台風の翌朝、都会から少し離れた村で昔からある社が崩れているのが見つかった。村人たちが集まってきたが、社があった場所には、直径約1メートルの深い穴があった。狐の穴ではないかと若者が「おーい でてこーい」と叫んだが、返事はない。次に小さな石を投げ込んだが、反響は無かった。
穴には野次馬をはじめ、新聞記者や利権屋が集まってきた。記者が錘を付けた紐を降ろしたが、紐が足りなくなったので引っ張ったら千切れてしまう。科学者が音響を使って調査したが、やはり反響は無かった。大勢の野次馬がいるのに結論が出ないことに困惑した科学者は、「埋めてしまいなさい」と述べ、事を終わらせてしまおうとする。引き上げようとした野次馬の中から、利権屋の1人が「穴を埋めるので譲ってほしい。」と訴え出た。社を立てなければならないと渋る村長に、利権屋は集会所付のもっと立派な社を建てると約束するので、村人たちも納得した。
約束通り建てられた社で秋祭りが始まったころ、利権屋は穴のそばに「穴埋め会社」を創立した。会社は都会で「数千年は大丈夫で地上に影響が無い。原子炉のカスの処分にうってつけ」と穴の営業をする。村人は不安になったが、処理による利益が村にもたらされ、都会から村まで立派な道路が作られた。官庁の許可も、簡単に通った。
やがて、トラックに積まれた廃棄物が穴に運ばれてきた。外務省や防衛庁も機密書類を捨てる。穴が埋まる気配は無く、伝染病の実験に使われた動物の遺体や身元不明の遺体も投棄された。都会の汚物も、海洋投棄より楽ということで、穴まで直通の管が設置された。誰も穴の底について考えず、都会の人々も作った物の跡始末を考えなくてよくなった。警察は証拠品の処分に、犯罪者は証拠隠滅に穴を使った。都会の汚れが減り、空は徐々に青さを戻していった。
その空に向かって、次々とビルが建てられていた。ある日、建設中のビルの鉄骨の上で、休憩中の作業員が空の上から「おーい でてこーい」という声を聞く。気のせいだと思った彼の横を、声があった場所から小石が落ちて来たが、彼は気づかなかった。 初出は『宇宙塵』1958年8月号[12]。以下、出典の無い書籍は星新一公式サイトによる[13]。
書誌情報
日本語
『宝石』1958年10月号[12][注釈 2]
『人造美人』新潮社、1961年
串田孫一・奥野健男:監修『中学生の文学W 小説編』正進社、1967年[6] - 複数の作家のアンソロジー集
『星新一 作品100』世界SF全集、早川書房、1969年 - 自選短編集
『ボッコちゃん』新潮文庫ほ-4-1(挿絵:真鍋博) 1971年(1987年改版) 新潮社、ISBN 978-4-10-109801-2[3]
『ボッコちゃん ようこそ地球さん』星新一の作品集T、新潮社、1974年
『ボッコちゃん・おーいでてこーい』新潮ピコ文庫 1996年、新潮社、ISBN 4-10-940004-X
『星新一ショートショート1001(1)』 1998年、新潮社、ISBN 978-4-10-319426-2
『おーい でてこーい ショートショート傑作選』講談社青い鳥文庫(加藤たかし
『狙われた星 星新一ショートショートセレクション@』(挿絵:和田誠)理論社、2001年、ISBN 4-652-02081-3[4]
新井素子・編『ほしのはじまり 決定版 星新一ショートショート』角川書店、2007年
英語
柴野拓美・編『Uchujin International Edition(宇宙塵 国際版)』No.1、宇宙塵クラブ(科学創作クラブ)、1962年
Bernard Susser、Tomoyoshi Genkawa訳《Science Fiction Short-Short》1977年8月28日付『ジャパンタイムズ』 - 英語訳の連載企画
Bernard Susser、Tomoyoshi Genkawa・訳『The Spiteful Planet and Other Stories(いじわるな星とそのほかのストーリー)』ジャパンタイムズ、1978年
中国語
中華人民共和国 - 星の作品でも特に人気があり[注釈 3]、星の小説集のうち2014年までに6回にわたり収録されている[9]。
『保??意 星新一短篇科幻小??』江蘇省科学技術出版社、ISBN 10196-026、1982年 - 蘇正緒・訳。「無底洞」の題で中国語に翻訳[6]。
『不速之客 星新一短篇小??』湖南人民出版社、ISBN 10109-1880、1985年
『波子小姐』(1985年)
『星新一微型小説選世界語』(1986)
『誘騙』(1992),『肩膀上的秘書』(1999)
『???出来 星新一脳洞小説集』 訳林出版