わいせつ物頒布等の罪
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わいせつ三要件
通常人の羞恥心を害すること

性欲の興奮、刺激を来すこと

善良な性的道義観念に反すること



悪徳の栄え事件、最高裁大法廷判決、1969年(昭和44年)10月15日、刑集23巻10号1239頁

芸術的・思想的価値のある文書でもわいせつの文書として取り扱うことは免れない


四畳半襖の下張事件、最高裁第二小法廷判決、1980年(昭和55年)11月18日、刑集34巻6号432頁

わいせつ性の判断に当たっては、文書全体としてみたとき、読者の好色的興味に訴えるものであるかどうか否かなどの諸点を検討することが必要で、これらの事情を総合し、その時代の健全な社会通念に照らして、チャタレー事件で示したわいせつ三要件に該当するといえるかどうか判断すべきである。

本判決で、全体的考察という手法を取り入れるとともに、「その時代の」社会通念に照らして判断することを要求することにより、わいせつ概念の無制限な拡大防止を図ったものとされている。


松文館事件、最高裁判所第一小法廷、2007年(平成19年)6月14日、平成17年(あ)1508号

チャタレー事件の最高裁判決等を判例として、憲法における表現の自由の侵犯には当たらないと判断、上告棄却を決定。これにより、二審判決の漫画もわいせつ物に当たるという判断を支持し、二審判決が確定した。


メイプルソープ事件最高裁判所第三小法廷、2008年平成20年)2月19日、平成15年(行ツ)157号

アメリカ合衆国写真家ロバート・メイプルソープ写真集の内容に男性器が写っていた事から、東京税関成田税関支署にて「わいせつ図画」と認定された判断を、取り消す訴えを起こした行政訴訟


我が国において既に頒布され、販売されているわいせつ表現物を税関検査による輸入規制の対象とすることは、日本国憲法第21条1項に違反しない。

写真芸術家の主要な作品を収録した写真集が関税定率法(平成17年法律第22号による改正前のもの)21条1項4号にいう「風俗を害すべき書籍、図画」等に該当しないとされた事例。

わいせつの定義をめぐる議論

本条をめぐる主な争点は、規範的構成要件要素(裁判官の評価を必要とする要素)である「わいせつ」の定義である。判例サンデー娯楽事件から一貫して「わいせつ三要件」を採用している(大審院時代とは最後の要件に違いがある)。すなわち三要件とは、
徒に性欲を刺激・興奮させること

普通人の正常な性的羞恥心を害すること

善良な性的道義観念に反すること

というものである。しかし、このように定義することに対しては、批判も多い(たとえば、林幹人『刑法各論』395頁)。裁判上でも、わいせつの定義が曖昧である等の憲法21条違反の主張がしばしばなされるが、最高裁はそのような主張を一貫して否定している[注 5]

インターネットの普及により、日本の法律ではわいせつ物に相当するような海外の性情報が事実上の自由を享受している一方で、性的に過激な図書やDVDなどは各都道府県の有害図書規制や業界の自主規制により成人向けに区分陳列されているのが現状であり、刑法学者の園田寿はこうした情報環境の変化を踏まえ、刑罰によってわいせつ表現を禁圧することには合理性がなく、旧来のわいせつ概念は再検討すべきであるとしている[15]
保護法益をめぐる議論

この節で示されている出典について、該当する記述が具体的にその文献の何ページあるいはどの章節にあるのか、特定が求められています。ご存知の方は加筆をお願いします。(2022年12月)

本条の保護法益については、次のように各説が対立している。
性道徳・性秩序の維持

社会環境としての性風俗の清潔な維持

国民の性感情の保護

商業主義の否定

見たくない者の権利ないし表現からの自由

青少年の保護

女性差別の撤廃

性犯罪の誘発防止

法の統一性(法解釈の変遷)

チャタレー事件など、判例では「わいせつ物は性道徳・性秩序を維持するために処罰される」と考えるのであるが、これに対しては法による道徳・倫理の強制であり、憲法の精神的自由に反するのではないかという批判がある[16]

そこで、ポルノカラー写真誌事件団藤重光裁判官の補足意見などは、本条は清潔な環境を保護するためにわいせつ物を処罰するものだという観点に立ちつつ、それだけでは重罰の根拠を説明できないので、性感情・見たくない者の自由・青少年の保護・商業主義の否定などの観点をも含んだものだと捉える。

これに対して、見たくない者の自由や青少年の保護だけに本条の処罰根拠があると考える論者もおり[17]、そうすると、わいせつ物を見たくて見る大人に頒布・販売する行為は処罰する必要がない、という結論になるが、最高裁はこのような立場はとっていない。「ポルノカラー写真誌事件」も参照

以上のような伝統的な議論に対して、ラディカル・フェミニズムの観点から、わいせつ物は女性差別や性犯罪を助長するものであるから、そのような弊害を防ぐために処罰するのだ、と捉える論者も出てきている[18]。一方で憲法学者の志田陽子は、わいせつ表現の規制は女性差別の克服にはほとんど効果がなく、むしろ「ろくでなし子事件」で示されたように女性の自発的な性表現を取り締まることになるなど、規制による弊害のほうが大きいと指摘している[19]
わいせつ電磁的記録頒布罪

わいせつ電磁的記録頒布罪における「頒布」とは「不特定又は多数の人に対して物を交付・讓渡することをいう」とされ、原則として「1対1は頒布にあたらない」と解されている[20]。ただし、「たまたま1名の顧客に交付・譲渡等したに過ぎない場合であっても、それが不特定又は多数の人に対して交付・譲渡等する意思でされたものであれば、頒布に該当する」とした判例があるため(東京高裁昭和47年7月14日判決、東京高裁昭和62年3月16日判決)、一人に対する送信であっても頒布の「疑い」で逮捕される可能性がある[注 6][20]

なお、わいせつ電磁的記録頒布罪に該当しない1対1の送信でも、わいせつ記録の被写体が18歳未満であれば児童ポルノ提供罪(児童ポルノ・児童買春法7条2項)や提供目的製造罪(同条3項)に該当し、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科される[20]。また、ストーカー規制法では「性的羞恥心を害する文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を送付」する行為(同法2条1項8号)を「つきまとい等」としており、「特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で」反復して行うと、ストーカー行為として1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される[20]

海外に事業場やサーバーを置いて日本の刑法上、わいせつ頒布送信となる事業をするケースもあり、取締が行われている。
海外経由の電磁的わいせつ頒布と陳列の主な事例


FC2のケースでは、わいせつ電磁的記録媒体陳列罪,公然わいせつが問われた[21]

児童ポルノを含む猥褻記録販売サイト運営3人が、わいせつ電磁的記録頒布罪で逮捕された。21?58歳の出品者32人、25?49歳の購入者9人が検挙された。新たに発覚した出品者2人は児童ポルノを投稿していたことから、児童買春・児童ポルノ禁止法違反(不特定多数への提供)容疑で逮捕された[22]

国内

2023年11月、
秋田県大仙市立大曲中学校で女性教諭(39)が2021年12月ごろから2022年10月ごろにかけ、インタネット上に卑猥な動画を複数回投稿し、不特定多数が閲覧できるようにした容疑で秋田県警に逮捕されている。同教諭に対しては行政処分としては秋田県教育委員会は「学校の信頼を失墜させた」などとして同年11月25日付けで停職1年の懲戒処分としている[23][24]

脚注[脚注の使い方]
注釈^ わいせつ動画のURLをインターネット上に公然とリンクした場合、わいせつ電磁的記録媒体陳列罪[2]


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