いぶき_(人工衛星)
[Wikipedia|▼Menu]

対してTANSO-FTSセンサは、太陽光が地球表面や大気に当たって跳ね返ってきた散乱光を観測する方式となっている。新規開発であり、雲やエアロゾルなどで遮られて精度が低下するなどの欠点もあるが、より狭い区域の地表近くの大気の温室効果ガス濃度を測定する事ができる。測定誤差や空間分解能をさらに向上させることにより、京都議定書の第二約束期間以降に求められる観測内容に繋がる技術であることから、この観測方式が採用されることになった。
衛星の開発方針

いぶきは、重大な故障が発生しても衛星の基本機能が生き残るための工夫がなされている。JAXAによれば、従来は故障が起きないようにする設計を行っていたが、いぶきでは重要部品を二重化することにより、故障する可能性は上がるが故障しても衛星バスの運用や観測が続行できる可能性がより高くなるように設計されているという。
姿勢制御の異常時
太陽指向スピン安定モードを追加。この状態でも必要な電力を発生できる。
給電系異常時
超低負荷モード(S-LLM)により、観測装置を停止させてでも最低限の衛星バスの機能を維持する。
太陽電池パネル・電源バス異常時
いずれも二重化されており、片方が故障した場合は、観測装置の一部(TANSO-FTSの熱赤外センサTIRやポインティング機構、および、TANSO-CAIセンサ)を停止させた観測モードIIにより、運用を継続する。
予定・経過

2009年1月21日 当初の打ち上げ予定日だったが、天候不順のため23日に延期

2009年1月23日 12時54分
H-IIAロケット15号機にて打ち上げ

16分1秒後に衛星分離 軌道投入

同日中に太陽電池パドル展開、太陽捕捉、地球捕捉、地球指向モードへの移行を実施


2009年1月24日 標準姿勢制御モードへの移行を確認し、17時15分にクリティカルフェーズ運用を完了 初期機能確認運用期間に入った

2009年2月9日 初観測データ取得[1]


2009年4月10日 初期機能確認が終了 初期校正検証運用を開始[8]

2009年5月28日 地球上の陸上の晴天域における二酸化炭素およびメタン濃度の初の解析結果が出る[2]


2009年7月30日 初期校正検証運用完了確認会にて合格、定常運転に入る。

2009年9月14日 レベル1データ初期校正完了[9]

2009年10月30日 レベル1データ(スペクトルデータ)の一般提供を開始[10]

2010年2月18日 レベル2データ(濃度データ)の一般提供を開始[11]

2010年2月25日 太陽電池パドル2の駆動部で異常を検知し、軌道上で自動的にパドル駆動部1,2とも冗長系に切り替えられた[12]

2014年1月、5年間の定常運用期間終了。後期利用運用へ移行。

2014年5月25日 太陽電池パドルのうち1枚のパドル回転が停止し、発生電力が約半分となったため、観測を自動的に停止。発生電力が約半分であっても、定常観測運用に必要な電力を確保できることから、5月30日を目途に観測を再開する見込み[13]

2014年12月5日、人為起源によるCO2濃度の推定結果を公開[14]

2015年8月4日、TANSO-FTSの熱赤外バンド(バンド4)用検出器をマイナス200℃に冷却する冷凍機が8月2日正午 (JST) 頃に停止したため、熱赤外バンドの観測を中断したことがJAXAから発表された。短波長バンド(バンド1?3)は正常で、二酸化炭素・メタンの観測を継続している[15]。JAXAは、冷凍機の停止は宇宙放射線等による一時的な誤作動の可能性が高いと判断し、9月14日に冷凍機の再立ち上げを行った。その結果、熱赤外バンド用検出器が所定の温度に冷却されたため、停止していた熱赤外バンドの観測(全運用モード)を2015年9月16日12時 (JST) から再開、これにより全バンドでの観測に正常復帰した[16]

