アタマジラミ
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アタマジラミ幼生

習性

ヒトジラミの宿主はヒトに限られる。他の動物の血を吸うことが出来ても、それで生育は出来ない[5]

アタマジラミは常に頭髪にいるが、コロモジラミは下着の縫い目にいて、吸血時のみ肌に移動する。成虫が1日に吸血する回数は、実験では2回とされるが、現実には4回かそれ以上と考えられる[7]

人体から離れ、吸血できない状態では、コロモジラミは条件にもよるが1週間程度まで生存できる場合がある。この点でアタマジラミの方が弱く、せいぜい2日程度で死亡する[8]
分類と系統上の問題

本種は古くから以下の2亜種に分けられてきた。

Pediculus humanus ヒトジラミ

P. humanus corporis コロモジラミ

P. humanus capitis アタマジラミ

ただし世界保健機関は、これら2種を別種として扱うようになっており、その場合にはコロモジラミを P. humanus 、アタマジラミを P. capitis を使用している。

シラミ類は動物の体表に常在するものであり、衣服のようにその外を住処とするのは異例である。衣服は人類のみが持つものであり、そこを住処とするシラミの存在、その発祥には興味の持たれるところである。コロモジラミが体毛に生息するアタマジラミとごく近縁であることは古くより認められた。分子系統の発達により、これらの近縁性が絶対的な時間を含めて論じられるようになった[9]

それによると、本種に近縁な同属の種がチンパンジーに寄生するが、それと本種が分岐したのは550万年前である。これは、宿主の種分化の時期、つまり人類の起源にほぼ相当する。ただ、問題なのは、ヒトジラミが遺伝的にはっきりした2タイプがあり、一つは凡世界的なもの、もう一つは新世界のものである。

それらが分化したのが、この方法では118万年前となることである。これは、明らかに現生のヒト Homo sapiens の起源を大幅に上回る。ここから推察されるのは、この種分化が、現生のヒトの祖先がホモ・エレクタス H. erectus から分化してきた頃に起こったと言うことである。それから約100万年、ヒト属の2種が共存し、彼等は交雑はしなかったかも知れないが、外部寄生虫の行き来はあったであろう。この様な中でシラミの2系統が生じ、それが共存するに至ったと考えられる。

アタマジラミとコロモジラミが分化したのは、10万年前と推定されている。これは人類が衣類を身につけ始めてすぐのことであったと考えられている。アタマジラミは髪の毛に住み着いて、その部位の肌から血を吸うが、毛の少ない身体の皮膚では繁殖できない。だが、衣類に生息の場を得て、コロモジラミはそれ以外の皮膚での生息が可能になった。さらに、分子系統によると、コロモジラミはアタマジラミの凡世界系統から複数回にわたって発生したと考えられる。最近はケジラミが女性の髪から発見されることがある。これは性行為の方法が変化したためではないかとの観測がある[10]
公衆衛生

感染は接触によることが多いので、集団生活をする場で感染が広がることが知られる。
シラミ症

シラミは宿主特異性が高く、ヒトにつくシラミは常にヒトに寄生し定着して生息している。ヒトがシラミに寄生された状態はシラミ症と呼ばれる。シラミ症自体が生命に関わることはないが、シラミの吸血は激しいかゆみを引き起こすため、駆除による治療が必要になる。

シラミの種類によって寄生する部位が異なり、アタマジラミは頭髪、コロモジラミは衣服、ケジラミは陰毛部をそれぞれ主な生息場所としており、それぞれそこで繁殖して数を増やす。卵や幼虫のうちは気付かないことが多いが、成虫が増殖すると吸血する際に激しいかゆみを生じるようになる。このかゆみは、シラミが吸血する際に注入する唾液分泌物と、アレルギーによるものの、二つの作用によって引き起こされると考えられている。また、このかゆみによって皮膚を掻きむしることで、細菌感染症などの原因になることもある。

シラミはそれを保有しているヒトや衣服と接触することによって感染することが多いが、ごくまれに風呂などを介して感染することもある(通常、アタマジラミやケジラミは水中では体毛にしがみつくため水を介した感染は起こりにくい)。なお、アタマジラミに感染しても、プールの水を介して感染する心配はないため遊泳は可能である。ただし、接触感染により感染が拡大するためタオルや水泳帽などの共有は避けるべきである[11]。一般に衛生環境のよくないところで大量発生することが多く、先進諸国ではDDTなどの有機塩素系殺虫剤の使用によってその発生は激減した。しかし発展途上国においては依然多数の患者が存在しており、また先進諸国においても安全性の問題から有機塩素系殺虫剤の使用が規制されて以降、(特に長髪の)学童でのアタマジラミの流行や、路上生活者におけるコロモジラミの流行、また不特定多数との性行為によるケジラミの流行などが問題になっている。

診断にはシラミ個体の寄生を確認することが第一だが、少数個体の寄生では虫体を視認することが困難なことが多い。特にアタマジラミやコロモジラミはすばやく動くので慣れないと見失うことがある。アタマジラミやケジラミは卵を体毛に膠着させるため、これを確認すればシラミの寄生を確定できるが、ヒトの体毛にはしばしば毛穴内壁の角質が更新剥離したもの(ヘアキャスト)が付着しており、肉眼ではヘアキャストとシラミ卵の区別は困難である。しかしヘアキャストは指でさわると動くのに対し、シラミの卵は髪の毛に産み付けられる際、セメント状の物質で固定されるのでしごいてもほとんど動かない。また顕微鏡および双眼実体顕微鏡、ルーペなどで拡大して観察すれば同定できる。さらにアミノ酸やペプチドと反応して紫色に発色するニンヒドリン試薬を用いると、ヘアキャストは濃く染色されているのに対し、シラミ卵は染色されず白いままとなりシラミ卵の同定は容易となる。

治療には、シラミの成虫から卵にいたるまで完全に駆除することが重要である。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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