アシダカグモ
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日中は樹皮の下・倒木・朽木・崖の窪みなどに潜み、夜になると樹幹・崖地・草地などを徘徊する[10]

日本には、森林の落ち葉や枯れ木の下にもよく似たクモがいるが、これはコアシダカグモ(Sinopoda forcipata)といって別種である。この種は以前は同属とされていたが、現在は別属とされている。ただしその判別は生殖器の特徴により、外部形態ではほとんど差がない。判別としては、アシダカグモよりやや小柄で足が短く、体色が濃い褐色である点が異なるが、非常によく似ていて紛らわしい。本州から九州まで分布し、中国からも記録がある。コアシダカグモは野外の自然環境の保たれた場所に生息し、室内性のアシダカグモとは棲み分けているようであるが、希に室内や建物内で発見されることがあり、上記のように誤認されたと思われる例もある。

なお、コアシダカグモ属にはさらに別種があり、琉球列島には地域ごとの別種がいるほか、近縁の別属カワリアシダカグモ属の種も発見されている。
繁殖卵嚢を抱えているメス成虫

日本に生息するメスの産卵期は5月 - 8月ごろである[10]。母グモは平均300個程度(180 - 440個)の卵を糸で包んで円盤形の卵嚢を形成し、これを触肢・牙・第3脚で抱えて持ち歩く[注 7][10]。その間、孵化した幼体は卵嚢内で1回脱皮する[10]。母グモは卵嚢から幼体が出てくる直前、幼体の入った卵嚢を糸で壁面に固定する[10]。子グモは7 - 10日後に出廬して風通しの良い場所へ移動、腹部から糸を出し、風に乗って糸とともに飛散する(バルーニング)。メスは10回、オスは9回の脱皮を経て、約2年で成虫になる[10]

孵化した子グモは、しばらく卵嚢の周りの壁にたむろしているが、これを発見した人などが手を加えると次の瞬間に子グモたちはそこら中へと走り出す。
人との関わり

その不気味な姿から不快害虫とみなされ、人家内に出現すると駆除の対象とされることが多い[20]。しかし人間への攻撃性はなく[注 8]、網で家屋を汚すなどの実害もない[21]コオロギを捕食するアシダカグモアシダカグモ

一方で、人家内外に住むゴキブリハエなどの衛生害虫を捕食してくれる益虫[22]本州では主に家屋内に生息するクロゴキブリを捕食する[11]。また、ゴキブリを食べている最中の本種に実験的に他のゴキブリを与えると、接触していた餌(ゴキブリ)を置いて新たな獲物を捕食しようとする習性があるため、その捕食効率はかなり高いと推定される[注 9][23]。ただし本種はテリトリーを持ち、1室に1個体しか生息しないため、ゴキブリ類の決定的な天敵とはなりえないとされる[23]

クモが捕食対象へ注入する消化液には強い殺菌能力があり、また自身の脚などもこの消化液で手入れを行う。それはアシダカグモも同様であり、食物の上などを這い回ることも無いため、徘徊や獲物の食べ殻が病原体媒介などに繋がる可能性は低い。

駆除には蠅叩き[11]、ゴキブリ用エアゾール(殺虫剤)が有効だが、安富和男・梅谷献二 (1995) は「本種やハエトリグモなど、クモ類の多くは屋内害虫を捕食する有益な天敵であるため、むしろ保護すべき小動物」[8]「本種は屋内性のクモ類の中では最も保護すべき種類」と指摘している[23]。また、斎藤慎一郎 (2002) も「ゴキブリを駆除するために殺虫剤を撒いてクモまで殺すのは愚かだ。本種やオオヒメグモ(部屋の隅に巣を造る)は駆除しなければ、彼らが適当に(家の中の)ゴキブリを食べてくれる」と指摘している[24]

宮古島沖縄県)では家に住むアシダカグモを珍重する風習がある[注 10][24]ほか、西表島では本種を「イエグモ」と呼び、卵嚢を潰して腫れ物の吸い出し薬に用いる風習(民間療法)もあった[25]。一方、石垣島では「ヤクブ(アシダカグモ)はハブと同じくらい強い毒を持っているから、見つけたら殺せ」と伝承されている[注 11][26]

昆虫学者である安富和夫の著書「ゴキブリ3億年のひみつ」によると、アシダカグモが2、3匹程度居る家では、大きな巣を作り繁栄しているゴキブリが半年以内に全滅するという。その後は別の獲物を求めてその家から姿を消すことから、インターネット上では最前線で戦う軍隊の中核を担う「軍曹」に例えて「アシダカ軍曹」と呼ばれている[27][28]
脚注[脚注の使い方]
注釈^ 熊野地方三重県および和歌山県)や四国徳島県高知県)、宮崎県、沖縄県(国頭郡西表島)などでこう呼ばれている[4]北海道ではオニグモを「イエグモ」と呼ぶ[5]
^ 本種に匹敵する大型の徘徊性のクモとしてはオオハシリグモ南西諸島固有)がいる。
^ 建物(民家神社仏閣納屋など)のほか、野外(雑木林竹林社寺林など)に生息する[10]
^ 壁や塀の隙間、柱の割れ目など[14]
^ ゴキブリの死骸の一部(など)が落ちている場合、それは本種の食べ残しとされる[11]
^ クモバチ科 Pompilidae はかつてベッコウバチ科と呼ばれていた[15]
^ 子グモが孵化するまで餌を食べず、卵嚢を持ち歩く。
^ 基本的に臆病で、人間が近寄ると素早く逃げようとする傾向が強く、近くの壁を叩くなどの振動にも敏感に反応する。ただし、素手で掴み上げるなどすると、防衛のため大きな牙で噛みつかれる場合がある。
^ 一晩で20匹以上のゴキブリに噛みついたという観察記録もある[20]
^ 特に、卵嚢を抱えたメスは縁起が良いとされる[24]


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