温室効果ガス観測技術衛星
「いぶき(GOSAT)」
所属宇宙航空研究開発機構(JAXA)
主製造業者三菱電機
公式ページJAXA[2]
いぶき(GOSAT : ゴーサット、Greenhouse gases Observing SATellite)は、環境省、国立環境研究所(NIES)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が共同で開発した温室効果ガス観測技術衛星。地球温暖化の原因とされている二酸化炭素やメタンガスなどの温室効果ガスの濃度分布を宇宙から観測する。2008年10月15日、愛称が一般公募によって「いぶき」に決定された。2009年1月23日、種子島宇宙センターからH-IIAロケット15号機にて打ち上げられた。同年2月より観測データの取得を開始し[1]、5月には未校正値ながら地球規模での解析結果も発表されている[2]。
2号機のGOSAT-2は、2018年度に打ち上げが予定されており、三菱電機が2014年4月に開発着手した[3]。GOSAT-2は、初号機よりも観測精度を向上させる他、雲・エアロソルセンサーへの観測波長域を追加することにより、ブラックカーボンやPM2.5等の微小粒子状物質の監視も可能となる[4]。
2号機は2018年10月29日に無事に打ち上げられた[5][6]。 いぶきは、京都議定書の第一約束期間(2008年?2012年)における地球上の温室効果ガス濃度分布の測定と、長期的な気候変動予測に必要なデータの取得のために開発された。 1997年、京都で第3回気候変動枠組条約締約国会議(COP3)が開催され、京都議定書が採択された。それを受けて、第一約束期間に日本が行うべき温室効果ガス観測ミッションとして、以下の目標が定められた。
目的
温室効果ガスの全球濃度分布の測定
二酸化炭素吸収排出量の亜大陸単位での推定誤差の半減
温室効果ガス観測技術基盤の確立
いぶきにより、測定ポイントは地球表面を約180 kmのメッシュで区切った約56,000個所へと飛躍的に向上する。また、同一のセンサによる地球全体の観測が可能なため、全地点を同じ尺度で継続的に観測を行うことができる。
こうして得られた衛星からのデータと地上での観測データを組み合わせ、シミュレーションモデルにかけることによって、温室効果ガスの濃度分布を高い精度(目標1 %)で推計することができる。
これにより、京都議定書で定められた期間での二酸化炭素排出量削減量の監視や、温室効果ガスの長期的な変動データを取得して気候変動予測に役立てることができる。 TANSO-FTS(TANSO : Thermal And Near infrared Sensor for carbon Observation, FTS : フーリエ変換分光器、Fourier Transform Spectrometer)は、二酸化炭素、および、メタンガスを測定する、いぶきの主センサ。地表面により反射された太陽光(近赤外線)と、地球大気や地表面から放射される光(遠赤外線)のスペクトルをフーリエ分光して観測する。大気中に存在する二酸化炭素とメタンは、特定の波長の光を吸収する性質があるので、大気中を透過してきた光の吸収の度合いにより、光の通り道に存在した二酸化炭素とメタンの量を算出することができる。1.6μm付近や2.0μm付近の二酸化炭素の吸収帯は、地表面付近の情報を多く含む波長帯として重要である。一方、14 μm付近の吸収帯は、主に2 kmより高い高度の情報を得るために利用される。 短波長赤外バンド1?3(SWIR Band1-3)により二酸化炭素の気柱積算量
観測装置
TANSO-FTS (温室効果ガス観測センサ)
FTSセンサーの仕様 バンド1バンド2バンド3バンド4
波長範囲[μm]0.758-0.7751.56-1.721.92-2.085.56-14.3
分光分解能[cm-1]0.50.270.270.27
観測対象酸素二酸化炭素
メタン二酸化炭素
水蒸気二酸化炭素
メタン
視野瞬時視野:15.8 mrad
衛星直下での観測視野:直径約10.5 km
1走査データの取得時間1.1, 2.0, 4.0 秒
TANSO-CAI(CAI : Cloud and Aerosol Imager)は、TANSO-FTSにて二酸化炭素を測定する際に誤差要因となる、雲の有無の判定やエアロゾル(大気粒子状物質)の測定に用いる画像センサ。いぶきの副センサである。TANSO-FTSで得られた測定データの補正のために用いられる。 CAIは、大気と地表面の状態を昼間に画像として観測する。観測データから、FTSの視野を含む広い範囲での雲の有無を判定し、エアロゾルや薄い雲がある場合はその雲の特性やエアロゾルの量などを算出する。これらの情報は、FTSから得られるスペクトルに含まれる雲とエアロゾルの影響を補正することに利用される。 CAIセンサーの仕様 バンド1バンド2バンド3バンド4 いぶきは、以下の3機関による分担・連携体制で開発されている。 GCOM-A1(計画変更前)(No Image) 本衛星は、地球観測衛星みどり(ADEOS)の後継機である、地球環境変動観測ミッション(GCOM)の衛星GCOM-A1として、2000年1月に計画が提案された。 GCOM-A1においては、大気科学全般への貢献を目的として、以下の観測機器が搭載される予定であった。 しかし、2002年8月に文部科学省宇宙開発委員会の提言や予算上の強い制約により計画の見直しが行われ、ミッションの目的は温室効果ガス観測に絞られた。同年10月、研究開発段階への移行は妥当と判断され、衛星名はGOSATとなった。 2003年9月、SOFISセンサでは京都議定書で求められている観測内容には十分でないとされ、代わってTANSO-FTSセンサが開発されることになった。[7]
TANSO-CAI (雲・エアロソルセンサ)
波長範囲(中心周波数)[μm]0.370-0.390
(0.380)0.668-0.688
(0.678)0.860-0.880
(0.870)1.56-1.68
(1.62)
観測対象雲・エアロゾル
観測幅[km]100010001000750
衛星直下での
空間分解能[km]0.50.50.51.5
3機関の役割分担
環境省(主に行政面での支援)
日本における地球温暖化対策の取りまとめ
観測装置の開発(JAXAと共同)
京都議定書の第一約束期間における、炭素吸収排出量の把握
ポスト京都議定書に関する国際交渉において、いぶき開発・運用で得られた実証的根拠を示す
国立環境研究所(NIES)(主に学術面での支援)
観測データから、地球全体の温室効果ガスの濃度分布を算出
算出されたデータから、区域ごとの温室効果ガスの吸収・排出量を推定
算出されたデータの検証、および、外部への公開
宇宙航空研究開発機構(JAXA)(主に技術面での支援)
観測装置の開発(環境省と共同)
衛星の打ち上げ・運用・観測データの受信
観測装置の校正
観測データの提供、および、利用促進
計画の変遷
軌道太陽非同期傾斜軌道
高度650km
軌道傾斜角70度
周期約98分
設計寿命3年以上(5年目標)
物理的特徴
質量1.2 t(打上げ時)
ミッション機器
OPUSオゾン・広域大気汚染観測紫外線分光計
SOFIS傾斜軌道衛星搭載太陽掩蔽法フーリエ変換分光計
SWIFT成層圏風プロファイル観測装置
オゾン・広域大気汚染観測紫外線分光計(OPUS)
旧宇宙開発事業団(NASDA)の開発。オゾン、および、大気汚染物質の観測を行う。
傾斜軌道衛星搭載太陽掩蔽法フーリエ変換分光計(SOFIS)
環境庁(現環境省)の開発。二酸化炭素の濃度観測を行う。
成層圏風プロファイル観測装置(SWIFT)
欧州宇宙機関(ESA)の開発。成層圏における、オゾン・大気汚染物質の移動過程を観測する。
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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