アスガルド古細菌
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長く培養はされてこなかったが、2019年に"Candidatus Prometheoarchaeum syntrophicumの集積培養が報告された[13]。この報告では、最初にサンプルが採取されてからプレプリントが出るまでに12年もかかっている。平均直径は500nmと小さく、成長速度は倍化時間が14?25日、定常期に到達するまでの期間が3ヶ月と遅い。
概要

この系統に所属する古細菌は、代表系統であるロキ古細菌にちなみ北欧神話の神の名がほとんどつけられている[12][14]。その中でもヘイムダル古細菌が真核生物に最も近い位置に多くの系統解析で置かれる[5][14][15][16]。培養株はほとんど得られておらず、断片的なゲノム情報と蛍光染色法による細胞形態程度[17]しか情報が得られていない。真核生物様の遺伝子(ESP)を大量に保有することが特徴で、低分子量GTPアーゼESCRTシリーズ(ESCRT I, II, III,Vps4)、ダイニン軽鎖LC7、BAR/IMDスーパーファミリー、アクチン、 アクチン調節タンパク質プロフィリン[18]、ゲルソリン(英語版)スーパーファミリー[19]を始めとした細胞骨格や細胞変形、SNAREタンパク質のような小胞体制御に必要な遺伝子が多数見つかっており[14][18][20]、祖先真核生物(英語版)(LECA)がすでにある程度の複雑性を獲得していたことを示唆した[21][22]。また、これらのESPは、アスガルド古細菌門にパッチ状に分布していることから、大規模な遺伝子水平伝播、遺伝子欠損、同族拡大の歴史を示している[12]
真核生物との関係

ESCRT-IIIサブユニット(Vps20/32/60, Vps2/24/46)やVps4(CdvCとも呼ばれている)、ATPaseの系統解析から、アスガルド古細菌と真核生物の間には他の古細菌を排除した明確な親和性があり、加えてESCRT-IIIサブユニットの2つのグループの分岐は、アスガルド古細菌の祖先ではすでに発生していたことが示された[15][23]。このことから、真核生物のESCRT複合体はアスガルド古細菌の祖先から直接受け継いだものと示唆された[15][23]。実際にアスガルド古細菌が真核生物のESCRT複合体と進化的にも機能的にも類似点が多いことが実験的に判明している[15]。アスガルド古細菌の一門、オーディン古細菌の一種Odinarchaeceae Tengchongは、ESCRTシリーズの酵素群が全て揃っていて、ESCRTに必要であるVps28が真核生物特有なC末端ドメインを保有している、唯一の原核生物として報告されている[24][25]。さらにユビキチン結合ドメインタンパク質をコードする遺伝子が同定され、ヘイムダル、ロキ、オーディン古細菌のユビキチン-ESCRTタンパク質の相互作用解析の結果、一部のアスガルド古細菌がユビキチンと協調して機能するESCRTシステムを持つことが示された[26][27]

アスガルド古細菌のプロフィリンの結晶構造は真核生物と似ており、アクチンの結合機能に適した構造をしている[18]。真核生物のプロフィリンとの相違点は、真核生物アクチンが集まる際に利用されるプロリンに富む領域が存在しない点と、脂質PIP2存在下で反応性が極めて低い点である[18][28]とされてきたが、ヘイムダル古細菌のプロフィリン(heimProfilin)はPIP2と相互作用し、ポリプロリンモチーフによって制御されていることが判明した。実際に、プロフィリン存在下でのアクチン重合反応がin vitroで観測されている[21][29]

トール古細菌のゲルソリンスーパーファミリーはアクチンフィラメントの切断、キャッピング、アニーリング、束化などの様々な活性や、ゲルソリン/コフィリン結合部位に結合することがin vitroで確認されている[19]。真核生物のゲルソリンスーパーファミリーは一般的に3?6個のドメインで構成されている一方で、アスガルド古細菌のゲルソリンスーパーファミリーは、シングルドメインおよびダブルドメインであることから、ゲルソリンスーパーファミリーは初期の真核生物で遺伝子重複が起きた可能性が示唆された[19]

小胞融合プロセスの中心的な役割を果たしているSNAREタンパク質がヘイムダル古細菌にコードされていることが判明しており、実際に真核生物のSNAREタンパク質と相互作用することが観測されている[20]

この他、ユビキチンや他の古細菌には見られない真核型リボソームタンパク質(L22e、L28e)、系統によってはチューブリンに相当する遺伝子も見つかっている(オーディン古細菌)[14]

2019年にロドプシンファミリーとしてType-1ロドプシン、ヘリオロドプシンに加えて、これまでにないタイプのロドプシン、シゾロドプシン(Schizorhodopsins)が発見された[30]。2020年にシゾロドプシンは光エネルギーを使って細胞内へ水素イオンを取り込む機能を持つことが判明した[31][32]。アスガルド古細菌は光や酸素の無い海底や湖底の泥の中に棲息していることから、どのようにして多くの真核生物が棲む、光や酸素のある環境に進出できたのか、その進化的なプロセスが不明であったが、シゾロドプシンの機能解明に伴い、太陽光と酸素のある環境へ進出する際に、この独自の光駆動型の内向き水素イオンポンプを持つようになったことが示された[31][32]

2020年にロキ古細菌とヘイムダル古細菌が、古細菌で初めて大型のrRNAの拡張セグメント(真核生物に特異的なrRNA領域、ES)を保有することが判明した[33]。ロキ古細菌とヘイムダル古細菌のLSU rRNAは2つの真核生物ES(ES9とES39)に由来することが示され、真核生物のrRNAの拡張は段階的かつ反復的におこなわれてきたとするリボソームの進化モデル「accretion model」[34][35]と一致する結果が示唆された[33]

真核生物にはないアスガルド古細菌特有の特徴として、CRISPR-Cas関連システムの多様性が発見されている[36]
代謝

ゲノム情報からは多様な栄養要求性を持つことが予想されており、ロキ古細菌は水素依存性の嫌気性独立栄養生物[37]、トール古細菌は有機物と硫黄に依存する嫌気性の従属栄養生物[38]、ヘイムダル古細菌は光エネルギーを利用する好気性の混合栄養生物[17]、ヘル古細菌は嫌気的に炭化水素サイクリングが可能な生物[5][22]、シル古細菌は嫌気的にメチル酸化(methylotrophy)が可能で、多糖類を分解できる生物と考えられている[10]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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