癌やリンパ腫の発生リスクの問題に関しても、タクロリムス軟膏外用を行っても自然発生率を超えるものではないとの報告がみられるようになってきた。プロアクティブ療法 - ステロイド等で症状が落ち着いた後、もともと炎症のあった場所に、抗炎症作用のある外用薬を塗布する治療法。再燃を長期にわたって抑えることができる。慶應大学病院皮膚科アトピー外来は、タクロリムス軟膏を用いたプロアクティブ療法の有用性を報告している[22]
抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬[20]
痒みが強い場合、必要に応じて抗アレルギー薬・抗ヒスタミン薬が補助的に使用される。アトピー性皮膚炎の患者では、発疹→痒み→掻破行為→発疹にて悪循環になっていることが多い。そのため、その悪循環を断つという意味で痒みを抑える効果のある抗アレルギー薬はある程度有効である。効果が現れるのには数週間ほど時間がかかるという特徴がある。
保湿外用薬[20]
実際の処方では、ワセリン、プラスチベース等の油性のものや、適度に水分を含んだクリーム状の保湿剤(ヒルドイドソフト軟膏等)がよく処方されるが、医療機関で処方されるものだけでなく、薬局・薬店で購入できるスキンケア製品でも効果が期待できる。ただし患者の敏感な皮膚は製品によっては接触性皮膚炎を起こすこともあり、使用感がよく、かぶれを起こさない製品を選択することが重要である。いろいろ試して、自分に合う保湿剤を探索するのが良い。今後さらに具体的な使用法やセルフケアについてのエビデンスの蓄積が期待される。
シクロスポリン内服療法[20]
シクロスポリン内服療法は、アトピー性皮膚炎治療の強力な選択肢として、日本でも2008年に承認された(先発品のネオーラルのみ)。シクロスポリン内服療法にあたっては、適応、投与量、使用期間について添付文書やガイドラインを遵守すべきであり、患者またはその家族に有効性および危険性を予めよく説明し理解を得た上で投与する必要がある。TDM(薬物血中濃度測定)が必要。
デュピルマブ
既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎を効能・効果として2018年4月に発売された。アトピー性皮膚炎初の抗体医薬品である。
デルゴシチニブ
非ステロイド性の世界初の外用JAK(ヤーヌスキナーゼ)阻害剤として2020年6月に発売された。
ウパダシチニブアブロシチニブ
内服のJAK阻害薬。デュピルマブとJAK阻害薬の有効性、安全性などを比較する試験が施されており、即効性や治療効果などはJAK阻害薬の方が優れていることが示されている[23]
漢方療法[20][24]


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