アシュケナジム
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ポーランド王国は当初彼らを、チュートン騎士団ドイツ人勢力との結びつきが強いドイツ人移民に代わる専門職移民として歓迎した。彼らの中には、ポーランド・リトアニア共和国で成功し、金融業や商人、地主や貴族階級(シュラフタ)になった者、そしてヨーロッパに来て初めて農業を営んだ者もいたが、その点が西欧に住み続けたユダヤ人たちと異なる。

中世末期の欧州では、諸国の王がその時々の利得をはかって、ユダヤ人にしばしば保護を与えていた。これは予告なく撤回もされるものだった。アシュケナジム(東欧系ユダヤ人)のポーランド移住の初期における身分は、そのような政策の特徴をよく示している。ヴィースラ川の王国(ポーランド王国)にやってきたユダヤ人は、祖国で享受していたものと同等とされる特典をいくつか与えられた[5]

1264年カリーシュボレスワフ公が、マグデブルクの勅令を範として彼らに与えた身分は、その典型であり、後代に各地で模倣された。この制度のもと、ユダヤ人社会は、その宗教と「民族的出自」ゆえに、特殊な社会集団としてコミューン(ヘブライ語で「ケヒラ」)を組織し、内部自治を行うことが認められていた。ユダヤの人間と財産は君主の所有物(servi camerae)であるとされ、これを害するものは君主の財産を害するものと見なされた[5]

1334年ポーランド王カジミエシュ三世により、この制度は王国全体に広められた[5]

1388年には、リトアニアヴィータウタスもそれに倣った。この移民誘致策に下心がないということはなく、「庇護民」を搾取するのは当たり前となっていた。それが高度に磨かれると「海綿しぼり法」が用いられる。表向きは、気前よく特典と保証をふるまって、他国で迫害されているユダヤ人を引き寄せる。彼らが十分に繁栄し、金を蓄えたころを見はからって、国外に追放し、財産と利権を取り上げる。またユダヤ人たちに、戻ってきて、剥奪された財産と特典を買い戻さないかと持ちかけた[5]

フランス革命による平等思想の啓蒙や、ポーランド分割による国境の消滅により、アシュケナジムの中にはふたたび西欧に戻ったり、新大陸へと移住したりするものも現れた。しかしその大多数は現在のポーランドベラルーシウクライナ西部(ガリツィア)の三地域に居住した。

19世紀末から20世紀前後にロシア帝国ポグロムや反ユダヤ政策、ヨーロッパ諸国での反ユダヤ主義勃興により、ユダヤ人自身の国民国家約束の地に建国することを求めるシオニズムの思想が生まれ、ポーランドやロシアなど東欧からオスマン帝国領のパレスチナに入植する人々が現れた。第一次世界大戦中、1917年ロシア革命でロシア帝国が崩壊した後に誕生したソビエト連邦では国家指導者のウラジーミル・レーニンの母方にユダヤ系がいた他[注釈 1]レフ・トロツキーを筆頭に多くの主要人物がユダヤ人だったため、その統治組織であるソビエト連邦共産党ボリシェヴィキ)、およびその支配原理としてユダヤ人のカール・マルクスが作った共産主義(マルクス主義)は、欧州諸国やアメリカ合衆国などの各国政府や支配層・資本家にとって反共主義と反ユダヤ主義がまざった恐怖と憎悪の対象となった。一方、当のソビエト連邦では民族平等が唱えられて革命直後に反ユダヤ主義立法が撤廃されたが、レーニンの死後に独裁者となったヨシフ・スターリンはトロツキーやグリゴリー・ジノヴィエフなど多くのユダヤ系要人を粛清した。1928年にその原型が成立したユダヤ自治州は広大なシベリアの一角、アムール川沿いにユダヤ人の入植地や新たな故郷を作る政策だったが、1930年代後半にソ連国内で反ユダヤ主義が強まるとこの試みは事実上失敗した。

1933年にドイツではナチスのアドルフ・ヒトラーが首相に就任すると急速に反ユダヤ主義政策を実施し、多くのユダヤ系ドイツ人がアメリカ合衆国やイギリス委任統治領パレスチナに逃げるように移住していった。1939年、ドイツとソビエト連邦によるポーランド侵攻が起きてポーランドが占領され、ポーランドを含むヨーロッパのユダヤ系の人々はナチス・ドイツが引き起こしたホロコーストにより多くが死亡した。1945年に第二次世界大戦が終わると強制収容所から生存したユダヤ人は再び大規模移住を始め、今度はポーランドやソ連などからアメリカやパレスティナに向かい、後者はイスラエル建国に大きな役割を果たした。
ポーランドのユダヤ人
第二次世界大戦前

第一次世界大戦後に独立を果たしたポーランド第二共和国は、ポーランド分割以前のポーランド国家同様、再び世界最大のユダヤ人人口を抱える独立国家となった。

ユダヤ系ポーランド人は、多くは商人となり時にその地域の富裕層になったりした[6]。 ユダヤ人は靴屋や仕立て屋などになったり、医者(ポーランドの全医師の56%)、教師 (43%)、ジャーナリスト (22%) そして弁護士 (33%)であった[7]


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