アイン・ランド
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多くのレビューが、この小説にきわめて否定的だった[5][139]。保守派の批評家ホイタッカー・チェンバース (Whittaker Chambers) は、「ナショナル・レビュー」(National Review)誌でこの小説を「青臭く」「とんでもなく愚かしい」と評した。チェンバースは、この小説が「救済のない刺々しさ」に貫かれていると述べ、ランドが神を排した体制(チェンバースによればソビエトに類する体制)を支持していると非難し、「『肩をすくめるアトラス』のほぼすべてのページから、痛ましい必然による命令として聞こえてくる声がある。『ガス室に行け!』の声だ」と述べた[140]。『肩をすくめるアトラス』に対する肯定的なレビューも、いくつかの出版物で書かれた。たとえば著名な書評家ジョン・チェンバレン (John Chamberlain) は、この小説を賞賛した[139]。しかし、後にランド研究者のミミ・リーセル・グラッドスタイン (Mimi Reisel Gladstein) が書いたところによれば、「レビューアーたちは、まるで酷評の巧みさを競い合うかのようだった。彼らは『肩をすくめるアトラス』を“忌むべきはったり”と評したり、“悪夢”と評したりした。この小説が“憎悪によって書かれている”と述べたり、“無慈悲な弱い者いじめと冗長さを示している”などと述べたりした」[5]。作家のフラナリー・オコナー(Flannery O'Connor)は、友人への手紙で「アイン・ランドのフィクションはおよそ考えられる中で最低のフィクションだ。地下鉄で拾い上げたらすぐそばのクズ箱に直行だろう」と書いた[141]

ランドのノンフィクションについて書かれたレビューは、彼女の小説について書かれたレビューより、ずっと少なかった。ランドの最初のノンフィクション『新しい知識人のために』(For the New Intellectual)に対する批判の趣旨は、『肩をすくめるアトラス』(Atlas Shrugged)に対する批判の趣旨と、ほぼ同じだった[142][143]。哲学研究者シドニー・フック (Sidney Hook) は、ランドの確信を「ソビエト連邦での哲学の書かれ方」になぞらえた[144]。作家ゴア・ヴィダル (Gore Vidal) は、ランドの見解を「その不道徳性においてほぼ完璧」と評した[145]。その後の著書は、発刊するたびにレビューアーから注目されなくなった[142]

2005年、アイン・ランド生誕100年にあたり、評論家のエドワード・ロスタイン (Edward Rothstein) は「ニューヨーク・タイムズ」(The New York Times)紙で、ランドのフィクションは古風でユートピア的な「レトロ・ファンタジー」であり、理解され損ねた芸術家によるプログラム的新ロマン主義であると述べた。またロスタインは、ランドの小説の登場人物たちによる「民主社会に対する孤立した拒絶」を批判した[146]。2007年、書評家のレスリー・クラーク (Leslie Clark) はランドのフィクションを「擬似哲学の青さびが付いたロマンス小説」と評した[147]。2009年、男性向けファッション・ビジネス・カルチャー誌「GQ」コラムニストのトム・カーソン (Tom Carson) は、ランドの著書を、『ベン・ハー』(Ben-Hur)や『レフトビハインド』(Left Behind)シリーズと同類の、「資本主義版のミドルブロー(中程度知識層向け)宗教小説」と評した[148]
大衆への浸透

1991年、アメリカ議会図書館と米国最大の書籍通販組織「ブック・オブ・ザ・マンス・クラブ」(the Book-of-the-Month Club) は、同クラブ会員に「人生で最も影響を受けた本」を尋ねる調査を行った。この調査でランドの『肩をすくめるアトラス』(Atlas Shrugged)は、聖書に次ぎ2番目に多くの票を集めた[149]。また、1998年のランダムハウス/モダンライブラリーの「アメリカの一般読者が選んだ20世紀の小説ベスト100」[150]で『肩をすくめるアトラス』が第一位、『水源』が第二位を獲得し、また10位内に4つの作品がランクインした[151]。ランドの著書は現在も幅広い読者に購入され、読まれ続けている。販売総部数は2013年時点で2,900万部を超える。なお販売総部数の約10%は「アイン・ランド協会」(The Ayn Rand Institute) による学校への寄贈用である[152]。ランドの影響が最も大きいのは米国であるが、彼女の作品は世界中で関心を引いている[153]。インドでは現在もランドの作品がベストセラーに名を連ね続けている[154]

同時代でランドを賞賛した作家には、アイラ・レヴィン (Ira Levin)、ケイ・ノルティ・スミス (Kay Nolte Smith)、L.ニール・スミス (L. Neil Smith) などがいる。後の世代の作家であるエリカ・ホルツァー (Erika Holzer) やテリー・グッドカインド (Terry Goodkind) も、ランドの影響を受けている[155]


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