胃障害が生じる可能性がある。胃細胞に取り込まれたアセチルサリチル酸は胃粘膜保護に関わるプロスタグランジンの産生を阻害し、胃酸分泌の阻害を引き起こす。アスピリンの服用には確かに利点があるが、不必要なアスピリンの使用は出血のリスクを高める(アスピリン・ジレンマ)[14]。
胃への副作用を抑制するために、現行の市販薬は胃を保護するための薬を配合している物が多い。例えばケロリンのような富山の配置薬は和漢薬のケイヒ末を配合している。他に代表的な市販薬バファリンはアセチルサリチル酸を制酸剤であるダイアルミネート(またはダイバッファーHT)で包んでいる(制酸剤は共にアルミニウム、マグネシウム等の化合物、または合成ヒドロタルサイト)。
風邪(特にインフルエンザや水痘)に感染した小児が使用すると、ライ症候群を引き起こすことがある。肝障害を伴った重篤な脳障害で死亡する危険があるため、小児への使用は禁忌。小児の解熱鎮痛薬は、アセトアミノフェンを使用する。
なお、高尿酸血症の原因の1つとしてアセチルサリチル酸の服用が挙げられているので、痛風患者は、鎮痛剤としてのアスピリンの服用は避けるべきという説がある一方で、尿細管内での尿酸再吸収を抑制するため、尿酸排泄促進剤としても使用されている。
また、抗凝血を目的に高用量のアセチルサリチル酸を服用しても効果が現れないばかりか、胃に多大な負担をかけるので注意が必要である。
アスピリンは、非ピリン系の薬品[15]であり、アンチピリンのようなピリン系の薬品[16]ではない。片仮名表記では「ピリン」の部分が同じなので混乱しやすいが全く無関係である[17]。したがってアスピリンとピリン系の薬品とでは副作用も異なる。 一般的な副作用は次の通りである:吐き気、消化不良、消化器潰瘍・出血、肝臓酵素増加、下痢、ふらつき、塩および体液停留、高血圧、喘息(アスピリン喘息と呼ばれている)。 稀な副作用は次の通りである:食道潰瘍
報告されている副作用
また、医療用医薬品の添付文書には頻度は不明であるが重大な副作用として、ショック、アナフィラキシー、頭蓋内出血、肺出血、消化管出血、鼻出血、眼底出血、中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、剥脱性皮膚炎、再生不良性貧血、血小板減少、白血球減少、喘息発作誘発(上記)、肝機能障害(上記)、黄疸、消化性潰瘍(上記)、小腸・大腸潰瘍が掲載されている[18]。 メカニズムを解明したのはイギリスのロイヤルカレッジ薬理学教授・薬理学者ジョン・ベイン博士である。1971年、彼は、「アセチルサリチル酸は体内での伝達物質(プロスタグランジン)の合成を抑制し、痛み、発熱、炎症に効果を発揮する」ことを解明発表した。実にホフマンの合成から70年以上の歳月が経過していた。 アセチルサリチル酸はシクロオキシゲナーゼをアセチル化することにより阻害しプロスタグランジンの産生を抑制する。つまり、アラキドン酸と競合してシクロオキシゲナーゼを阻害するほかの非ステロイド性抗炎症剤とは異なる機序により抗炎症作用を示す。炎症、発熱作用を持つプロスタグランジンが抑制されることで抗炎症作用・解熱作用を発現する。このときの用量は330 mg1日3回である。また、シクロオキシゲナーゼは血小板の作用に関係するトロンボキサンの合成にも関与している。アセチルサリチル酸はトロンボキサン作用も抑制するため、抗血小板作用も有し、抗血小板剤として81mgから100mgを1日1回の投与を行うことがある。 プロスタグランジンを発見しアセチルサリチル酸の抗炎症作用のメカニズムを解明した薬理学者のジョン・ベイン(イギリス)、ベンクト・サムエルソン(スウェーデン)、スーネ・ベルクストローム(スウェーデン)の3人は1982年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。プロスタグランジンの研究は、この後急速に脚光を浴び、生化学の最先端分野の1つとして今日に至っている。 アセチルサリチル酸は以下の手順で合成される。 フェノールを高温と高圧の下で二酸化炭素と水酸化ナトリウムと反応させて、サリチル酸の二ナトリウム塩を合成する。このカルボキシ化はコルベ・シュミット反応 (Kolbe-Schmitt reaction) と呼ばれ、フェノラートアニオンは共鳴効果によりオルト位の求核性が高まり、これが二酸化炭素に対して求核付加反応する。後処理で二ナトリウム塩を希硫酸で中和し、サリチル酸を遊離させる。 このサリチル酸に無水酢酸を作用させてアセチル化し、アセチルサリチル酸を得る。 現在、バイエル薬品株式会社が製造販売する「アスピリン」と、アスピリンに制酸緩衝剤(アルミニウム・マグネシウム系)を加えたライオンの「バファリン」、粉末状で胃粘膜保護のため、和漢薬(ケイヒ)が加えられた銭湯の広告としても有名な富山めぐみ製薬の「ケロリン」が特に知られており、それぞれ複数の後発医薬品企業から、局方品や後発品相当の製品が発売されている。
飲み合わせ
エタノール(酒):吸収が早くなり作用が強くなる。
イチョウ葉エキス・にんにくエキス(アリシン)・ビタミンE:作用が強くなり出血傾向が増す。
タバコ(喫煙):抗血小板作用が弱くなる。
イブプロフェン:抗血小板作用が弱くなる。
副作用の抑制胃腸薬
胃酸分泌抑制薬
プロトンポンプ阻害薬 - 胃の壁細胞のプロトンポンプに作用し、胃酸の分泌を抑制する薬である。
ヒスタミンH2受容体拮抗薬 - ヒスタミンH2受容体に拮抗し、胃酸の分泌を抑制する。
胃粘膜保護剤 - 荒れた胃粘膜を覆って保護し、修復を補助する。
アルギン酸ナトリウム
制酸剤 - アルカリ性の化合物で胃のpHを上昇させ、増えすぎた胃酸を中和する。
炭酸カルシウム
炭酸水素ナトリウム
作用機序
合成法アセチルサリチル酸の結晶体。
日本での製品