アカマツ
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冬芽は赤褐色の鱗片に覆われ[9]、伸びて新枝になって、下部に雄花がつき、後に先端に雌花をつける[4]
生態

他のマツ科針葉樹と同じく、菌類と樹木のが共生して菌根を形成している。樹木にとっては菌根を形成することによって菌類が作り出す有機酸や抗生物質による栄養分の吸収促進や病原微生物の駆除等の利点があり、菌類にとっては樹木の光合成で合成された産物の一部を分けてもらうことができるという相利共生の関係があると考えられている。菌類の子実体は人間がキノコとして認識できる大きさに育つものが多く、中には食用にできるものもある。土壌中には菌根から菌糸を通して、同種他個体や他種植物に繋がる広大なネットワークが存在すると考えられている[12][13][14][15][16][17]。アカマツ苗木に感染した菌根では全部の部分の成長を促進するのではなく、地下部の成長は促進するが地上部の成長はむしろ抑制するという報告[18]がある。外生菌根性の樹種とアーバスキュラー菌根性の樹種(論文内ではスギ Cryptomeria japonica)は相性が悪く、スギとの混交林では菌根菌の種類が減少するという[14]

アカマツは尾根沿いや岩場などの貧栄養地によく分布する。このような場所は土壌が酸性のことが多く、アカマツは窒素の利用形態として硝酸態窒素ではなく、アンモニア態窒素をより利用することで適応していると考えられている[19]。肥料分の多い土地を嫌うというわけではなく、苗木に対して施肥を行うと非常に成長がよくなるとされる[20]、また種子の産地によって肥培試験での成長に差が出ることが報告されている[21]。アカマツは多雪には弱い[22]。特に積雪地では雪の吹き溜まるような場所では苗木が定着できないとされ、このことも比較的雪の少ない尾根上によく出現する理由となっていると見られている[23]。種子は雪に埋まった環境で進展する雪腐病にも弱いという[24] 。多雪地に適応できるかできないかの差の理由の一つに樹形が考えられており、適応できない種はハイマツ(Pinus pumila)のような地を這うような樹形に変形できないために雪圧を強く受けてしまうからではという推測がなされている[25]

アカマツの遺伝的な多様性は西日本のものよりも東日本のものが高いという[26]

アカマツが優勢な森林では共生できる植物が限られ、林床には植生が発達しない状況がしばしば見られる。アカマツの葉の抽出物質は一部の植物の発芽を妨げるアレロパシー(他感作用)を示すという[27][28]。また、落ち葉を頻繁に除去している地域でも同様の現象が見られ、生体から葉以外の経路でも放出されていると見られている[29]。なお、キノコの子実体の水抽出物にもアレロパシーを示すものがある[30]とされるが、アカマツ林の菌類がどの程度のアレロパシーを持つのかという点はよくわかっていない。

更新は実生による。萌芽更新(Coppicing)や伏条更新を行うことは知られていない。また、挿し木困難樹種として知られる。人工的にも苗木は実生、もしくは庭木などの場合は接ぎ木苗で生産しているが、親の遺伝子を確実に受け継ぐクローンである挿し木技術についても病害対策などから研究が進められている[31]。小さな挿し穂を用いる所謂「マイクロカッティング」[32]、挿し穂の薬剤処理[33]、挿し床の加温[34]、湿度を保つ密閉挿し[35]などによって発根率が向上するという。

典型的な陽樹であり日あたりを好む。また、アカマツ林に落ちたアカマツ種子は春に数万本/haで発芽するものの、その年の秋までには8割以上が死んでしまうといい、原因としては昆虫などによる食害、立枯病(damping off)、乾燥害が挙げられている[36]。これは生態学でいうジャンゼン・コンネル仮説(母樹の近くの同一種の稚樹ほど病害等の影響を受けやすく生存率が低いために、他の種が侵入する隙が生じ森林の多様性が進むという仮説)に近い。

木炭を大量に使って酸化鉄還元するたたら製鉄や定期的に火入れを行う焼畑農業で農地や牧草地を造成するような地域 では植生遷移が退行ししばしばアカマツが優勢となる。中国山地北上山地[37]がよく知られる。ただし、山火事の頻度があまりにも高いとアカマツは定着できない。草原の維持のために毎年のように野焼きを行う阿蘇山由布岳ではアカマツの群落はほとんど見られず、草原の中にカシワ(Quercus dentata ブナ科)などが点在する光景が見られる[38][39][40]。アカマツの苗木や成木は山火事自体には弱く焼損すると枯死してしまうが、火災後に競合相手のいなくなった環境にいち早く苗木を定着させ優占種となる生存戦略だと見られている[41]。山火事後の種子供給源としては残存木が重要であり、埋土種子からの発芽には期待できない[42]。マツ類に寄生し時に枯死させる菌類の一種ツチクラゲ(Rhizina undulata ツチクラゲ科)の胞子は地温が高いときに発芽し、山火事がしばしば発芽のきっかけとなることで知られている。

猛禽類の営巣場所としてアカマツがしばしば選ばれることで知られる[43][44]。アカマツをはじめとするマツ科針葉樹は同じ高さから輪生に枝を出すことから、巣を安定させやすいのではないかと言われているがよくわかっていない。

クロマツに比べ内陸のマツのイメージが強く、クロマツの方が耐塩性が高いという報告が多い[45][46]が、さほど変わらないという報告もある[47]。実際に三陸海岸などではアカマツが海岸付近まで分布し、高田松原などはアカマツが優勢な松原として知られた。

新(梢)にマツノタマバエが産卵すると、新芽は茶色に枯れてしまう。2 - 3年連続して寄生されると緑の葉はなくなり、やがては松林全体が茶色に変色し、枯れてしまう。発芽した苗も寄生されるので、松は完全に駆逐される。幼虫は新梢内に寄生するので、専門家でもマツ材線虫病との区別ができない。茶色に枯れた松の枝先を初夏に採集すれば容易に区別出来る。

湖岸の岩場で成長した個体(十和田湖

内陸砂丘に成立したアカマツ林(埼玉県の会の川志多見砂丘)林床に植生が発達しない

溶岩の上に点在するアカマツ(岩手県岩手山焼走り熔岩流

菌根によるネットワークの模式図

参考:近縁種テーダマツ実生の立枯病

マツ材線虫病詳細は「マツ材線虫病」を参照

マツ材線虫病(英:pine wilt、通称:松くい虫)は全国的にアカマツの枯死被害をもたらしている病害である。原因は線虫による感染症であることが1971年に日本人研究者らによって発表され[48]、その後カミキリムシによって媒介される[49]ことが判明した。アカマツはこの病気に感受性が高く[48][50]、枯死しやすいことから媒介昆虫であるカミキリムシの駆除や殺線虫剤の樹幹注入などの対策が被害の先端地域や保安林などの重要な森林を中心に進められている。また、被害の大きかった森林でも枯死せずに生き残ったアカマツを選抜して種を採り、線虫に強い系統を探し固定する試みが全国で行われている。

マツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus xylophilus)

主要な媒介昆虫であるマツノマダラカミキリ(Monochamus alternatus)

殺線虫剤の樹幹注入


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