アスペルガー症候群
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ハンス・アスペルガーは、彼の幼い患者を『小さな教授』と呼んでいた。その13歳の患者は、自分の興味を持つ分野に網羅的かつ微細な、大学教授のような知識を持っていたからである。

臨床家の中には、アスペルガーの人がこれらの特徴を有することに全面的には賛成しない者もいる。たとえばWing と Gillberg はアスペルガーの人が持つ知識はしばしば理解に根付いた知識よりも表層だけの知識の方が多い場合がある、と主張している。しかし、このような限定はGillbergの診断基準を用いる場合であっても、診断とは無関係である。

アスペルガーの児童および成人は、自分の興味のない分野に対しての忍耐力が弱い場合が多い。学生時代、「とても優秀な劣等生」と認識された人も多い。これは、自分の興味のある分野に関しては他人に比べてはるかに優秀であることが誰の目にも明らかなのに、毎日の宿題にはやる気を見せないからである(時に、「興味のある分野であってもやる気を見せなかった」という報告もあるが、それは他人が同じ分野だと思うものが本人にとっては異なる分野だからだと思われる。例えば、数学に興味があるが答えが巻末に載っている受験数学を自分で解くことに興味が相対的に変化し、日本語の旧字体に興味はあるが国語の擬古文の読解問題には興味が持てない、など)。ノートやテスト用紙に文字を手書きすることを、快く思う子ども、またそうでない子どももいる。一方、学業において他人に勝つことに興味を持ったために優秀な成績をとる人もおり、これは診断の困難さを増す。
社会適応

知能は平均以上で、学校の成績も良かったアスペルガー症候群を持つ成人が、職場では適応障害を起こすことがしばしば見られる[15]。これはコミュニケーションの特異性(空気を読むことが出来ない、会話が一方通行になりがち、あいまいな指示が理解できない、白黒はっきりつけたがる、一般人の持つ常識が備わっていない、同時並行に複数の業務をこなすことができない、急な変更にうまく対応できない、細部に注意が集中し全体像把握が苦手)が理由である。
感覚過敏

アスペルガーの人は他のさまざまな感覚、発達、あるいは生理的異常を示すこともある。その子供時代に細かな運動能力に遅れをみせることが多い。特徴的なゆらゆら歩きや小刻みな歩き方をし、手をぶらぶら振るなど(常同行動)、衝動的な指・手・腕の動きもしばしば認められ、チック症を併発している場合も多い。

アスペルガーの人は感覚的に多くの負荷がかかっていることがある。音やにおいに敏感だったり、あるいは接触されることを好まなかったりする。突然大きい声でまくしたてられたり、頭を触られたり、髪を触られるのを好まない人もいる。音に神経質すぎて不眠を訴える人も多い。これが子供の場合、教室の騒音が彼らに耐えられないものである場合など、学校での問題をさらに複雑にすることもある。別の行動の特徴として、やまびこのように、言葉やその一部を繰り返す反響言語(エコラリア)と呼ばれる症状を示す場合がある。

宮尾益知はアスペルガー症候群の感覚面での特徴として、「ちょっとした態度や言葉で著しく傷つき、それがトラウマとなりやすい」「幻覚や妄想じみたこだわりを見せる傾向がある」「過去のトラウマから、第三者にとってはちょっとしたことでもフラッシュバックを起こして大騒ぎをする」「大変まじめで、それゆえに壊れやすい」という見解を出している[16]
インターネット依存症

アスペルガー症候群の人物は、インターネット依存症になりやすい。2019年に発表された日本の研究によると、インターネットの依存度をテストするYIAT (Young's Internet Addiction Test) において、70点以上をインターネット依存症とした時、一般人口と比較してアスペルガー症候群では約3.72倍、アスペルガー症候群に加えてADHDと診断されたものでは約6.89倍もその割合が大きかった[17]。なお、ADHDのみの場合は、約4.31倍であった[17]
原因
出生前の要因

抗うつ薬、特にSSRIを妊娠中に使用することは、母体のうつ病を考慮しても、子供が自閉症スペクトラム障害になるリスクを増大させるという報告がある[18]

バルプロ酸ナトリウムを妊娠中に使用することは、母体のてんかんを考慮しても、子孫が自閉症自閉症スペクトラムになるリスクを増加させるという報告がある[19][20][21][22][23][24]

ミクログリア仮説詳細は「自閉症#ミクログリア仮説」を参照
生理学的特徴

2012年の京都大学の神経化学研究チームの発表によると、アスペルガー症候群の者は対人相互作用などに強く関係する上側頭溝・紡錘状回・扁桃体・内側前頭前野・下前頭回などの脳全体に占める割合が、通常人と比べ相対的に低いことがわかった[25]
診断

鑑別疾患として、社交不安症強迫症スキゾイドパーソナリティ障害が挙げられる[5]

他の精神疾患と誤診される可能性があるとの意見や報道がある[26]。誤診されやすいものとして統合失調症スキゾイドパーソナリティ障害統合失調型パーソナリティ障害強迫性パーソナリティ障害ADHDナルコレプシーびっくり病が挙げられている[27]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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