鼻眼鏡
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この項目では、視力矯正器具について説明しています。ジョークグッズについては「グルーチョ眼鏡」をご覧ください。
C-ブリッジ型の枠無し鼻眼鏡を紐を付けて着用している セオドア・ルーズベルト

鼻眼鏡(はなめがね)は、耳当てのテンプル(ツル)がなく、を挟むことで掛ける(身に付ける)タイプの眼鏡である。19世紀から20世紀初頭の欧米で流行した眼鏡の種類で、フィンチ型とも呼ばれる。

英語で鼻眼鏡はパンスネ pince-nez とも呼ばれるが、語源はフランス語で鼻を挟むという意味である。今日の英語で アイグラシズ eyeglasses と スペクタクルズ spectacles は眼鏡を指す同義語である[1]が、鼻眼鏡の流行期に刊行された眼鏡商向けの書籍やカタログでは鼻眼鏡をアイグラシズ、耳かけはあるが鼻当てのない現代でいう一山をスペクタクルズと呼び分けていた[2][3][4][5]

以下、本項では耳に掛ける眼鏡を耳掛眼鏡と呼ぶ。
目次

1 概要

2 種類

2.1 C-ブリッジ

2.2 ハード・ブリッジ / フィンガーピース

2.3 スプリング・ブリッジ

2.4 オックスフォード眼鏡


3 ファッションとしての位置づけ

4 ギャラリー

5 商品及び役務の区分

6 類似のもの

7 コメディ・グッズとしての鼻眼鏡

8 出典

9 関連項目

概要

15世紀から17世紀の間に一般庶民に徐々に浸透し、1840年代に現代的な鼻眼鏡が登場した。1880年から1900年にかけて大流行した。

初期は金属製のリム(眼鏡の枠)だったが、次第に枠無し (Rimless) のもの、さらにセルロイド製のものが登場してきた。銀(スターリングシルバー)製のもの、鼈甲製のものも存在した。1879年のカタログでは、鉄製、鼈甲製、ゴム製、金メッキ、銀製、金製の順に鼻眼鏡が紹介され、金メッキ以降が際立って高く値付けられていた。鼈甲製は鉄製やゴム製と並んで安価であった[6]。鼻パッドは、初期はブリッジと一体化された金属製のもの、あるいはコルクを貼り付けたものだったが、後年にはセルロイドを添付したものや落下を防ぐために粘着性にしたのもの[7]が作られた。

鼻眼鏡の流行していた当時から、レンズを眼の前に固定する手段としては鼻眼鏡より耳掛眼鏡のほうがずっと優れていることが知られていた[8]。鼻眼鏡の長所として当時言われていたことは、掛け外しの手軽さ、見た目が良く洒落ていること、外見を極力変えずに視力を矯正できることであった。短所として指摘されていたことは、長時間の装用が耳掛眼鏡ほど快適になりがたいこと、顔つきによっては掛けられないこと、そして光学上の問題点であった。19世紀末にはすでに近視遠視老視のみならず乱視や斜位の矯正法も知られていたが、乱視や斜位の矯正では処方どおりの角度でレンズを眼前に固定することが求められるため、レンズが回転してしまいやすい鼻眼鏡はこれらの矯正に適さないことが指摘されていた[9]。レンズが回転しやすい短所は、C-ブリッジ型の、ブリッジ自体がバネを兼ねる構造によるものであり、それを解消するためにスプリング・ブリッジ型を始めとするブリッジとバネを分離した形式が作られたが、重く不恰好であることが嫌われてなかなか一般化しなかった。鼻の上の落ち着きやすいところに置いただけではレンズと眼との間隔が正しくなるとは限らないことも光学上の問題点として指摘され、当初レンズと同一平面上にあった鼻当てを後方に片寄せたオフセット・ガードも工夫された。19世紀末の書籍では、プリズムが不要で乱視もないか軽い人が適切に調整されたオフセット・ガードつきのものを掛けるならばとの条件つきで、縁無しの鼻眼鏡がもっとも「現代的」で端麗な眼鏡として推薦されていた[10]

右のレンズ脇の金具は英語でハンドル handle と呼ばれた[11][12]拡大鏡、いわゆる虫眼鏡の持ち手と同じ呼び名である[13]。日本語ではつまみと呼ばれた[14]。ただし、つまみの語は他の部品の訳語に当てられることもある。1912年のアメリカン・オプティカル・カンパニーのカタログには、今日(1912年)の良質な鼻眼鏡のハンドルは紐を取り付けるための輪と化したものや極端に小型化されたものが一般的になってきており、装飾的なハンドルはその分減ってきたと記されている。カタログのイラストに描かれた標準的なハンドルの他に、注文時に指定すれば好みのハンドルを取り付けることができたが、注文生産となるので納期が遅れるとしている。金製の眼鏡では、注文に応じてハンドルに装飾の彫刻を施すこともあった。縁なしの鼻眼鏡ではハンドルは注文なきかぎり省略されたが、右レンズの脇に紐などを取り付けるための穴(hole for cord)[15]を空けることがあった。



