アカエゾマツ
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1960年の発見当初、土石流を免れたアカエゾマツは96本で、しかも群落の辺縁部から枯損が進行し、消滅が危惧された。しかし1970年代には枯損がとまり、土石流跡地に新たなアカエゾマツが育っており、2000年代には総数[注 2]は143本にまで増え、太いものでは直径20cmを超えるものも60本以上確認されている。小木も含めた総個体数は3500本となって、短期的には消滅の危機は脱したと考えられている。本来、自然にコメツガヒバなどに遷移するはずのものが、定期的に発生する土石流によってコメツガやヒバが倒されてアカエゾマツが生えることで群落が維持されてきたと推測されている[7]
呼称

外観がエゾマツに似ていて、幹の色が赤みがかっていることからアカエゾマツと呼称されるようになったと考えられている[3]。エゾマツやアカエゾマツは、分類学上はマツ属ではなくトウヒ属だが、一般に常緑針葉樹は「マツ」と呼称されている[3]

アイヌは「チカ??・スンク[3]」(鳥のエゾマツ)と呼んで「スンク」(エゾマツ)と区別して[8]いたほか、北海道での主な異称として「テシオマツ[3]」(天塩の松)、「シコタンマツ[3]」(色丹島の松)、「ヤチシンコ[3]」(谷地=湿地のエゾマツ。シンコは、アイヌ語スンクの訛り)などがある。

北海道では、本種との区別のためにエゾマツを「クロエゾマツ」と俗称するほか、本種のことを「アカマツ」と俗称する場合もある[4]

英名は「Sakhalin Spruce」(「サハリントウヒ」の意)、中国名は「??云杉」(「魚鱗」は樹皮が鱗のようになっていることから。「云杉」はトウヒのこと。)[3]
利用

北海道では人工造林の代表種で、2008年現在でおよそ16万haの人工樹林がある[3][5]。苗木の育成が容易で、病気に強いうえ、春の芽出しが遅いので高緯度の酷寒地・多雪地での造林に適している[5]

近年は公園や街路樹、生け垣など緑化にも用いられるようになった[3]。樹形が自然のままでも整っており、針葉樹としては成長が遅いので、特に庭木に適している。なかでも草花と組み合わせてイギリス風の洋風庭園を作るのに適し、門まわりや庭木として用いられている[4]

湿原で小型化した個体は盆栽用に愛好されてきたが、盗掘によって稀少化している[3][4]。盆栽では「エゾマツ」と称するものが実際にはアカエゾマツである例が多い[4]

一般に成長はゆっくりなため、年輪が均一で詰まっている。材は白褐色から淡黄白色で、心部と辺部の性質に大きな差がないのが特徴[4][5]。針葉樹材のなかでは強度が高いが、耐朽性は劣る[5]

天然のアカエゾマツ材は、他のトウヒ属一般と同様に、建築材や土木用材、パルプ材としても使用可能[3][5]だが、近年は資源が枯渇しており、北海道の針葉樹全体の4%から5%程度しかない[5]。そのため高価な用途に限定されるようになっており、バイオリンやピアノなど弦楽器の表面板などに用いられている[4][5]

人工造林のアカエゾマツ材、とくに間伐材は、天然材やトドマツと比較すると強度でやや劣るとみられており、建材として用いるには採算性が劣るとされている。そのため強度の必要のない集成材や梱包材の用途に用いられている[10]

アカエゾマツの間伐材や下枝葉などを水蒸気蒸留することで得られる油分(精油)は森林の代表的な芳香成分の一つであるボルニルアセテートを多く含み、アロマ原料や香料として利用されている[11][12]。アカエゾマツの精油には多種多様な病原菌や真菌に対して強い抗菌性を有していることが証明され[13][14]、近年、これら特性を生かした製品化や地方創生の取組みが推進されている[15]
アカエゾマツをシンボルとする地方自治体

北海道


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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