アカシックレコードの「アカシック」はサンスクリット語の「アーカーシャ」[注釈 3]に由来し、その英語的な変化形である。アーカーシャは近代の西洋オカルティズムではエーテルに相当するものとされたが[10]、元来はインドの伝統的な概念であってオカルト的、ニューエイジ的な意味合いはない。アカシックレコードという言葉は全く近代ヨーロッパ的な用法である[10]。近代神智学を創始したヘレナ・P・ブラヴァツキー(1831年 - 1891年)はアーカーシャを生命力のようなものとみなし、これを以てアーカーシャは神智学の用語となった[11]。
アカシックレコード、アカシャ年代記は、神智学協会のブラヴァツキーが最初に使った言葉[12]、もしくは同協会に属し、のちに人智学を提唱したルドルフ・シュタイナー(1861年 - 1925年)が作った言葉と言われる[13]。シュタイナーは、透視能力のある意識のみが近づくことができる宇宙の超感覚的な歴史、「世界で起こったあらゆることが記録されている」「巨大な霊的パノラマ」を「アカシャ年代記」[14]「アカシアの記録」[8]と呼んだ[15]。近代神智学系の思想家・オカルティストたちによると、物理界・星幽界・神界・天空などの世界の果てに、それを取り巻くように不思議な境界線が遠く伸びており、ここには全宇宙の歴史が時間の流れにしたがって配列されており、これがアカシャ年代記・アカシックレコードであるという[16]。アカシックレコードは解読不能な言語によって記された書籍に喩えられる[16]。
近現代の神智学や人智学だけでなく、現代のニューエイジ文化の用語としても使われるようになり、神智学の影響を受けた心霊治療家・心霊診断家エドガー・ケイシーが使ったことで一般に知られている。ケイシーは催眠状態で病気の診断や予言を行ったが、彼が催眠時にアクセスしていたとされる潜在意識(無意識)の次元、これまでに経験した全ての事柄が刻まれた「霊的な記憶庫」が、のちに神智学の用語に倣って「アカシックレコード」と呼ばれるようになった[17]。
心理学者カール・グスタフ・ユングが提唱した心理学の概念である「集合的無意識」と同一視または類比されることがあり、「神の無限の記録または図書館」という意味でも使われ[注釈 4]、「世界のすべての現象を記録した霊界のスーパー・コンピューター」とも喩えられる[18]。しばしば万能の情報源と謳われ、一部の人々は実在すると考えている。未来の情報も含まれるとする場合、あらかじめ運命が決まっているという宿命論、予言が行えるとする場合は決定論となる。
歴史
神智学「神智学」も参照ブラヴァツキー、1889年左から初代会長オルコット、第2代会長アニー・ベサント、レッドビーター(アディヤール 1905年)