右のレンズ脇の「ハンドル」に紐を取り付けた鼻眼鏡(1913年)

鎖などを付けない装着例(化学者フリッツ・ハーバー

ハンドルに鎖や紐を取り付けて掛ける人(参考右写真)もおり、1879年のカタログには鼻眼鏡には標準でケースと絹紐が付属するとある[16]が、鎖などを付けずに掛ける人々(参考右写真)も多かった。鎖などを付けても鼻眼鏡が鼻から外れること自体は防げないが、外れた後に地面まで落下して破損したり紛失したりすることを防ぐことができる。鎖などの他端を固定する手段として、1912年のアメリカン・オプティカル・カンパニーのカタログでは、耳かけ、服に留めるホック、ヘアピンの3通りを紹介し[17]、標準的な鎖の長さを

ヘアピン用で229ミリ(9インチ)

ホック用で330ミリ(13インチ)

短いヘアピン用で203ミリ(8インチ)

耳かけ用で102ミリ(4インチ)

と記載している[18]。鎖も紐もヘアピンなどの金具と組み合わされ個装されて販売された他、金具なしの紐のみは個装のみならず、半ダースや1ダースの包装でも販売された[19]。鎖・紐を環状にしてネックレスのように首からかけている写真も多く見られる。アニメ『アルプスの少女ハイジ』に登場するロッテンマイヤーは、鼻眼鏡に付けた紐か鎖を襟の後ろに留めているように描写されている。また、鎖をいったん耳にひっかけてから髪に留めている写真も見られる[20]。鼻眼鏡の一般的でなくなった今日でも、似た例として補聴器人工内耳体外装置の落下防止策として被服や頭髪へ紐で留めることがある。特に耳にかけずにもっぱら体内のインプラントへの磁石の吸着力に頼って装着する型の人工内耳体外装置では、紐で被服や頭髪に留めることが取扱説明書で紹介され、装置にも予め紐を取り付ける穴または窪みが用意されている[21][22][23]

眼鏡レンズを縁なし眼鏡用に穴空け加工する際、穴の数はレンズ一組あたりの穴の個数で指定された。つまり、穴2つとは、2枚のレンズに穴をひとつずつ空けるという意味であった。穴の数の選択肢は、縁なしの耳掛け眼鏡用の四つ穴、縁なしの鼻眼鏡に紐などを取り付けない場合の二つ穴、そして縁なしの鼻眼鏡に紐を取り付けるための穴を加えた三つ穴の3通りであった[24][25]。当時の眼鏡処方箋の書式には、丸で囲むだけで指定できるようにあらかじめこの3つの選択肢が記されていた[26]

レンズの大きさには下のような規格があった。レンズの形は縦横比3:4ほどの横長の楕円が一般的だったが、近業の多い者には真円に近づけ縦方向の視野を拡げた短楕円が勧められた。短楕円はまた、PDすなわち両の瞳の間隔の狭い者にも勧められた。当時の眼鏡はレンズの大きさを変えることでレンズ中心の間隔と瞳の間隔を合わせたため、横長の楕円形のまま狭いPDに合わせて小さなレンズにすると縦方向の視野が狭くなりすぎたからである。楕円と短楕円以外の形は奇妙でグロテスクであるとして好まれなかったが、眉骨の飛び出た者のために短楕円の上辺を切り落とした木の葉型などもあった[27]

1913年当時のレンズ規格呼び縁あり用楕円 縁なし用楕円 短楕円
ジャンボ46×3846×3844.5×39.5
000044.3×3644×3642.5×37.5
00040.9×31.941×3239.5×33.5
0039.7×30.740×3138.3×32.5
037.8×28.838.5×29.537×31
136.5×27.537×28 35.5×29.5
235×25.5--
334×25--
433×24--
A39×25--
B40×26--
C37×21--



Hard-Bridge型の鼻眼鏡を着用している吉田茂

Hard-Bridge型の鼻眼鏡を着用している佐藤春夫

フランクリン・ルーズベルトは、いとこのセオドア・ルーズベルトを踏襲して鼻眼鏡をかけていたが、これが近代における鼻眼鏡をかけた有名人の最後の例の一つであった[28]


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