予定


全球のCO2濃度分布を算出し、地域ごとの吸収及び排出量を表した世界マップ(レベル3プロダクト)を配布

他の温室効果ガス観測衛星

NASAは2002年からAqua衛星を使用して荒い解像度(緯度2度×経度2.5度)でのCO2濃度分布の測定を行っている[17]。またこれよりも解像度の高い観測のため、炭素観測衛星OCO (Orbiting Carbon Observatory、軌道上炭素観測衛星) の運用を計画していた。これはいぶきのTANSO-FTSと同じ観測方式のセンサを搭載し、A-Train(A列車、Aqua-Train)と呼ばれるNASAの他の地球観測衛星隊 (Aqua, PARASOL, CALIPSO, CloudSat, Aura) と同一の軌道をとり、これらの衛星の測定データを総合して二酸化炭素濃度の推定精度を高める予定であった。いぶきと同時期に打ち上げられることから、いぶきとOCOで観測結果を相互校正・検証することが期待されて2009年2月23日に打ち上げられたが、フェアリングの分離に失敗して軌道投入に失敗した[18]。その後、代替機のOCO-2は2014年7月2日にデルタ IIロケットでの打ち上げに成功した[19]

欧州宇宙機関(ESA)は2008年3月、環境観測衛星Envisat上のSCIAMACHY装置によるCO2観測を行い、世界で初めて地域的なCO2濃度の高まりの観測に成功している[20]。このほかに二酸化炭素観測衛星CARBOSATを計画していたが[21]、京都議定書に貢献しうる精度・空間分解能が得られないとして、計画は中断している。
GOBLEUプロジェクト

いぶきでの観測技術を応用した機器を民間の旅客機に搭載し、上空から大気を観測するプロジェクトが全日本空輸(ANA)と共同で行われている。「GOBLEUプロジェクト」も参照
関係者の自殺

2019年4月、茨城県つくば市のJAXA筑波宇宙センターで人工衛星の管制業務に当たっていた業務請負企業の社員(当時31歳)が自殺したのは達成困難なノルマやサービス残業を課されたことが原因として、労災認定を受けている[22][23]
脚注^ a b 温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)搭載センサの初観測データ取得について、JAXA、2009年2月9日
^ a b温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)による観測データの初解析結果(温室効果ガス濃度)について 国立環境研究所、2009年5月28日
^“温室効果ガス観測技術衛星2号(GOSAT-2)の開発に着手”. 三菱電機. (2014年4月9日). ⇒http://www.mitsubishielectric.co.jp/news/2014/0409.html 2014年4月13日閲覧。 
^ “PM2.5を宇宙から監視 越境汚染、早めに注意喚起”. 日経新聞. (2014年2月28日). https://www.nikkei.com/article/DGXNASGG2702N_X20C14A2MM8000/ 2014年3月3日閲覧。 
^ “温暖化ガス観測衛星「いぶき2号」打ち上げ成功”. 日本経済新聞. (2018年10月29日). https://r.nikkei.com/article/DGXMZO3706029029102018000000?s=0 2018年11月20日閲覧。 
^ “夢と使命載せ衛星打ち上げ いぶき2号、温室ガス観測”. 中日新聞. (2018年10月30日). https://web.archive.org/web/20181029225030/http://www.chunichi.co.jp/article/front/list/CK2018103002000068.html 2018年11月20日閲覧。 
^ 温室効果ガス観測技術衛星プロジェクト研究推進委員会 検討結果 (宇宙開発事業団 2003) [1]
^ 温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)の初期校正検証運用への移行について JAXA、2009年4月22日
^ 温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)の初期校正の完了について JAXA、2009年9月14日
^ 温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)による観測データ(輝度スペクトル及び観測画像)の一般提供開始について JAXA、2009年10月30日
^ 温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)による観測データの解析結果(二酸化炭素・メタン濃度等)の一般提供開始について JAXA、2010年2月16日
^ “温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)の太陽電池パドル駆動部の冗長系切り替えについて”. JAXA. (2010年3月1日). https://www.jaxa.jp/press/2010/03/20100301_ibuki_j.html 2014年6月1日閲覧。 
^“温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)の観測停止と再開について”. JAXA. (2014年5月27日). ⇒http://www.satnavi.jaxa.jp/project/gosat/news/2014/140527.html 2014年5月29日閲覧。 
^ “温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)による大都市等における二酸化炭素観測データと人為起源排出量との関係について”. JAXA. (2014年12月5日). https://www.jaxa.jp/press/2014/12/20141205_ibuki_j.html 2014年12月13日閲覧。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:70 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef