鼻孔
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鼻孔(びこう、: nostril、: naris)は、脊椎動物の顔面にある開口部である。元来は感覚器官として発達したが、後に呼吸器官としての役割も持つようになった[1]。位置はの間に開口するのが一般的である。通俗的には鼻の穴という。ヒトの場合、鼻孔の開口部が盛り上がって目立つためにこれをと呼んで鼻の穴の方が付け足しのように呼ぶが、発生的には鼻孔の方が遙かに古い。イヌの鼻孔
構成

外部に対して開口している部分を外鼻孔(がいびこう)と呼び、内部空間である鼻腔(びくう・びこう)に続く。外鼻孔から続く鼻腔がさらに口腔咽頭に開く場合その内側の開口部を内鼻孔(ないびこう)と呼ぶ。ヒトの鼻腔の図。左の開口部が外鼻孔、右の咽頭に続く部分が内鼻孔
外鼻孔

本来の役割である感覚器官として、周囲の液体気体を取り入れて嗅覚細胞に導くため外界に対して開いている。内鼻孔は外部から見えないため、単に「鼻孔」といえば通常は外鼻孔を指す事が多い。その数は0個(鼻孔が無い)・1個・2個(1対)・4個(2対)など生物群によって変異がある。外鼻孔を4個(2対)持つ硬骨魚類の場合、前の1対を前外鼻孔(ぜんがいびこう)、後の1対を後外鼻孔(こうがいびこう)と呼ぶ。四肢動物の外鼻孔と相同なのは前外鼻孔であるが、後外鼻孔のその後については四肢動物の鼻涙管となって残存しているという説[2]と内鼻孔となったという説がある(#内鼻孔の起源参照)。
内鼻孔詳細は「en:Choana」を参照

嗅覚器官としてのみ働く魚類の鼻孔は外部に開口する外鼻孔のみであるが、ハイギョエウステノプテロンなどの肉鰭類と四肢動物では内鼻孔が口腔に開口し、それにより四肢動物では鼻孔が呼吸器官としての一翼を担うにいたった。生物に内鼻孔が出現した直後は、外鼻孔の直下すぐ近くに開口していたが、その後の進化に伴って内鼻孔は後退し咽頭に近づいていった[3]。そのため、内鼻孔は後鼻孔(こうびこう)とも呼ばれる。ただし、硬骨魚類の前外鼻孔・後外鼻孔をそれぞれ単に前鼻孔・後鼻孔と呼ぶ場合もあるので混同しないよう注意が必要である。
内鼻孔の起源

内鼻孔の起源に関しては大きく分けて、鼻腔から口蓋部へ開いた新規の開口だと考えるものと、硬骨魚類が既に持っていた後外鼻孔が口蓋部へ移動したものだと考えるものがある[4]

硬骨魚類の鼻孔と口唇の間には三叉神経の第二支である上顎神経が後部から前部へ走っている。後外鼻孔が徐々に下へ口蓋部へと移動したならば上顎神経はそれに押し込まれて共に移動するはずである。その場合、口蓋部において上顎神経は内鼻孔(後外鼻孔)の内側を通ると推測される。ハイギョが持つ内鼻孔は実際にそうなっているため、ハイギョの内鼻孔は硬骨魚類の後外鼻孔であることは古くから認識されていた。一方、四肢動物では上顎神経は内鼻孔の外側を通っている。また、四肢動物の内鼻孔が移動してきた後外鼻孔であったとすると、前上顎骨上顎骨に並ぶ連続した辺縁歯列を越えて口蓋に入らなければならない(ハイギョには辺縁歯列はなく口蓋に複合歯板が位置する[5]ためこれは考慮に入れなくて良い)。つまり後外鼻孔が四肢動物の内鼻孔となるためには、上顎神経と上顎歯列を分断して後外鼻孔が通過した後それらが再結合させられる必要があることを意味する。これは非常にあり得ないことだと受け止められ、よって四肢動物の内鼻孔は新たに口蓋に開口した新形質でありハイギョの内鼻孔とは単なる収斂でしかない(そしておそらく後外鼻孔は鼻涙管となった)という説の論拠となっていた[6]

しかし、1993年に中国雲南省の3億9500万年前の地層(穿洞累層:Chuandong Formation)から肉鰭類の Kenichthys が発見されたことにより事態が変化した。この化石を詳細に調査すると、後外鼻孔が前上顎骨/上顎骨接続を分断する形で辺縁歯列中に開口しており、これは後外鼻孔が内鼻孔に移行するまさに中間段階であると考えられた。あり得ないとされていた中間段階の実例が発見されたことにより、四肢動物の内鼻孔が後外鼻孔に由来するという説は大きな後押しを受けた[4]。この化石が示すのは上顎歯列が実際に分断されていたという事実のみだが、さらなる研究によって上顎神経と内鼻孔の位置関係に関する問題についての解決も得られる可能性がある。この化石の報告者は、より進化した四足動物では神経と歯列は内鼻孔の外側に再構成された可能性を提示している[6]
進化
無顎類

化石記録によるとケファラスピスを初めとする頭甲類[7]、ヤモイチウスなどの欠甲類[8]では、鼻孔(外鼻孔)は1つである単鼻孔であり、正中線上に開口していた。一方で、プテラスピスに代表される翼甲類(異甲類)は2個の鼻孔を持っていたことが判明している[8][9]。現生の無顎類がどの分類群に近いかは多くの説があるが[10]、いずれにせよ、現生のヤツメウナギ類・ヌタウナギ類ともに、鼻孔は1つしかない。

頭頂部に開口するヤツメウナギの鼻孔は盲嚢状であり、化石種の単鼻孔も同様の構造だったと推測されている[11]。盲嚢状の鼻孔は鼻嚢と呼ばれ、ヤツメウナギでは下垂体と接している[11][10]ヌタウナギの一種。触手の間に単鼻孔が開口する

一方で、前端に開口する[11]ヌタウナギ類の鼻孔は盲嚢状ではなく、後端が咽頭部に開口している[12][13]。これは口で獲物に吸い付いたまま鼻孔を通して呼吸することが出来るための適応だと考えられている[12][14]。ここで、鼻孔で呼吸が可能であるという点は、後の内鼻孔類と同様の形質である。しかしこれは明らかに平行進化の産物であり、ヌタウナギ類の咽頭開口部と内鼻孔類の内鼻孔は収斂による相似器官でしかない。そのため一般的に、ヌタウナギ類が持つ器官が「内鼻孔」として言及される例はほとんど無い。

この単一の鼻孔という物は、その数からいってもそれを持っているのが現生脊椎動物で最も原始的とされている点からいっても一見原始的な形質であるように思えるが、実際の所それが本当に原始的形質なのかどうかは実ははっきりしない[12]。化石記録においても、鼻孔を2個持つ翼甲類は頭甲類や欠甲類の後に現れたのではなく、むしろ先駆けて出現している[9][15]。また1つしかない嗅窩を支配する嗅神経も有対であり[16]、さらに発生学上もヤツメウナギの幼生の鼻嚢は成体とは異なり腹側に位置し2分葉であることが明らかとなっている[17][12]
魚類

顎を持ち始めて以降の魚類は全て有対の鼻孔を持っている。軟骨魚類であるサメ類では嗅覚が非常に発達しており、1対の鼻孔は吻部下部に開口している[1]。皮膚が張り出して中央部で接することにより、各開口部が2カ所に仕切られていることもある[18]


軟骨魚類(Carcharias taurus ) の1対の鼻孔硬骨魚類(Acipenser brevirostrum ) の2対の鼻孔(前外鼻孔と後外鼻孔)

現在の支配的魚類である硬骨魚類では基本的に鼻孔は2対となる。前述のように、前の1対を前外鼻孔、後の1対を後外鼻孔とよぶ。前外鼻孔から入ってきた水は、鼻嚢底にある嗅層板に接した後、後外鼻孔から出て行く[18]。前後の外鼻孔は大きく離れている場合もあるが、ほぼ同じ場所にある場合もある。近接して位置している場合、隣接した前後の外鼻孔の間から仕切板が突出していることがあるがこれは整流のためである[18]。多くの硬骨魚類は主鼻嚢のほかに副鼻洞を持ち、これを用いて静止時でも鼻嚢に水を出し入れして臭いを嗅ぐことが可能である[18]

硬骨魚類の中の一部が進化して肉鰭類となったとき、初めて内鼻孔を獲得した。鼻孔と口腔がつながっている魚類でも鼻孔が外気呼吸に用いられることはなく[12]、この内鼻孔も元来は副鼻洞のように鼻孔に水を導くための適応として進化したのではないかと考えられている[19]。いずれにせよ内鼻孔はこの仲間から進化した四肢動物にも受け継がれていくこととなった。
両生類

最初期の両生類であるイクチオステガなどでは鼻孔の位置や発達程度は先祖の総鰭類と大差なく[20]、外鼻孔は口縁のすぐそばに開口していた。


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