いじめ
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男女別では、女子のほうが暴力系ではなくコミュニケーション操作系のいじめを遂行する傾向にあり、その背景にはジェンダーによる抑圧(「女の子は優しく/おとなしくしているべきである」という固定観念)あるいは評価基準の違い(男子はそれが身体的な強靭さに求められるが女子は他者からの受容に依存する)が考えられる[54][55]。ただし、男子のいじめについてもだんだんと暴力系よりもコミュニケーション操作系のいじめのほうが多くなる傾向にある[55]
排除型と飼育型

いじめの形態に注目すると、「排除」のいじめと「飼育」のいじめの2種類がある[56]。排除型は被害者を仲間外れにして自分たちのグループから排斥するものであり、飼育型は被害者を自分たちのグループの中に留めおいたままいじめの対象にして楽しむものである。実際のいじめは排除型ではなく飼育型であることが多い。
原因
集団心理

フランスの精神科医ニコル・カトリーヌは「アイデンティティー(自己同一性・主体性)が確立していない10代の若者は集団への帰属意識が強い。集団から抜けたり集団のルールに従わない人間はスケープゴート(仲間外れ)にされる」としている[57]。スイスの心理療法士ヴァルター・ミンダーは、いじめとはグループ内に無意識のうちに成立した「暗黙の了解」に従わない者に対して行われるグループ現象としている。最大の問題は被害者にあるのではなく、グループの方である。いじめでの報道では、被害者の異質性に焦点が当てられることが多いが、実際にいじめられやすいのは、本当に異質な者ではなく、ごく普通の子が多いとしている[58]アルバート・バンデューラはこのような規範からの逸脱への制裁を名目とした攻撃行動をモデル化し「道徳不活性化」と呼んだ[59]

森口も内藤の理論をベースに独自の「スクールカースト」の概念を導入した。これはクラス内の序列のことで、人気や「空気を読む能力」の多寡により上下し、下位になるほどいじめられやすくなるという[25]。また太田肇はいじめの加害者、被害者、傍観者のそれぞれが集団のなかで「承認されていたい」という意識に囚われているところに、いじめから抜け出せない原因があると指摘している[60]

安藤美華代もいじめの心理社会的要因の検討を行った結果、いじめを行う友達の影響、いじめの誘いを断る自己効力感、衝動性・攻撃性に対する自己コントロール、道徳観などが関連していることを明らかにした[61]
ストレッサー

いじめ加害の原因となるストレッサー(ストレス原因)で直接的・間接的に大きな要因をアンケートから探った日本の統計によると、直接的にも間接的にも最も影響力が大きいのは友人から学業・容姿・行動などを馬鹿にされた「友人ストレッサー」(36組中31組で第1位)であった[16]。次に影響力が大きかったストレッサーは学業・容姿・長所や短所などに関する「競争的価値観」(36組中2組で第1位、19組で第2位)で[16]、間接的な効果しかないにもかかわらず、その効果の大きさがうかがえる。そして、さまざまなストレッサーが「不機嫌怒りストレス」(36組中3組で第1位、11組で第2位)に影響を与え、いじめを発生させているという構図がある[16]

1986年の東京都教育委員会調査報告[62]によれば、いじめの原因は以下の結果となった。

力の弱いもの、動作の鈍いものを面白半分に、33.6%。

欲求不満の鬱憤晴らしとして、19.7%。

生意気なもの、いい子ぶるものに対する反発・反感から、15.7%。

自分たちと違う、なじめないなどの違和感から、14.8%。

怒りや悲しみ、嫉妬から、10.7%。

仲間に引き入れるため、6.7%。

以前にいじめられたことの仕返し(いわゆる復讐)として、6.3%。

その他少数意見として「面白いから」、「ふざけて、冗談で」があった。

自己制御の欠如

シカゴ大学による脳のfMRIスキャンを使用した研究によると、人が他人の苦痛を目にすると、自身が苦痛を経験したときと同じ脳内領域が光るが、いじめっ子の場合扁桃体や腹側線条体(報酬や喜びに関係すると考えられている部位)によってそうでないものに比べ活発に活動することがわかったという。「いじめっ子は人の苦痛を見るのが好きだと考えられる。この考えが正しい場合、彼らは弱い者いじめをして他人を攻撃するたびに心理的な報酬を受け取り、反応の強化が進んでいることになる」「自己制御を欠いている点を処置する、あるいは埋め合わせる治療法を開発する必要があるだろう。いじめっ子が自己制御を欠いているのは事実だと考えているし、他人を傷付けるたびに心理的な報酬を受け取り、反応の強化が進む可能性がある」と同研究チームのベンジャミン・レイヒーは話す。[63]
各国のいじめ情勢

いじめを受けている児童の世界平均は、全体の15%ほどとのデータがある[64]
日本

平成19年文部科学省の統計によると、いじめを認知した学校の件数は40.0%で、認知件数は84,648件、児童生徒1,000人あたりのいじめ件数は7.1人であった[27]。文部省の統計では平成6年には31.3%だった発生率が平成17年度には19.4%に減っている[27]

文部科学省の調査では2011年6月から2013年12月末までに発生した小中高生の自殺につき、いじめを理由にした割合は2%ほどで[65]、さらに平成19年度に自殺した136人の児童のうち、いじめが原因であると特定されたものは3件で18年度よりも3件少なくなっている[27]

都道府県別で見た場合、1,000人あたりの認知件数は多いほうから順に熊本県(32.7件)、大分県(27.3件)、岐阜県(25.2件)が多く、全国平均(7.1件)を3倍以上上回る[27]。ただしこれはあくまで認知件数なので、これらの件で実際にいじめが多いのか、それともこれらの県でいじめを認知しやすい体制が整っているのかは不明である。なお熊本県や大分県と同じ九州でも、福岡県や佐賀県(いずれも1.1件)は少ない方から2番と3番で、単純に九州でいじめの認知件数が多いというわけではない[27]。(全国最小は和歌山県の0.8件)[27]

2013年、国連児童基金(ユニセフ)と国立社会保障・人口問題研究所が行った「先進国における子どもの幸福度」という調査によると、日本は、いじめの割合などを示す「日常生活上のリスクの低さ」で1位を獲得ている[66]


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