うつ病
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不利なライフイベント(人生の出来事)──例えば失業死別トラウマ的出来事など──を経験した人間は、うつ病の発症確率が高まる[14]。一方でうつ病は、さらなるストレスと機能障害に繋がったり、QOL(生活の質)とうつ病自体を悪化させたりし得る[14]。うつ病予防プログラムは、うつ病を軽減させていると見られる[14]

診断と医学用語とを共通化する目的で操作的診断基準が開発されてきた。それはAPA(アメリカ精神医学会)の『精神障害の診断と統計マニュアル(DSM)』や、WHOの『ICD-10 精神と行動の障害』といったものである。

日本のうつ病の診療ガイドラインは、うつ病と、DSM-IVの大うつ病性障害、また単極型(短極性)うつ病はほぼ同じ意味であるとしている[15]。第5版のDSM-5の邦訳書では、うつ病の用語は、大うつ病性障害の診断名と、うつ病エピソード(定義されたうつ状態、後述)とを指すために用いることが記されている[2]。以上の範囲を本記事のおもな対象とする。なお訳語では、major depressive disorderの major が日本語で大と訳されているが、本来これは「主要な」あるいは「中心的な」という意味で用いられているものであり、誤訳であるとする意見もある[16]

うつ病という用語は、狭い意味ではDSM-IVにおける大うつ病性障害に相当するものを指しているが、広い意味でのうつ病は、一般的には抑うつ症状が前景にたっている精神医学的障害を含める。そのなかには気分変調性障害をはじめとするさまざまなカテゴリーが含まれている[17]

操作的診断基準による「大うつ病性障害」などの概念と、従来の分類による「内因性うつ病」(後述)などは同じ「うつ病」であっても異なる概念であるが、このことが専門家の間でさえもあまり意識されずに使用されている場合があり、時にはそれを混交して使用しているものも多い。そのため一般社会でも、精神医学会においても、うつ病に対する大きな混乱が生まれている[18]。つまり、うつ病という言葉の意味が異なっている場合がある。
下位分類

従来は、心因が強く関与している心因性うつ病と、そうではない内因性うつ病を区別し論じられることが一般的であった。

1980年にアメリカ精神医学会(APA)が出版した『精神障害の診断と統計マニュアル』第3版(DSM-III)は、内因性というカテゴリーを削除した[19]

現在では、DSMのような操作的診断基準によって分類することが一般的であるが、さまざまな経験則によってそうした下位分類も用いられる。細かくは#分類の項に示す。
診断名のうつ病と抑うつ状態「抑うつ」および「#鑑別診断」も参照

抑うつの症状を呈し、うつ状態であるからといい、うつ病であるとは限らない[20]。抑うつ状態は、精神医療においてもっとも頻繁に見られる状態像であり、診療においては「熱が38度ある」程度の情報でしかない[20]。状態像と診断名は1対1で対応するものではなく、抑うつ状態は、うつ病以外にもさまざまな原因によって引き起こされる[20]

精神障害の診断と統計マニュアル』において、うつ病(大うつ病性障害)として扱われるのは、1日のほとんどや、ほぼ毎日、2 - 3週間は抑うつであり、さらに著しい機能の障害を引き起こすほど重症である場合である[8]。また、死別、経済破綻、重い病気への反応は理解可能な正常な反応である場合がある[2]
病態

うつ病は、単一の疾患ではなく症候群であり、さまざまな病因による亜型を含むと考えられる[21]

精神障害の診断と統計マニュアル』第5版(DSM-5)の診断基準Aによれば、「ほとんど1日中、ほとんど毎日の」の抑うつ気分、あるいは興味、喜びの著しい減退のほか、「ほとんど毎日の」不眠あるいは過眠、易疲労性、精神の焦燥や制止、無価値感や罪の意識、思考力や集中力の減退、体重の減少や増加、反復的な自殺念慮などがみられ、診断基準Bが重症であることを要求している。

うつ病と不安障害は併発しやすい。アメリカでの調査では、大うつ病者の51パーセントに不安障害がともなう[22]

うつ病の約8割から9割に不眠症が見られる[23]
分類

前史として、1899年にエミール・クレペリンは、統合失調症躁うつ病とに大きく分け、うつ病は躁うつ病に含まれた[24]
古典的分類「精神障害#外因・内因・心因」も参照

古典的な精神病理学は、内因、外因、心因という原因についての考察から分類がなされていた[25]。内因性うつ病とは、身体である体調の変化から気分が巻き込まれており、典型的には自生的に出現すると考えられた[25]。心因性うつ病とは、葛藤に苦しんでいるなど、環境との相互作用から起こるものである[25]


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