アシドーシス
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酸塩基平衡の理論としては物理化学ヘンダーソンとハッセルバルヒによる式が有名であり、ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式といわれる。詳細は「ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式」を参照
アシドーシス

アシドーシスは、体内の酸塩基平衡を酸側に傾かせようとする力が働いている状態。軽症であったり、重症であってもアルカローシスと合併すれば、ホメオスタシスによってアシデミアにならない事もある。
呼吸性アシドーシス

呼吸性アシドーシスは呼吸不全によって二酸化炭素が体内に蓄積したために起こるアシドーシスである。これはPaCO2の上昇する病態の存在が考えられる。これは肺胞低換気の病態に等しく、呼吸器疾患、神経筋肉疾患、循環器疾患、人工呼吸器の調節不全で起こりえる。呼吸中枢から換気の指令が十分に行われない場合、これは延髄の呼吸中枢の障害や鎮静剤よる呼吸抑制効果、代謝性アルカローシスの代償によっておこる。呼吸中枢の命令に応じられない病態としては神経障害や横隔膜をはじめとする呼吸筋の障害や呼吸筋疲労が考えられる。また、肺のレベルで呼吸を行っていても、閉塞性無気肺など下気道閉塞が起こっているときも代謝性アシドーシスとなる。肺気腫喘息でも同様の病態が生じる。アシデミアが存在し、その原因が呼吸性アシドーシスである場合は基本的にU型呼吸不全の状態であり緊急事態の可能性がある。生命維持のためには気管挿管のうえ人工呼吸器を使用する必要がある。なお、単に高濃度の酸素のみ投与すると、低酸素刺激がなくなるため呼吸中枢が抑制されむしろ呼吸停止をきたす(CO2ナルコーシス)おそれがあり危険である。そのためSpO290%を目安に酸素濃度を調節する[1]。軽症の場合は重炭酸イオンの増大のみが見られてpHは正常範囲内にとどまることがあり、補正された呼吸性アシドーシスと呼ばれる。これは緩衝系による代償性代謝性アルカローシスが起こったためであり、慢性疾患の可能性を示唆する。
代謝性アシドーシス詳細は「代謝性アシドーシス」を参照

代謝性アシドーシスとは酸性物質が排泄されない、不揮発性酸性物質が過剰に産生されている、重炭酸イオンが排泄されているなどの理由から起きるアシドーシスである。なお不揮発性酸性物質とは呼吸によって排泄されない酸のことである。代謝性アシドーシスによるアシデミアが存在する場合、緩衝系の働きとして二酸化炭素を排泄する呼吸性アルカローシスを用いてアシドーシスを打ち消そうとする。よって呼吸が激しくなり、自覚症状として呼吸困難感を覚えることもある。

代謝性アシドーシスにはアニオンギャップ(AG)が増加するものと、増加しない高クロール血性代謝性アシドーシスがある。AGの増加はそれだけで代謝性アシドーシスが存在するといえる重要な所見である。気をつけなければいけないこととしてAGは低下する病態が存在することである。具体的には低アルブミン血症、IgG多発性骨髄腫、ブロマイド中毒、高カルシウム血症高マグネシウム血症高カリウム血症が存在する。特に低アルブミン血症のためAGの増加がマスクされることはよくあり、アルブミンが1mg/dL低下するごとにAGは2.5?3mEq/L低下することが知られている。これはアルブミンがアニオンであるためである。もしAGが増加していたら補正重炭酸イオンを計算する。これは補正重炭酸イオン=重炭酸イオン+ΔAG(ΔAG=AG-12である)で計算され、これは代謝性アシドーシスを来たした陰イオンの増加分がなかったと仮定した場合の重炭酸イオンの値である。そしてその値をもとに代償性変化が予測範囲内にあるかどうかを検討し、予測範囲外ならばどのような病態が合併したのかを考える。
AG増加性代謝性アシドーシス

AGの増加は不揮発酸の蓄積を示す。人間の身体は電気的に中性である。すなわち、陽イオンの価数だけ陰イオンが存在する。陽イオンは主にナトリウムイオンであり陰イオンはクロールイオン、重炭酸イオン、有機酸である。よってAGを以下のように定義すると大雑把に有機酸がどれ位あるのかを把握することができる。AG=ナトリウムイオン?(クロールイオン+重炭酸イオン)である。正常値は12±2mEq/Lである。カリウムイオンを考慮することもあるがその場合は正常値が16前後となる。
内因性物質の代謝によるもの
乳酸アシドーシスやケトアシドーシス、尿毒症で起こる。ケトアシドーシスの原因としては糖尿病性ケトアシドーシス、アルコール性ケトアシドーシス、飢餓によるものが知られている。また重要な原因としては痙攣発作後の代謝性アシドーシスもAG増加性代謝性アシドーシスである。これは痙攣発作によって筋肉から乳酸が放出されるためと考えられている。救急の現場ではAG増加性代謝性アシドーシスはKUSSMALと覚えられる。これは糖尿病性ケトアシドーシス、尿毒症、サリチル酸中毒、敗血症メタノールアルコール中毒、アスピリン中毒、乳酸アシドーシスである。
外因性
メタノール、エチレングリコールサリチル酸パラアルデヒドによる中毒で起こる。特に外因性のAG増加性代謝性アシドーシスを疑う場合は浸透圧ギャップを計算してみると明らかになることもある。
高クロール性代謝性アシドーシス

AGが増加しない代謝性アシドーシスである。頻度としてはこちらの方が明らかに多い。重炭酸イオンの喪失、尿細管での水素イオン分泌障害、塩酸の投与といった原因によって起こる。呼吸性アルカローシスの代償もこの機序で起こる。
重炭酸イオンの喪失
下痢や尿管S状結腸吻合、アセタゾラミドの投与によって重炭酸イオンは喪失される。また近位尿細管性アシドーシスでも重炭酸イオンの喪失は起こる場合がある。
尿細管での水素イオン分泌障害
近位尿細管性アシドーシス遠位尿細管性アシドーシス、尿細管や腎間質の疾患、低アルドステロン症では尿細管での水素イオンの分泌障害がおき代謝性アシドーシスにいたる。なお尿細管性アシドーシスではしばしば低カリウム血症を伴うことが特徴である。
代謝性アシドーシスとカリウムの関係

アシドーシスは高カリウム血症を伴い、アルカローシスは低カリウム血症を伴う。代謝性アシドーシスを生じるような病態では組織、細胞傷害や腎機能の低下が生じていることが多く、高カリウム血症になりやすい。


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