解釈の一例ドイツ初期ロマン派の基本的心的態度を、「無限なるものへのあこがれ」と特徴づけ、ニーチェやキルケゴール研究者として知られる和辻哲郎は、宣長の説いた「もののあはれ」論に触れて、「もののあはれをしる」という無常観的な哀愁の中には、「永遠の根源的な思慕」あるいは「絶対者への依属の感情」が本質的に含まれているとも解釈している[4][5]。
無常との関係自然を愛し諸国放浪した歌人西行(1118?1190年)は、『旅宿月(旅路で野宿して見る月)』と題する歌において、「都にて 月をあはれと おもひしは 数よりほかの すさびなりけり」〈都にいた折に、月を“あはれ”と思っていたのは物の数ではない すさび(遊び,暇つぶし)であった〉と詠んだ。これは西行が、自身が都に住んでいた時に、月を見て、「あはれ」と思ったのは、すさび=暇つぶしでしかなかったと詠じ、旅路での情景への感動を詠んだ歌である[6]。また、「飽かずのみ 都にて見し 影よりも 旅こそ月は あはれなりけれ」〈飽きることなくいつも都で仰いでいた月よりも、 旅の空でながめる月影こそは、あわれ深く思われる〉という歌もある[6]。
月に「あはれ」を見た西行は、幽玄の境地を拓き、東洋的な「虚空」、無を表現していた[7]。西行と歌の贈答をし、歌物語をしていた明恵は、西行が物語った言として次のように述べている。西行法師常に来りて言はく、我が歌を読むは遥かに尋常に異なり。花、ほととぎす、月、雪、すべて万物の興に向ひても、およそあらゆる相これ虚妄なること、眼に遮り、耳に満てり。また読み出すところの言句は皆これ真言にあらずや。花を読むとも実に花と思ふことなく、月を詠ずれども実に月とも思はず。ただこの如くして、縁に随ひ、興に随ひ、読みおくところなり。紅虹たなびけば虚空色どれるに似たり。白日かがやけば虚空明かなるに似たり。しかれども、虚空は本明らかなるものにあらず。また、色どれるにもあらず。我またこの虚空の如くなる心の上において、種々の風情を色どるといへども更に蹤跡なし。この歌即ち是れ如来の真の形体なり。 ? 「明恵伝」[8]
脚注[脚注の使い方]
注釈^ 「もののあはれ」という表現それ自体は、早くより『土佐日記』や『長秋詠藻』などにも見られるが、これを概念化したのが宣長である[2][3]。
出典^ 清水文雄「日本人の心
」『続 河の音』、王朝文学の会、1984年10月1日、32-34頁、.mw-parser-output cite.citation{font-style:inherit;word-wrap:break-word}.mw-parser-output .citation q{quotes:"\"""\"""'""'"}.mw-parser-output .citation.cs-ja1 q,.mw-parser-output .citation.cs-ja2 q{quotes:"「""」""『""』"}.mw-parser-output .citation:target{background-color:rgba(0,127,255,0.133)}.mw-parser-output .id-lock-free a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-free a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/65/Lock-green.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-limited a,.mw-parser-output .id-lock-registration a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-limited a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-registration a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d6/Lock-gray-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-subscription a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-subscription a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/aa/Lock-red-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-ws-icon a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4c/Wikisource-logo.svg")right 0.1em center/12px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-code{color:inherit;background:inherit;border:none;padding:inherit}.mw-parser-output .cs1-hidden-error{display:none;color:#d33}.mw-parser-output .cs1-visible-error{color:#d33}.mw-parser-output .cs1-maint{display:none;color:#3a3;margin-left:0.3em}.mw-parser-output .cs1-format{font-size:95%}.mw-parser-output .cs1-kern-left{padding-left:0.2em}.mw-parser-output .cs1-kern-right{padding-right:0.2em}.mw-parser-output .citation .mw-selflink{font-weight:inherit}CRID 1050001337569864960
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